魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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第4部 皇帝の帰還

嵐の予兆ーその⑦〜竜王の神話

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だが、凄いですねと言ってヴィトへの攻撃を許すわけにもいかないだろう。
孝太郎はもう片方のクリフという騎士に向けて、銃口を向ける。勿論、気づかれないように。
何故かと問われたら、ヴィトがサンドーラを射殺した瞬間に、いつでもクリフを再起不能にさせるためである(孝太郎としてはあくまでも、再起不能に止めるつもりだ)
だが、クリフはそんな孝太郎の懸命の努力にも関わらずに、孝太郎の方向をチラリとも見る事はなく、ずっと銃口を突きつけられたサンドーラの方ばかり見ている。
ヴィトは相変わらず、冷静な様子で、サンドーラに質問を続けている。
「では、次の質問に入ろうか、言っておくが、お前に拒否権はないからな、おれの質問にイエスか、ノーのみで答えろ、尚、嘘を言った場合も、この拳銃から弾が飛び出るから、覚悟しろよ……」
「ワシは聖職者だぞ、嘘をつく理由なんてないね」
サンドーラの言葉にアイザックもつられたのだろうか、くっくっと音を立てて笑っている。
「成る程、あんたらの言葉を信じるとするか……おれも信心深い方でね、あまり牧師やら神父を殺したくはない」
口ではそんなセリフを吐きながらも、銃が震えていたり、かすかにも眉をひそめているという様子が微塵も感じられない事から、その言葉は嘘なのだろうと判断される。
いずれにしろ、ヴィト・プロテッツオーネという男は根っからのマフィアに違いない。
この世界の普通の王族やら騎士やらなら、こんな駆け引きを演じたりはしないだろう。
ヴィトだからこそ、できたマフィア式のやり取りに違いない。
孝太郎の関心もよそに、サンドーラは相変わらずヤニだらけの真っ黄色な歯を見せながら、
「そうか、ならばお前にも話しておくとするよ……ワシらの目的は竜王スメウルグ様の復活……」
「竜王スメウルグだと!?」
ヴィトの目がかすかに瞬く。それにしても、竜王スメウルグとは何のだろうか。
すると、ヴィトがサンドーラに対する返答という形で、孝太郎に答えを教える。
「竜王スメウルグ……かつて、この地に封印されたと言われる、忌まわしき暗黒の竜……」
「その通り、流石はフランソワ王国の宰相閣下と言うべき人物でしょうか、よく勉強していらっしゃる」
いつものいけ好かない笑顔を浮かべて、拍手を送ったのは、アイザックで間違いないだろう。
ヴィトはアイザックに感謝の言葉を送る代わりに冷たい視線を送ってやる。
「おや、これは手厳しい……では、竜王スメウルグの恐ろしさも勉強なさったのでは?」
「そんな事をワザワザ聞く必要があるのか?」
「確認ですよ。これから、あなたに降りかかるであろう、大いなる災厄へのね……」
ヴィトはこの世界『オリバニア』の神話を思い返す。



竜王スメウルグはかつて、未知なる大いな区域と人間の区域の境目となる森が広がっていなかった時に、ある翼を生やした凶悪そうな顔をした生物。すなわち、竜の集団がいた。
その、竜の集団は大人しく、争いを嫌ったのだが、スメウルグは違った。
スメウルグは根っからの悪人とも言うべき人物で、戦力となるためのオークの製造や、亡霊兵の操作。
そして、自らの巨大で、強靭で頑丈な体と空を自由自在に移動できる悪魔の如き翼、そしてこの世の全てを焼き尽くすとさえ言われた炎を使い、オリバニアを。
いや、全ての世界を恐怖のどん底に陥れた。
人間たちは彼に対抗するために、エルフから魔法を習い、更には自分たちでも魔法を編み出し、使っていったのだが、スメウルグにとっての人類の抵抗は蟻の集団が人間に立ち向かうかのように虚しいものだった。
魔法師や魔法を使った武器を持つ魔導士たちが次々と死んでいく中、スメウルグ退治に名乗りを上げたのは、一人の青年だった。
そう、二つの世界の救世主にて、ギシュタルリア帝国初代皇帝たるアランゴルン・ゴンゴール一世。
アランゴルンは一本の見事な剣を見せて、スメウルグの襲撃に怯える、村人たちに向かってこう言ったのである。
「もし、おれがスメウルグを倒す、或いはどこかに封じ込める事ができたのなら、おれを皇帝にしてほしい、この世界の全てを支配する皇帝にな……」
村人たちはアランゴルンに約束を守ると言い、スメウルグ退治に向かうアランゴルンを見送った。
それから、1ヶ月ほどの時が経った時だ。スメウルグが現れる事なく、平穏な時を過ごしていた村人たちは、その日の午後に、アランゴルンが眩い太陽のような笑顔を浮かべて、帰還するのを迎え入れた。
「スメウルグを封じ込めた。約束通り、おれを皇帝にしてくれ」
『スメウルグを封じ込めた』その一言が村人たちを。
いや、全世界の人々を安心させた。直ちにアランゴルン・ゴンゴールはギシュタルリア帝国を建国し、民に善政を施し、エルフとも友好な関係を築き上げたが、問題は彼の死後発生した。
アランゴルンの息子エドワード・デューダレア一世は帝国の防備のためと称して、帝国内に広大な区域の魔物やスメウルグの使役していた魔物を迎え入れ、魔法の導入を進めて、軍備を増強していく。
これが、いけなかった。
エルフの王はエドワードに抗議し、軍備を縮小しなければ、人間の住む区域と広大な区域とを分断すると宣言した。
エドワードがそれに従わなかったために、本当に広大な区域と人間の世界との間に境目が発生したのだ。
だが、エルフの中にも人間の側につき、中には二つの世界を行き来する魔法を使い、アフリカ大陸の部族に魔法を教えた事もあるらしい。
その魔法を覚えたのが、メアリー・クイーンズであろうし、その魔法を紐解き、現代魔法として活用したのが、ヤン・ウィルソンなのだろう。
ヤン・ウィルソンが古文書から発見したのは、人間の中に備わっていると思われる魔法を使えるように施す呪文。
これにより、未来では一般の人々でさえ、魔法を難なく使用できる。
ヴィトはオリバニアの神話から導き出した、自分の推理を思わず自分で褒めたくなってしまう。
だからこそ、自分から見て、右の方で拳銃をいじっている、孝太郎にヤン・ウィルソンなる人物が唱えた呪文を教えてほしいのだ。
そうすれば、自分も孝太郎のような力を持って、戦えるのだが……。
ヴィトは下唇を噛みしめる。孝太郎は孝太郎で、クリフを警戒するので、精一杯のようだ。
クリフはサンドーラを見るだけで、手一杯のようだが、今はクリフなどどうでもいい。思わず殴りたい衝動に駆られてしまうような笑みを浮かべている司教の顔を睨みつけながら、
「ともかくだな、その災厄とやらは、あんたらにとっても、災厄になりそうだがな、スメウルグにあんたらが気に入られるとは思えんからな」
「気に入られなくても、結構ですよ」
アイザックは大げさに肩をすくめながら言った。
「我々の目的はフランソワ王国を滅ぼし、スメウルグ様に従いながら、全てを手に入れる事なのですから」
「とことん、見下げ果てたゲスヤローだな、お前たちは」
ヴィトはサンドーラに向けていた、銃口をアイザックに向け直す。
「その頭をぶち抜いてやるぜ」
「やってごらんなさい、その後にあなたがどうなるのかは保証しかねますがね」
殺される寸前だというのにアイザックは笑顔を浮かべたままだ。
ヴィトが一瞬嫌悪の表情を浮かべた時だ。
「ウォォォォォォォォォ~!!! 」
クリフが剣を振りかざしながら、ヴィトに向かって突っ込んでくる。
ニコラス同様に、机の上を登って。
ヴィトも鞘から自分の愛剣を抜き取り、突っ込んでくるクリフの攻撃に備える。
そして、クリフがヴィトに斬りかかろうとした時だ。
バァンという乾いた音が室内に響き渡る。
その音に部屋の隅で、斬り合いを演じていた聡子とニコラスも、こちらに視線を向けたようだ。
「ちくしょう……」
ニコラスが絶句したのも無理はない。相棒のクリフが左脚を完全に撃ち抜かれていたのだから。
「これで、戦闘継続は不可能の筈だ」
孝太郎の言葉に、ニコラスは歯を噛み締めるが、サンドーラはそんなニコラスとは対照的に笑顔を浮かべながら、ニコラスの元にまで近寄り、
「さあ、起きなさい……キミはそんな軟弱な体ではない筈だよ」
サンドーラがクリフに向かって、杖を振りかざすと、
「ッ……治ったのか」
ヴィトは歯をガチガチと鳴らしながら呟く。
「さてと、第二ラウンドだな」
クリフは剣を握りながら言った。
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