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聖杯争奪戦編

魑魅魍魎の四国ーその⑤

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葵は思わず、片眉を上げる。やはり、彼は信頼すべきでは無かったのだ。葵の目と鼻の先には、45口径のオート拳銃が突き付けられている。
「動くなよ、動いたら、あんたの眉間を打ち抜くぜ」
「劇画の主人公でも気取っているのかしら?お生憎様、そんな事をしても、全然格好良く映らないわよ」
葵は腕を組みながら言った。まだ、余裕はあるらしい。
「心配するな、あんたが抵抗しなければ、オレは撃たないよ」
「また拘束されたいの?」
「できるもんかよ、あんたはオレに銃口を突き付けられているんだぜ」
孝太郎の手は震えていない。いざとなれば、引き金を引くだろう。葵は死ぬのはいや、宇宙に変換されるのは、別に怖くはないが、昌原会長の役に立てずに死ぬのだけは嫌だった。
葵は一か八か孝太郎を挑発してみる事にした。
「あたしを撃つの?あなたがそうしたいのなら、そうしなさいな、でもね、あなたには後味の悪いものが残るわよ、丸腰の人間を撃ったんだというね……一生その罪悪感に襲われるのよ、それでもいいの?」
葵は逆に詰め寄ってくる。まるで、撃たれるのを望んでいるかのようだ。
「どうなの?本当は殺すのが嫌なんじゃあないの?過去に犯人を射殺して、何かトラウマでもあるんじゃあないの?」
孝太郎は何も答えない。沈黙を保っている。
「その様子だと、図星みたいだわ、そうだわ、撃たれる前に聖杯の欠片を踏み潰してやるのもいいわね、あなたは多分懲戒処分になるだろうし」
葵は満面の笑みだ。まるで、孝太郎の吠え面が見れるのなら、死んでも惜しくはないとでも言わんばかりの。
「どうする?」
「……」
孝太郎は決断に迷っているのだろう。銃口は突き付けているものの、手が震えているのは明白だ。
「ふふふ、あなたも人間らしいところがあるのね、冷酷非情な策士だとばかり思っていたんだけれど、そうでもないらしいわ、あたしあなたを気に入ったかもしれない」
葵は心底嬉しくてしょうがないというばかりの笑いを浮かべている。そして、孝太郎の銃を奪い取り、
「今度あたしを殺したいのなら、レーザーガンを用意する事ね、あたしの鎖はレーザーなら、焼き切れるから」
銃が放り投げられる音を孝太郎は耳にする。今度こそ、葵を仕留めよう、そう心に決めた時だ。葵に右腕を掴まれた。
「無駄よ、あなたはもうあたしに勝てないのよ、残念ね、孝太郎くん」
葵は資料に書かれた年齢以下に見える、美しい女であり、彼女が笑うと、孝太郎も少しばかり胸が熱くなっていたのは事実だ。
そんな孝太郎を見越してか、葵は耳元で囁くように優しい声で言った。
「ねえ、人間ってやらずに後悔するよりは、やって後悔した方がいいって諺があるわよ?諺だったかしら?それとも、誰かが言い始めた単なる言葉?どうでもいいけれど……」
「何を言っているのか、分からないんだが」
孝太郎の言葉は正論だった。葵が何をしようとしているのか、今の孝太郎には理解できない。銃で撃つ気なのだろうか。それとも、再び鎖で繋ぐ予定なのだろうか。
「ともかくね、あたしはあなたが気に入ったのよ、そりゃあ、あなたは会長な智くんには負けるけど……あたしの好みなの、だから、あなたが宇宙に変換される前にいい思い出を残してあげようというわけ」
何を言って……という孝太郎の言葉は遮られた。他でもない彼女の口付けによって。
お互いに重なった唇。葵の麗しい唇の感触が孝太郎にも伝わってくる。甘い味だ。
だが、好きでもない女性とのキスは孝太郎にとっては、屈辱そのものだった。とにかく、この場に姉がいなくて、ホッとした。孝太郎の感想はそれだけだ。
孝太郎は荒い息を吐きながら、地面に突っ伏す。お手上げだ。どうしようもない。
「あたしの勝利ね、さあ、聖杯の欠片の場所を教えてもらおうかしら?」
孝太郎が放心状態に陥ったのとほぼ同時に、
「あなた、孝ちゃんに何をしたの?」
姉だ。とっくに葵が連れていた仲間を倒したのだろう。レーザーガンを構える右手と手錠を掛けられた白いクルタ服の男が見える。
絵里子は葵を親の仇。いや、先祖の仇でも見るかのような目で睨みつけていた。
「あなたの大好きな弟に聞いてみるといいわ、あたしが何をしたのかを……最も、簡単に教えはしないでしょうけど」
葵は戦場で、大将を討ち取りこれからの出世を約束されている足軽のような勝ち誇った笑いを絵里子に向ける。
絵里子はそんな葵とは反対に絵里子は親の仇でも睨みつけるかのような、憎悪に包まれた、顔をしていた。
「あなたがね、何をしたのかは、大体が察しが付くわよ、ふん、小汚いババアがあたしの孝ちゃんを深く傷つけた事もね……」
絵里子はもはや修羅だ。少なくとも、孝太郎は姉が今まで見た事もないくらい、怒っているのを確認した。少なくとも、孝太郎の知っている姉ならば、「ババア」なんて、口汚い言葉を使わなかった筈だ。
「でもね、お嬢ちゃん……弟くんが負った傷は一生涯消えないのよ、そうだわ、あなたにも同じ事をしてあげましょうか! 意外と喜ぶかもしれないわ! 」
「……」
絵里子は頰を紅潮させている事から、怒っているのだろうが、言葉には表さない。
それに調子付いたのか、葵は侮辱の言葉を続ける。
「あなたは意外と好きそうだものね! あたしの見立てでは、そんな感じよ、あなた」
「……」
「アハハハハ、答えられないの?なら、いいわ、代わりにあなたの大事な弟くんは
「黙れェェェェェェ~!!! このクソブスババアがッ!ゴミ箱の生ゴミにも劣るくらい、汚らしい奴が、よくもそんな事を言えるな、ゴルァァァァ~!!! 」
絵里子の堪忍袋の尾が切れたらしい。活動を続けていた、火山がようやく噴火したような激しい怒りで、叫ぶ。
「テメェのその唇をよぉ~髪でも引っこ抜くかのようにブチリと引っこ抜いて、鯉の餌にでもしてやろうか?え?」
絵里子はレーザーガンを葵に向かって何のためらいもなく発射する。葵は絵里子のレーザーガンから放たれたレーザー光線を左に避けて回避してみせる。
「あらあら、大分下品になったわね、それがあなたの本性かしら?そんなんだと、弟くんにも嫌われちゃうわよ」
葵は余裕の表情だ。口元の端に笑いを浮かべてさえいる。
「黙れっつんてんだろッ!」
絵里子は引き続き、レーザーガンからレーザー光線を発射する。葵はそれを次々と避けていく。
「ねえ、こんな勝負に生産性はないと思わない?それにあたしに当てることばかりに夢中になっていいの?弟くんに当たっちゃうかもしれないのに」
その一言で、絵里子はハッとして、周囲をキョロキョロと忙しくなく見渡している。
「自分で撃っておいて、不安になったのかしら?」
「ええ、油断していたわ、まさかこのあたしが正気を無くすなんてね……」
孝太郎は小さい頃からの姉を知ってはいるが、こんなに怒ったのは初めてだと思わざるを得ない。それに優等生な姉らしくもない振る舞いだ。それにあんな言葉も聞いたことがない。あまりの変貌ぶりに世の中には自分には到底理解できない世界があるんだと認識せざるを得ない。
「でも、もう大丈夫よ! あなたなんかに絶対に負けないわ! 」
「やってみなさいよ、あんたの魔法ごときで、対処できるのかどうかは甚だ疑問なんだけれどね」
葵は自分の強みである鎖を取り出す。そして、その鎖を絵里子に向かって投げ付ける。だが、絵里子はその鎖が自分の方に向かってくるや否や、創造神クリエティブ・ゴッドから、ハンマーを作り出し、葵に向かって投げ付けた。
そのために、葵は絵里子の攻撃用に繰り出した鎖を引っ込め、絵里子のハンマーの拘束に使わざるを得なかった。
葵は鎖を使い、ハンマーを聖杯の欠片や孝太郎に当たらないように、慎重に投げ飛ばす。
「第2ラウンドの開始よ」
絵里子は既に怒りを引っ込めていた。その顔には仇を討てそうで、心底喜ばしいという表情を浮かべていた。


フォロワーのぴのしーさんから、素敵なイラストを頂きました! ありがとうございます! 『シニョリーナ・エスコート・トラベルズ編』のジェスちゃんとコニーちゃんです! 二人ともすごく美人です! 重ね重ね言います。本当にありがとうございます! 

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