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シニョリーナ・エスコート・トラベル編

極限硬度

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孝太郎はサムとポーリーを逮捕し、地元の警察に引き渡した時にはもう日が暮れていたので、今晩は泊まることにした。
「遅くなったな、今晩はどうする?」
孝太郎の質問に絵里子は何処かに泊まることを提案した。
絵里子の提案に聡子や明美も賛成の意を表す。
「そうだよ、幾ら何でも、敵がこんなに早く、あたしらの居場所を見つけたりはしないって! 今晩はゆっくりと休みたいなぁ~」
聡子は頭を支えるように両腕で腕を組みながら、とぼけるように言ってみせる。
「聡子の言うとおりですよ、敵だって、わたし達の居場所を容易に見つけられるわけがないですよ! 」
三人の勢いに押され、孝太郎が「分かった」を口にしようとした瞬間だった。
「ダメよ! 」
大きな声でコニーが口を挟む。
「どうしてなの?」
絵里子はコニーを細目で見つめながら、尋ねる。
「あなた達はボルジア・ファミリーの恐ろしさを理解していないわ! ボスのジョー・ボルジアは王国内で、裏切り者や逃亡者や組織の敵とされる人間が出た場合は、どんな手を使ってでも、相手を殺すと有名なのよ! 例え、ホテルに居ても、そう、例え便所の中に隠れていたとしても、見つけるに違いないわッ!」
絵里子はコニーの『便所の中に隠れていたとしても』という下品な言葉に驚きを隠せなかったのだが、それ以上に彼女が衝撃を受けたのは、ボルジア・ファミリーの恐ろしさだ。そして、その首領ドンたるジョー・ボルジアとはどこまでしつこい男なのだろうか。さぞかし、執念深いガラガラヘビのような男なのだろう。
絵里子がそう推測していた時だ。
「お願い! だから、ホテルに……いや、一定期間同じ場所に留まるのは辞めてッ!」
コニーの言葉に全員が目のやり場に困っていた時だった。
「あっ、お腹空いちゃった」
聡子が腹の虫を鳴らしていた。
そこで、全員が笑ってしまう。聡子は顔を真っ赤にして怒っていたが、ここで孝太郎が全員の仲介役となり、ホテルで食事を摂ることを提案した。
ホテルのレストランはイタリア料理の店だった。孝太郎はイタリア料理というのが好きだったので、このホテルにイタリアンのお店があると聞いた時は、飛び上がって喜びたくなったのだが、それ以上に喜んだのは護衛対象のコニー・ボロネーオその人であった。
やはり、祖国の味が恋しいのだろうか。コニーは店に入って、メニューを見るなり、顔を輝かせていた。
「そうだわ! イタリア語で書いているメニューはないかしら?」
コニーのその質問に孝太郎はほとほと困り果ててしまう。英語ならばともかく、イタリア語で書いている店なんて……。
そう思っていた時だ。黒の背広に同じく黒色の蝶ネクタイを身につけた愛想の良い顔をしたウェイターがこの面子の中で、唯一金髪の彼女の姿を見て、見兼ねたのか、イタリア語で書かれていると思われるメニューを手渡す。
「どうぞ、お客様……」
「ありがとうございます! 」
そう満面の笑みでお礼を言うコニーの姿にウェイターはすっかり見ほれていたようで、顔を赤くしていた。それから、ウェイターは店の厨房へと引っ込んでいく。
「そうだ。あたしも何か頼も~何がいいかなぁ~?」
聡子はメニューの肉料理の欄に夢中になっている。
「イタリアンなら、鹿肉のカルパッチョがオススメよ、あたしもサルとのデートの時によく食べたなぁ~」
コニーは少し前に亡くなった夫の事を思い出していたのか、一筋の透明の液体を瞳から流していた。
「まぁ、とにかく食べよう! 」
孝太郎は重い流れを変えようと、鹿肉のカルパッチョに手をつける。
「うん、上手い! さすが本場のイタリア人オススメの味だッ!」
孝太郎はカルパッチョを一口つまみ、それからテレビでよく見るリポーターのように大げさに言ってみせる。
「もう、深夜だし、あまり大声出さない方がいいかもしれないわよ」
絵里子はそう言って注意したが、顔は笑顔を浮かべていたので、本気で注意していなかったと思われる。
「おや、シニョリーナ。お一人ですか?よろしければ、私も近くの席に座らせていただきませんか?」
男はコニーと同じで金髪の映画スクリーンから出てきたような中々のハンサムな男であった。
「待ってくださいよ、今は深夜で、客もオレらとあんた以外殆どいない……ですから、もっと奥の席でもいいんじゃあないですか?」
男は翻訳機を使っているのだろう。日本語講座の本を持っていない(今の科学と魔法が発達した世の中でも、ワザワザ自分でその国の言語を覚えようとする人は多い)
「いいえ、わたしはあなたのような美しいシニョリーナに惚れましてな、あなたの隣で食べたいんです。構いませんか?」
男はイタリア人らしく、ロンバルディア王国産の高級な黒色のスーツを着込んでいた。そして、高級な黒檀のように真っ黒なカシミアのコートとハッシュ帽も。
まさしく、映画やドラマに出てくるマフィアのような格好をした男であった。
普通の男ならば、ここで怯えてしまうのだろうが、孝太郎は警察官だ。怯むわけにもいくまい。
「このお嬢さんはオレらと一緒に食べているんだぜ、あんたにはどっかに行ってもらいたい」
「そう邪険にするなよ、オレは食べたいんだ。頼むよ、……」
男がそう言った後に、男は指をパチンと鳴らし、店を封鎖させる。
「このホテルはとある教団のビルでね、たった今、教団と同盟関係を結んだばかりさ、しかも、居場所を特定できて、あまつさえ、その場所に送り込んでくれる便利な魔法師に出会ってね、そいつに送り込んでもらったのよ、勿論、出る前に連絡したよ、ここに一人のイタリア人女性を連れた男一人と女三人の連れが来たら、レストランを封鎖しろとなッ!」
男は武器保存ワーペン・セーブから、旧式のシカゴタイプと呼ばれるトンプソンマシンガンを取り出し、孝太郎に銃口を向ける。
「フフ、孝太郎くん、あんた『ゴッドファーザー 』は知っているかい?」
「ああ、知っているも、何も大好きな映画の一つだが」
その言葉に偽りはない。孝太郎は事実、これまでに『ゴッドファーザー 』シリーズは全て合わせて、10回以上は観ているから……。
「そりゃあいい、話が早い、物語の中で、ソニーが殺させるシーンがあるだろ?あのシーンはマフィアの恐ろしさを体現したいいシーンだよな、で、今からそいつをお前さんらに体験させてやるよ」
店内にいたウェイターやウェイトレスが全員目の前の男と同じ銃を持って孝太郎たちを牽制している。
「どうだい?ソニーみたいにハチの巣にはされたくないだろ?コニーを渡さずに、そのまま突っ立っていれば、お前ら全員を射殺するぜ」
男は癖なのか知らないが、歯を見せて笑いながら、舌で自分の歯を掃除している。
「それ気持ち悪いわ」
絵里子は嫌悪感を隠そうともせずに言ってのける。心底、気持ち悪いという顔だった。
「まぁ、いいさ、オレは女にきついことを言われても、寛大に許す紳士なんでね、許してやる事にするよ」
絵里子はそうは言われても、侮蔑の表情を引っ込める事はない。
「あんたは大物ぶっているつもりらしいが、あんたの器は精々タッタリアくらいだろうな」
男は孝太郎の『タッタリア』という言葉に初めて変化を見せた。『タッタリア』は映画『ゴッドファーザー 』に登場するマフィアのボスの一人で、パート1における主人公たるマイケル・コルレオーネ の所属しているコルレオーネ・ファミリーの最大の敵であった(実際には彼らは操られていただけで、抗争を裏で操っていたのはエミリオ・バルジーニ率いるバルジーニ・ファミリーだったが)
「オレを『タッタリア』というくらいだから、あんたはそれ以上の強さなんだろうな?孝太郎さんよ……」
男は拳を震わせながら孝太郎に問いかける。
「勿論さ、マイケル・コルレオーネはオレだからな」
孝太郎は本当はそんな事は思ってはいなかったが、ここは大きく見せようと、普段は思っていない事を言ってのけた。
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