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マスコミ・ウォーズ編
中村孝太郎の休日
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白籠市白籠署公安部の若き刑事である中村孝太郎の休日は質素そのものである。
まずは午前の10時ごろに起床し、そこから簡単な朝食を作る。
半熟の目玉焼きとカリカリのベーコンは孝太郎の得意料理だ。
それを食べ終えた後に、食器を片付け、身支度を整えてから、前日に仕事の帰りに寄った時に借りたレンタルDVDを鑑賞する。
今回借りてきた映画は日本版アメリカンニューシネマの傑作選とも言うべき、『ハイスクール・スチューデント』という映画だった。
この映画の主人公は文字通り高校生で、この高校生を通じて、親や教師と言った大人への反抗が描かれている。
だが、そんな主人公も塾の美人の先生に会って、恋心を抱く。
だけれど、大人への反抗心は変わらず、しかもお互いに愛し合ったのに、主人公とその塾の先生の親は一向に二人の結婚を認めない。反発の末にその時代の大人の象徴とも言うべき時の内閣総理大臣の暗殺に向かい、その総理大臣を殺してから、愛する塾の先生に向かい、二人で心中するという暗い話だ。
孝太郎は一通り見終わってから、こんなDVDを借りてしまったと後悔した。
見終わってから、金を無駄にしたというため息が何度も何度も出てくる。
内容が『タクシードライバー』のパクリの上に詰まらないのだ。何故、塾の先生にする必要がある?同級生とかでいいではないか。
孝太郎は数え切れないほどのため息を吐いてから、DVDを再生機から取り出す。
そして、携帯端末を取り出し、時間を確認する。携帯端末のホーム画面に表示されるデジタル時計は14時を指していた。
「メシでも作るか……」
孝太郎は昨日に姉から貰ったモッツアレラチーズを使って、何かを作ろうと考え、居間を突き抜けた先にある窓付のキッチンに向かおうとした時だった。
「つまり、学会は昨日の弁護士失踪事件には何の関わりもないと仰られるのですね! 赤川弁護士!! 」
その見知った声に孝太郎は思わず、テレビの前に戻ってしまう。急いで、テレビ画面を操作し、画面の脇に見える番組一覧を見て、今やっている番組を確認する。
やっぱりだ。今やっているのは色々な文化人を混ぜて、討論させる人気討論番組『昼から、劇討論』であった。
今回のテーマは宇宙究明学会の悪行を暴く! というテーマらしい。
これまた大胆なと、孝太郎は苦笑せざるを得ない。今のところ宇宙究明学会が犯罪を犯した証拠など何一つないのだから。
「では、お伺いします、あなた方は我々宇宙究明学会信徒被害者の会を教団内で、被害者の会を名乗る加害者の会だと名乗っているそうですが、それらの事についてはどうお考えなのでしょうか!?」
と、追求したふくよかな体型で、メガネをかけたいかにも真面目ですと言わんばかりの男はかつて、月岡源三郎の引き起こした川島製菓毒物混入事件に巻き込まれた坂山忠弁護士であった。
「ええ、事実ですよ、あなた方は信徒被害者の会を結成し、我々の宗教を弾圧しようとしているのです、しかもあなた方が反社会的だと断定しただけで……これは日本共和国における信教の自由を侵害しています! 」
孝太郎は中身はともかくとして、テレビに映るネズミ顔の小物もとい赤坂友信の弁論には感心せざるを得ない。実山聖子と坂山忠は二人とも口の立つ人物だ。この二人を相手に弁論で立ち向かえる人間はそうはいないだろう。
「では、この件についてはどうでしょうかッ!信徒さんの親御さんに確認を取ったところでは、信者の息子さんあるいは娘さんと会おうとしても、会わせようとしない、それくらいならば、まだいいんです……問題は生きているのか、死んでいるのかも分からないという点ですッ!」
実山聖子は実際に信徒の親等から取ったと思われるアンケートの結果を出す貼り付けたクリップボードを赤坂に突きつける。
「しかもあなた方の教祖はオシリス神やイエス・キリストから認められたとか主張して、教祖の血を信者に売り付けているそうですねッ!こんな非常識極まり無い商売が許されていいのでしょうか! 」
忠は聖子に便乗して、教団の実態を暴露する。その言葉に他の論客はもとより、テレビの前の視聴者もパニックに陥っているらしい。
先程から、端末番組に関する記事へのコメントが更新されてばかりだ。
だが、友信はそんな状況にも負ける事なく、不気味な微笑を浮かべているばかりだ。
「では、その件についてお応えさせていただきますと……我々の教団では会長の血液は実際に宇宙の解明に近づいたと、多くの信者は喜んでいます、それに商売というのは日本共和国の法律に書いている通り、相手と相手との合意が設立し、相手が金銭を渡せば、その商品を渡すという義務がありますよね?仮に我々のやっている事が商売だとしても、何の問題はありませんよ、例えばスポーツカーや豪邸を大金と引き換えに手に入れた人や売った人を批判しているのと同じようなもんなんです、これ以上あなた方が喰いさがるのならば、我々としても法的手続きも辞さないつもりですが」
「罪名はどうするつもりですか?」
と、忠は尋ねた。
「我々に対する名誉毀損、威力業務妨害、ならびに宗教弾圧です」
友信は一歩も引かんぞという目で、坂山忠と実山聖子の二人を睨みつけた。
「聞くところによれば、あなた方は公安からマークされているという噂ですが?」
ここにきて、孝太郎の聞いたことのない人間の声が聞こえた。声の主はスーツ姿の30代前半だと思われる男性で、普通の文化人と違い、胸元にバッジを付けていることから、大地千里教の信者だと思われる。
大地千里教の男はかけていたメガネのズレた縁を直しながら、冷たい視線を友信に浴びせていた。
「あれは一部の刑事が勝手に我々を睨んでいるだけですよ、全く今年に入って重大事件の犯人を二人逮捕しただけで、いい気になりやがって」
温厚そうな赤坂友信が悪態を吐いた事にも、孝太郎は両眉を上げていたが、それ以上に驚いたのは友信がオブラートに包んではいるが、明らかに自分たちを批判している事であった。
「いいですか、トミー・モルテの行動ならびに函館における信者の突然死は我が教団とは何の関連性もありませんッ! では、次の質問を……」
話が長くなりそうなので、孝太郎は切り上げて、テレビを切った。切ってから、すぐに携帯端末のデジタル時計を確認する。14時16分だった。
孝太郎が次の映画でも観ようかと、DVDの袋に手を伸ばそうとした時だった。携帯端末のバイブ音が鳴る。電話だ。
孝太郎は無視するのもいいが、出ないと面倒くさいだろうと、電話に出る事にした(何故、無視するのがいいのかと問われれば、いわゆる迷惑メールの類かもしれないからだ)
「あっ、もしもし孝ちゃん?」
電話口の向こうから聞こえてくるのは最愛の姉の声だった。孝太郎は安心して電話に答えた。
「どうしたんだい、姉貴?」
「北海道の旅から戻ってから、あまり時間も経ってないでしょ?」
「ああ、帰ってから、1日だけど、どうかしたか?」
「実はね、孝ちゃんの疲れを癒すために、今晩は巨大銭湯に行こうかと思うんだけど! 」
巨大銭湯。孝太郎のイメージは古き良き時代の銭湯しかない。姉が勧める銭湯とはどんなものなのだろう。孝太郎は姉にどんな銭湯なのかを問う。
「孝ちゃんも知ってるでしょ?あそこよ、あの古代のローマのお風呂を再現したという場所よ! 」
「あそこね」
孝太郎はワザワザ電車に乗らなければならないのかと、思って、絵里子に反論する。
「今から、行って帰ったら、夜だぜ、明日から仕事だし……」
「大丈夫よ! 気合いよ! 気合い! 」
思えは昭和時代の人間かという突っ込みを何とか、孝太郎は飲み込む。
「しょうがない、付き合うぜ」
「本当、嬉しいわ! 」
電話口の向かいで喜ぶ姉とは反対に、孝太郎はため息を吐くばかりだ。孝太郎が絵里子の提案を受け入れた理由は一つ。彼自身もローマの風呂に興味があったからだ。
まずは午前の10時ごろに起床し、そこから簡単な朝食を作る。
半熟の目玉焼きとカリカリのベーコンは孝太郎の得意料理だ。
それを食べ終えた後に、食器を片付け、身支度を整えてから、前日に仕事の帰りに寄った時に借りたレンタルDVDを鑑賞する。
今回借りてきた映画は日本版アメリカンニューシネマの傑作選とも言うべき、『ハイスクール・スチューデント』という映画だった。
この映画の主人公は文字通り高校生で、この高校生を通じて、親や教師と言った大人への反抗が描かれている。
だが、そんな主人公も塾の美人の先生に会って、恋心を抱く。
だけれど、大人への反抗心は変わらず、しかもお互いに愛し合ったのに、主人公とその塾の先生の親は一向に二人の結婚を認めない。反発の末にその時代の大人の象徴とも言うべき時の内閣総理大臣の暗殺に向かい、その総理大臣を殺してから、愛する塾の先生に向かい、二人で心中するという暗い話だ。
孝太郎は一通り見終わってから、こんなDVDを借りてしまったと後悔した。
見終わってから、金を無駄にしたというため息が何度も何度も出てくる。
内容が『タクシードライバー』のパクリの上に詰まらないのだ。何故、塾の先生にする必要がある?同級生とかでいいではないか。
孝太郎は数え切れないほどのため息を吐いてから、DVDを再生機から取り出す。
そして、携帯端末を取り出し、時間を確認する。携帯端末のホーム画面に表示されるデジタル時計は14時を指していた。
「メシでも作るか……」
孝太郎は昨日に姉から貰ったモッツアレラチーズを使って、何かを作ろうと考え、居間を突き抜けた先にある窓付のキッチンに向かおうとした時だった。
「つまり、学会は昨日の弁護士失踪事件には何の関わりもないと仰られるのですね! 赤川弁護士!! 」
その見知った声に孝太郎は思わず、テレビの前に戻ってしまう。急いで、テレビ画面を操作し、画面の脇に見える番組一覧を見て、今やっている番組を確認する。
やっぱりだ。今やっているのは色々な文化人を混ぜて、討論させる人気討論番組『昼から、劇討論』であった。
今回のテーマは宇宙究明学会の悪行を暴く! というテーマらしい。
これまた大胆なと、孝太郎は苦笑せざるを得ない。今のところ宇宙究明学会が犯罪を犯した証拠など何一つないのだから。
「では、お伺いします、あなた方は我々宇宙究明学会信徒被害者の会を教団内で、被害者の会を名乗る加害者の会だと名乗っているそうですが、それらの事についてはどうお考えなのでしょうか!?」
と、追求したふくよかな体型で、メガネをかけたいかにも真面目ですと言わんばかりの男はかつて、月岡源三郎の引き起こした川島製菓毒物混入事件に巻き込まれた坂山忠弁護士であった。
「ええ、事実ですよ、あなた方は信徒被害者の会を結成し、我々の宗教を弾圧しようとしているのです、しかもあなた方が反社会的だと断定しただけで……これは日本共和国における信教の自由を侵害しています! 」
孝太郎は中身はともかくとして、テレビに映るネズミ顔の小物もとい赤坂友信の弁論には感心せざるを得ない。実山聖子と坂山忠は二人とも口の立つ人物だ。この二人を相手に弁論で立ち向かえる人間はそうはいないだろう。
「では、この件についてはどうでしょうかッ!信徒さんの親御さんに確認を取ったところでは、信者の息子さんあるいは娘さんと会おうとしても、会わせようとしない、それくらいならば、まだいいんです……問題は生きているのか、死んでいるのかも分からないという点ですッ!」
実山聖子は実際に信徒の親等から取ったと思われるアンケートの結果を出す貼り付けたクリップボードを赤坂に突きつける。
「しかもあなた方の教祖はオシリス神やイエス・キリストから認められたとか主張して、教祖の血を信者に売り付けているそうですねッ!こんな非常識極まり無い商売が許されていいのでしょうか! 」
忠は聖子に便乗して、教団の実態を暴露する。その言葉に他の論客はもとより、テレビの前の視聴者もパニックに陥っているらしい。
先程から、端末番組に関する記事へのコメントが更新されてばかりだ。
だが、友信はそんな状況にも負ける事なく、不気味な微笑を浮かべているばかりだ。
「では、その件についてお応えさせていただきますと……我々の教団では会長の血液は実際に宇宙の解明に近づいたと、多くの信者は喜んでいます、それに商売というのは日本共和国の法律に書いている通り、相手と相手との合意が設立し、相手が金銭を渡せば、その商品を渡すという義務がありますよね?仮に我々のやっている事が商売だとしても、何の問題はありませんよ、例えばスポーツカーや豪邸を大金と引き換えに手に入れた人や売った人を批判しているのと同じようなもんなんです、これ以上あなた方が喰いさがるのならば、我々としても法的手続きも辞さないつもりですが」
「罪名はどうするつもりですか?」
と、忠は尋ねた。
「我々に対する名誉毀損、威力業務妨害、ならびに宗教弾圧です」
友信は一歩も引かんぞという目で、坂山忠と実山聖子の二人を睨みつけた。
「聞くところによれば、あなた方は公安からマークされているという噂ですが?」
ここにきて、孝太郎の聞いたことのない人間の声が聞こえた。声の主はスーツ姿の30代前半だと思われる男性で、普通の文化人と違い、胸元にバッジを付けていることから、大地千里教の信者だと思われる。
大地千里教の男はかけていたメガネのズレた縁を直しながら、冷たい視線を友信に浴びせていた。
「あれは一部の刑事が勝手に我々を睨んでいるだけですよ、全く今年に入って重大事件の犯人を二人逮捕しただけで、いい気になりやがって」
温厚そうな赤坂友信が悪態を吐いた事にも、孝太郎は両眉を上げていたが、それ以上に驚いたのは友信がオブラートに包んではいるが、明らかに自分たちを批判している事であった。
「いいですか、トミー・モルテの行動ならびに函館における信者の突然死は我が教団とは何の関連性もありませんッ! では、次の質問を……」
話が長くなりそうなので、孝太郎は切り上げて、テレビを切った。切ってから、すぐに携帯端末のデジタル時計を確認する。14時16分だった。
孝太郎が次の映画でも観ようかと、DVDの袋に手を伸ばそうとした時だった。携帯端末のバイブ音が鳴る。電話だ。
孝太郎は無視するのもいいが、出ないと面倒くさいだろうと、電話に出る事にした(何故、無視するのがいいのかと問われれば、いわゆる迷惑メールの類かもしれないからだ)
「あっ、もしもし孝ちゃん?」
電話口の向こうから聞こえてくるのは最愛の姉の声だった。孝太郎は安心して電話に答えた。
「どうしたんだい、姉貴?」
「北海道の旅から戻ってから、あまり時間も経ってないでしょ?」
「ああ、帰ってから、1日だけど、どうかしたか?」
「実はね、孝ちゃんの疲れを癒すために、今晩は巨大銭湯に行こうかと思うんだけど! 」
巨大銭湯。孝太郎のイメージは古き良き時代の銭湯しかない。姉が勧める銭湯とはどんなものなのだろう。孝太郎は姉にどんな銭湯なのかを問う。
「孝ちゃんも知ってるでしょ?あそこよ、あの古代のローマのお風呂を再現したという場所よ! 」
「あそこね」
孝太郎はワザワザ電車に乗らなければならないのかと、思って、絵里子に反論する。
「今から、行って帰ったら、夜だぜ、明日から仕事だし……」
「大丈夫よ! 気合いよ! 気合い! 」
思えは昭和時代の人間かという突っ込みを何とか、孝太郎は飲み込む。
「しょうがない、付き合うぜ」
「本当、嬉しいわ! 」
電話口の向かいで喜ぶ姉とは反対に、孝太郎はため息を吐くばかりだ。孝太郎が絵里子の提案を受け入れた理由は一つ。彼自身もローマの風呂に興味があったからだ。
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