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第4部 皇帝の帰還

大聖堂の戦い

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クリフの剣劇はヴィトの剣の刃が、重なる事により、回避される。
だが、クリフが吹き飛ばされる事はない。クリフは机の上に乗り、再びヴィトに向かって斬りかかる。
ヴィトは今度も剣の刃を横にする事で、自分に剣劇が当たる事を防いだが、クリフはそのままヴィトを斬り殺そうとはしなかったようだ。
一旦、ヴィトから離れ、もう一度斬りかかる。
今度は、ヴィトのベストが少しばかり破かれた。
「危ない奴だ……もう少しで、俺を真っ二つにする予定だったらしい……」
ヴィトはクリフの余裕そうな顔を見ながら、毒付く。
「キミの予想は当たらずとも遠からずというべきだろうかね、私は真っ二つにするつもりなんて、さらさらなかったよ、キミの心臓を斬る予定だったからね、それにしても、普段は宰相閣下などと言いながらも、私一人倒せないようではな、ヴィト・プロテッツオーネと言ったかね?到底、陛下を倒した人間とは思えんな、陛下の強さは私自身も認めていたんだ。例え、立場が違えどもな」
クリフはヴィトの目の前で、右腕で剣先を突きつけながら言った。
「エドワードを倒してから、二年もの月日が流れているんだ……少しばかりは腕が鈍ってしまってもしょうがないだろ?」
だが、ヴィトの言葉はクリフからすれば、言い訳にしか聞こえない。
クリフはもう一度、ヴィトに剣で斬りかかる。ヴィトは今度は自分自身も斬りかかる事によって、不利な状況ではない場所で、剣と剣を重ね合わせる事に成功するのだが……。
クリフはどこか余裕ありげな様子だ。何故なのだろう。この斬り合いにおいては、自分がこの場を制覇しているというのに。
クリフはそんなヴィトの疑問が分かっていたかのような口ぶりで言った。
「何故、私に余裕が出たかって?簡単だよ、このまま、もう少しばかり私が力を込めれば、この場を制することができると、判断したんだからなァァァ~!!! 」
クリフの言う通りだ。クリフの剣を持つ手が強くなったような気がした。
と、その瞬間に、ヴィトは自分の剣を持つ両手が震えている事に気がつく。
どうしたのだろうか。いや、これはクリフの言っていた『この場を制する』と言う言葉をこの場に体現したものなのだろう。
ヴィトは何とか、それこそ歯を食いしばってまで、その場を耐え抜き、互角の体制を維持する。
「危なかったな、ヴィトさんとやら」
「確かに、おれの力は弱体化したかも知れんな、だがな、お前なんぞに負けるわけにはいかないッ!」
ヴィトはそれから、演説を行う前の政治家のように大きな息を吐いてから、マリアに向き直り、
「マリア聞いてくれよ! おれは負けない! 会談を妨害し、おれの人格まで否定して、更には人の来歴まで侮辱するッ!そんな事はおれ達フランソワ王国は絶対にしないッ!おれ達は真面目にやっているッ!相手を誹謗中傷するのだけが、得意な奴に……過去の恨みにばかり囚われているような奴らにッ!おれは負けないッ!こんな人達に負けるわけにはいかないんだッ!」
『こんな人』というヴィトの言葉が胸に刺さったのだろう。
クリフの剣に込める力が、先ほどよりも更に増してくる。
「ふざけるなよ、お前のような椅子に踏ん反り返っている奴に、おれやニコラスのような成り上がりの気持ちが分かるものかよ……何が『こんな人』だ……このクソ野郎めッ!」
クリフはあまりの怒りに冷静さを欠いたのだろう。何度も、何度もヴィトに向かって剣を振り下ろす。
その度に、ヴィトは自分の剣の刃先に相手の刃を重ねて、自分の身に当たるのを回避する。
「国民?お前やお前らのような帝国正教会の連中に向かって、言ったセリフだぜ、誰に向かっての発言だと、勘違いしたんだい?クリフさんとやら?」
その瞬間にクリフは完全に冷静さを失ってしまった。雄叫びを上げて、闇雲に剣を振り回す。
孝太郎は未だに何をしでかすのか分からない、サンドーラに銃を構えながら、ヴィトのやり手ぶりに関心せざるを得ない。
(ワザと、批判されるような事を言って、更に相手を批判する事によって、完全に冷静さを失わせたわけか……)
孝太郎は銃をサンドーラに突きつけながらも、ヴィトに心の中で拍手を送る。
と、その時だった。孝太郎は真横に気配を感じた。
「おっと、危ない……危ない」
孝太郎に向かって来ようとしたのは、司教のアイザック・ロアン。
アイザックは中世ヨーロッパの騎士が使う短剣を構えていたので、孝太郎の脇腹を刺すつもりだったのは間違いないだろう。
「惜しかったですね」
「おれを刺すつもりだったのか?」
孝太郎は銃口をアイザックの顔の近くに突きつけながら言った。
「勿論そのつもりでした。ですが、あなたの行動は予定外の行動だったんです」
アイザックは肩を大げさにすくめながら言った。
「あなたの意識は完全に大司教に集中しておりました……ですから、私がその隙を突いて、あなたの脇腹をね」
ここで、アイザックは短剣を突き刺す真似をしてみせる。空気を切る音が孝太郎の耳に響く。
「本当に惜しかったですよ、これは歴代の司教が自分の身を化け物や盗賊やらから守るために作られた武器なんでね……そりゃあもう、鋭く刺さりますよ」
そんなに鋭く刺さるのなら、是非とも、武器保存ワーペン・セーブに保存したいなと思った孝太郎だったが、神に仕える聖職者であり、神が答えを教えてしまうからだからだろうか、それともそんな簡単な思惑なら簡単に見抜けるのだろうか。
アイザックは意味深な微笑を浮かべながら言った。
「一応、ご説明させていただきますと、このナイフは代々正教会の司教に受け継がれてきたもので、ナイフの状態維持のために代々魔法をかけて、この状態を維持してきたんです。ですから、あなたが仮にこのナイフを手に入れたとしても、保存を保つための魔法が無ければ、扱うのは難しそうですね」
相変わらずの大きな店の主人が命令すれば、靴でも舐めそうな太鼓持ちのような笑顔だ。
孝太郎は癪に触ってしょうがない。
「おやおや、不快な思いをさせてしまいましたか?そう気を落とさないでくださいよ、もしかしたら、何か別の武器を持ち帰られるかもしれませんよ、まあ……仮定の話ですが」
「そんな話はどうでもいいだろう?問題はいつになったら、おれ達から手を引くんだと聞きたいんだよ」
「あなた達から手を引く事は永久にあり得ません……これは、大司教様のご命令という訳ではなく、我々の悲願を果たすための目標でもあるんです」
「竜王スメウルグとやらか?」
「ええ、あなたは何故、先代の皇帝エドワード・デューダレア二世があれ程、オリバニアの統一ともう一つの世界の侵略に情熱を注いでいたのかをご存知ですか?」
「あいにくと、おれは未来から来た人間で、ヴィトの仲間になったのも最近だ……そんな事は知らん」
「なら、教えて差し上げましょう」
アイザックはナイフをお手玉のように放り投げ、それを上手く受け取り、また放り投げるという遊びを繰り広げながら言った。
「彼、個人に野望があったのも事実ですが、もう一つの目的としては、世界を統一し、竜王スメウルグに対抗する事だったんですよ」
「だが、目論見は外れてしまった?」
「ええ、フランソワ王国の造反にエルフが見捨てた事……それに、ヴィト・プロテッツオーネの活躍により、彼の目論見は封じ込められました」
「それは分かった。だが、何故お前たちはスメウルグを復活させようとする?」
「簡単ですよ」
アイザックのその言葉には心の底から楽しいと言うような心情が含まれている。
「彼が自然に復活するよりも前に、我々が復活させて、恩を売ろうという訳なんですよ、そのために、開祖アランゴルンがスメウルグを封印した場所の上に築いた大聖堂の上に住みながらも、スメウルグを復活させようとしているのですから」
孝太郎はアイザックにゴミでも見るかのような視線を送ってやる。
だが、アイザックには効果はないようで、相変わらず笑い続けている。
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