上 下
92 / 233
シニョリーナ・エスコート・トラベル編

極限硬度ーその②

しおりを挟む
孝太郎は自分の右腕を見せ、牽制してみせる。
「オレの魔法は分かっているだろ?資料とかがあるんだったら」
フランクは孝太郎の魔法の恐ろしさを理解していた。ボルジア一家で指折りの腕利きと言われたサル・ボロネーオとその部下は悉く彼と著名な殺し屋トニー・クレメンテのたった二人に全滅させられてしまったのだから。
「確かに、知っているよ、だけどよぉ~オレはギャングだぜ、そんなしゃばい脅しにのると思うか?」
フランクは相変わらず旧式のトンプソンを向けながら、孝太郎を笑い続けていた。
「それによぉ~ソニーにはいなかったぜッ!ソニーには石井聡子は付いていなかったッ!」
その言葉とほぼ同時に聡子が自身の魔法を使い敵全滅エナミーアナミッション武器保存ワーペン・セーブを使用する。
「あっ、あれは! 」
ウェイターの格好をした信者が驚いたのも無理はない。
聡子が持っていたのはかの有名な軽機関銃であるスコーピオンであったから。
「みんな、恐れるなッ!我々には会長が付いているんだぞ! 」
ウェイターは宇宙究明学会の信者らしく、信仰心を利用して、周りの信者たちを扇動するのだが。
「うぐっ! 」
「ぎゃあ! 」
と、聞こえるのは悲鳴ばかりであった。
ウェイターに扮した信者は聡子に向かって、怯む事なく、トンプソンのマシンガンを向ける。
「遅いんだよッ!」
ウェイターに扮した信者は聡子に脚を撃ち抜かれ、その場で脚を抑えてうずくまってしまう。
「あとはあんたかな?」
聡子はフランクにスコーピオンを向けながら呟く。
「やってみろよ、小娘」
フランクは余裕の笑みを崩さずに言った。
「なら、遠慮なくいきますか~」
聡子がスコーピオンの引き金を引こうとした時だった。フランクは咄嗟にメニュー表を自分の胸に持っていく。
「心臓だよ、心臓を狙うんだ、あんたならそれくらい理解できるだろ?」
聡子は流石に心臓を狙う事はしなかったが、すぐさまフランクの右脚に銃口を向け、発射させた。
だが、銃弾はメニュー表により防がれしまう。フランクが自分の右脚に届く前に、メニュー表を脚の方に置いたのだ。
「なっ、なんだとォォォォ~!!! 」
聡子は目を擦ってみた。何度見ても、フランクが持っているのは自分たちがさっきまで、何を食べるか相談していた時に傍に置いてあったメニュー表だった。
それが、まるで鉄板のように自分の銃弾を防いでいたのだ。
「なんで知りたいのか、教えてやりたいところだが、あいにくオレはそこまで馬鹿じゃあないんでな、教えてやる義理はない」
フランクはそれから、孝太郎に向かってトンプソンを乱射した。
そして、満足気に丸い弾倉を外し、新しいのに取り替えようとした時だった。
「驚いたね、あんたも防御魔法が使えるらしいな」
フランクは驚いて、目を丸くするというよりは、今にも片眉を上げて「ほらね」とでも言う表情を浮かべそうなくらい満足気な笑みを浮かべていた。
「何かしらの強力な魔法。つまり、資料に載っている破壊の魔法と同等の魔法か、或いはそれ以上の魔法を持っていると、オレはふんでいたんでね、予想が当たって嬉しいんだよ」
フランクはこの国では禁止されている筈の葉巻を取り出しながら言った。そして、孝太郎の前で葉巻に火を点けながら言った。
「お前の罪状は禁煙法違反並びに殺人未遂の現行犯だな、あんたはコニーを狙っているうえにこの国では禁止されているタバコはまたはそれに類するものを吸ったんだ。堂々と逮捕する口実ができたもんだぜ」
孝太郎は自分の防御膜を解除して、フランクを右手の人差し指で指差す。
「禁煙法というのは世界で始まって以来の間抜けな法律だと思わんか?」
孝太郎は思わず両眉を上げる。何故、唐突にこの男はこんな事を言い出したのだろう。孝太郎は気になり、フランクの話の続きを聞いてやる事にする。
「いいや、禁煙法とあともう一つユニオン帝国がまだアメリカ合衆国と名乗っていた時に施行された禁酒法だ。何故、酒やタバコがいけないんだ?両方とも人類に必要な娯楽品だろ?それをたかが時の政権が禁止するのはどうかと思うぜ、世界だっておかしいと思って見ているぜ、例えるのなら、禁酒法が施行された時も、誰も旧アメリカ合衆国にならわなかったし、今、日本で施行されている禁煙法だって、どこも真似していない、おかしいったら、ありゃあしないぜ! 」
フランクはそうケタケタと笑いながら、2本目の葉巻に火を点けようとしている。
孝太郎は唇を一文字に結びながら、フランクを睨んでいる。
「おい、何を睨んでんだよ?」
「あんたの今の演説は何の意味があるんだって言いたい顔だぜ、今のオレの顔は」
「ハッハッハッハッ、今のオレの演説はあんたの国は完璧に間違えているんだって、伝えたいんだぜ、おかしいんだよって事だよ、真面目にタバコを取り締まっているあんたが馬鹿らしく見えてな」
「あんたに教えたい言葉があるんだ『悪法もまた法なり』って言葉だな、オレが警察官である以上、どんな法律だって取り締まるんだッ!そして、犯罪者を逮捕するッ!それが、オレの警察官としてのプライドなんだッ!」
孝太郎は右腕を向けながら、フランクに向かって行く。
(オレを殺す気なのか!?)
フランクは孝太郎の強い勢いの前に、思わずそう考えしまったが、先ほどの孝太郎の『犯罪者を逮捕する』という言葉に、フランクは杞憂だという事を考えた。
(あの野郎はオレのような犯罪者は逮捕するとか言っていたな、だから、オレを殺すような事はない筈だな)
フランクは向かってくる孝太郎を嘲笑いながら、机の上に載っていた紙ナプキンを持ってきて、それに自分の右手の掌にあて、それを向かってくる孝太郎に向かって投げつける。
孝太郎は咄嗟に自分の右腕で紙ナプキンを破壊した。
だが、それこそが囮だった。フランクは空中浮遊スカイアップを使い、孝太郎の後ろに回り込んでいたのだ。
孝太郎が気付いた時には既にフランクは武器保存ワーペン・セーブから、45口径のリボルバー拳銃を取り出していたところだった。
「これで撃ち殺してやるぜッ!」
孝太郎は咄嗟にフランクが撃鉄を立てた瞬間に、フランクの腹に蹴りを入れ、フランクを自分の元から引き離す。フランクは蹴られた衝撃で、後ろのバーカウンターに突っ込んでしまう。
フランクは自分で割ったワインの多種多様な色にまみれながら、起き上がる。
「体術はあんたの方が上みたいだな」
「動くなッ!お前を逮捕するッ!」
フランクに言葉を返したのは、孝太郎ではなく、レーザーガンを構えた倉本明美であった。
フランクは震える手でレーザーガンを握っている明美に嘲笑うような微笑を向ける。
「あんた、初心者だろ?いいや、今まで犯人なんて、逮捕した事なんてない、お嬢さんって顔してるもんな、オレをそれで逮捕する気かい?」
「そっ、そうよ! 大人しくしなさい! 」
明美の逮捕劇の様子を他の四人は不安そうに眺めている。
(どうしましょう、あたしも明美に加勢するべきかしら?)
絵里子が明美のいるバーカウンターに近寄ろうとした時だった。聡子に肩を触られ、止められてしまう。
(ここは明美に任せるべきだよ、折角の初の逮捕劇なんだ。任せてやろうよ)
そう微笑む聡子に絵里子は何も言えなくなる。もはや、ここは大人しく見守る事しかないのだろう。
(うまくやってくれよ)
孝太郎はそう願いながらも、フランクが何か起こした場合は動けるように用心していた。バーカウンターの後ろは壁であったので、フランクは後ろには逃げられないだろうから、逃げるとしたら前だ。
だから、自分が用心しなくては……。孝太郎は拳を握り締めながら、フランクを監視していた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

狭間の世界

aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。 記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、 過去の彼を知る仲間たち、、、 そして謎の少女、、、 「狭間」を巡る戦いが始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...