魔法刑事たちの事件簿

アンジェロ岩井

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聖杯争奪戦編

魑魅魍魎の四国ーその⑥

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石川葵とその手下が、高知城で白籠市のアンタッチャブルと激しい戦いを行なっている頃。
宇宙究明学会の会長、昌原道明は美人の信者に特別な修行を行える事を心待ちにしていた。今回に至っては、入信した信者はロシア人の美人だと聞いている。
昌原にとっての、修行を行う相手の中心は日本人の女性なので、外国人の女性に特別な修行を行えるというのは、やはり特別な事であった。そんな事を考えていた時だ。昌原の四国支部のドアがノックされる音が聞こえる。
「失礼します。ミーチェです。今晩は昌原道明会長が、特別な修行を行ってくれるとの事なので、わたくし……今から緊張しておりますの」
頰を赤らめているメガネのロシア人の女性は、昌原の胸を激しくときめかせた。それは、中学生がクラス一番の女子に心を動かすのと同じようなものであり、昌原にとってのギムジナウム時代からの癖の一つであった。
「緊張することは無い、この場ではお前と私の一対一の修行なんだからな」
昌原はそう言って、自分のベッドに来るように手招きする。
ミーチェと名乗るメガネのよく似合う美人は、恥ずかしそうに昌原のベッドへとやって来る。
「さてと、まず始めに言っておくがな、お前には悪いマントラが付いておる」
その言葉にミーチェは頰を青くする。誰だってそうだろう。自分が信じている教祖から、悪いマントラが付いているなんて言われたら、顔面を蒼白になってしまうだろう。自分だってそうだ。と、昌原が一人で納得でしていると……。
「お願いです! 昌原会長! わたしの悪いマントラを取り除いてください! 」
懇願するように昌原を見つめる。守ってくださいと懇願しているかのように。
昌原はミーチェを可愛らしいと思う反面、つい無意識のうちにカサカサの唇を舐め回していた。
余程、ミーチェの事が可愛らしいと思っていたらしい。こんな事では、教祖としての威厳が保てないではないか。
昌原はミーチェにそう言ってやりたかったが、そこは言ってやらない事にする。
弟子のダメな部分を受け入れてこその教祖ではないか。昌原は不安がるミーチェなる女性を優しく抱擁してやる。
「大丈夫だ、お前の悪縁は必ず、ワシが払ってらやるから」
ミーチェは昌原道明という男の嘘偽りのない言葉に思わず心が揺さぶられてしまう。彼は心から自分の事を思っているのだと。
今までの男連中は誰もかもが、自分の頭脳を利用しようという連中ばかりだった。イワンも例外ではない。
イワンは自分の恋人を気取っていたが、恐らく内心は同じだろう。自分の頭しか見ていない。昌原に出会うまでは、利用されている事に気が付いていなかったのだ。男は所詮自分を利用するために……。
今回のトニー・クレメンテの例がいい例だ。あれが自分の利用ではなくては何なのだ。ミーチェは宇宙究明学会に心から入信する事を決めた。
ミーチェも昌原を抱き返す。
「どうしたんだね、ミーチェ……そんなに抱きつかれては、ワシは身動きが取れんな」
口ではそうは言っていたが、昌原の言葉は父親から娘へと出るような優しげな言葉であった。
「お願いです! 許してください! 昌原会長!! わたしはあなたを利用しようと……」
ただ事ではない様子に昌原は特別な修行を一旦やめて、ミーチェに事情を尋ねる。
ミーチェから一通りの情報を聞き終えると、昌原はまず怒りに駆られた。自分を殺そうとしたのだ、許せない。
だが、彼女は心底から反省しているようだし、トニー・クレメンテが向かい側のビルから自分を狙っている事も聞き終えた。
それに免じ、ミーチェは改めて自分の弟子にしてやってもいい。昌原は怯えるミーチェを再び抱き締めてやる。
「大丈夫だ、お前も苦労したらしいな、よく戦った……お前はもう一人じゃあないんだ、安心して、ワシの教えに従いなさい」
昌原は最後に優しく頭を撫でてやる。ミーチェは幼い女の子のようにワンワンと泣き出す。
それから、昌原は気の済むまでそこで泣いていなさいと、ベッドにミーチェを放置し、カーテンを閉め、寝室を跡にする。
すぐに自らの護衛を務めていた、東信徒庁の長官に向い側のビルにトニー・クレメンテが自分を狙っている事を伝える。
「いいか、少しでも早く、トニー・クレメンテを捕まえるんだッ!このビルにいる信者全員を総動員してもいい!! だから、絶対にその殺し屋をワシの前に引き摺り出せ! ワシが直々に宇宙に返してやる……」
昌原の剣幕に睨まれては、東信徒庁の桃田恵は小さな声で肯定の言葉をつぶやくしかない。あのトニー・クレメンテなら、いくら信者を動員しても、捕まえられないのではないかという言葉を飲み込んででも。



瀬戸大橋では、相変わらず船上での激闘が続く。滝川と荒井は相変わらずの手刀或いは拳での激闘を続けていた。
「どうだ、もっと来たら、いいだろう! 」
荒井はあくまでも受け身の滝川を挑発し続ける。手招きまでしている有様だ。
「いいや、おれは下手に動きたくはない主義なんでね! 遠慮しておくよ! それより、キミこそそんなみっともない手足をフラフラとさせてないで、こっちに掛かってきたら、いいじゃあないか! 」
滝川は挑発に挑発で返す。
「いいや、それはお前の方だぜ! 」
荒井はそうは言いつつも、滝川の挑発が効いたらしい。こちらに手刀を繰り出してくる。
滝川はまた寸前のところで、右か左に首を避けて交そうと思ったが、そこに思いも寄らない罠が待っていた。
手刀から、凄まじい衝撃波が放たれた。
「な、一体何が起こっている!?」
滝川は思わず、船の端にまで吹き飛ばされる。荒井はツカツカと距離を詰めてくる。
「魔法だよ、おれの魔法を使ったんだ、おっと、今後お前に警戒されては困るからな、名前とどんな魔法を使うのかは内緒だ、お前を倒した後には、横に立っているあのメガネの女にもコイツを喰らわせてやるぜ」
荒井は衝撃波を作り出すオーラの付いた手刀を見せながら言った。
「やってみろよ! そうなる前におれが止めやるぜッ!」
滝川は唾を海に吐き捨てながら言った。
「そこは、血反吐を吐くもんじゃあないのか?まぁ、血反吐を吐くほども一生懸命に戦っていないからな、お前のような表面だけ、頑張っていると取り繕っているような奴に、おれが倒せるとは思えん」
荒井は手招きで、更に滝川を挑発する。
滝川は挑発に乗る事を選んだらしい。右ストレートを荒木に向ける。
荒井は滝川が激昂した際には、その行動を予測していたらしく、右ストーレトを自分の右手の掌で受け止める。
「ふん、だから言っただろう?お前の攻撃なんて、無駄なんだとな」
と、ここで滝川に変化が起きたのを荒井は見逃さない。なんと、あろうことかクックっと笑い出したのだ。
「お前さぁ、周りをよく見ないのは、悪い癖だって言われなかったか?」
その言葉に荒井は太く整った片眉を動かす。
「どういう事だ?」
「この拳には予め、魔法を最小限にとどめていた事、それに時間が経つにつれて、その魔法が爆発するように計算した事……」
「ま、まさか……」
そう、その「まさか」だ。滝川の拳が眩いばかりの閃光に包まれ、気が付けば、荒井は教団のヨットの端に吹き飛ばされていた。
腕はまだ痺れている。自分の魔法を衝撃波を放つ所ではないだろう。
油断した。荒井は部下と共に彼ら3人に銃口を突き付けられながら、自分の反省点を省みる。
自分の魔法素直な力スティーフォースは拳に衝撃波をくっ付ける魔法。
だからこそ、純粋な戦闘能力は高い方だと自負していた。それが、こんな奴に。
荒井は悔しさでいっぱいだった。



全員が、応援の警察に連れられていく中、柴田は不意に滝川の魔法の事を聴きたくなる。
「そう言えばさ、あんたの魔法……どんな魔法だっけ?」
滝川はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの満面の笑みで答えた。
「おれの魔法は複雑な力コンプレックス・パワーですよ、荒井の魔法と同じで、その場で拳に衝撃波をくっ付ける事もできるんですが、自分さえ念じれば、好きな時に拳にくっ付けた衝撃波を大きくする事ができるんですよ」
相変わらずの強さに柴田は苦笑した。
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