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横須賀騒乱編

午後22時30分 対峙トニー・クレメンテ!

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孝太郎の連絡で、30分分後にようやく38名で構成される共和国軍の小隊が南玄関に駆けつけた。そして、枝山博一と井伊直光の2名を確保した。
「ご苦労様です! 後方支援は我々の方で……」
と、小隊のリーダーたる軍曹が敬礼する。
「いえ、オレたちは当たり前のことをしただけですよ、それよりも早く島和夫を捕獲しなければ……」
そう話していた時だ。突然、背後から銃の音が聞こえた。そして……。
「うっ、うぐゥゥゥ~!! 」
先程まで敬礼をしていた共和国軍の軍曹が胸を押さえてその場に倒れて込んでしまう。
「どっ、どうしたんですか!?」
淳一は軍曹を励まそうと近寄ろうしたのだが。
「待てッ! 近寄るんじゃあない! 」
「どうしてだよ! 」
両手の拳を握りしめて、抗議する淳一を孝太郎はやんわりとたしなめる。
「後ろを見てみるんだ……」
淳一は大人しく孝太郎が指差す方向を見てみる。そこには……。
「おっ、お前は……トニー・クレメンテ!!! 」
「お前とは侵害だね、私とキミとは初対面じゃあないか、それなのに何故、キミから『お前』呼ばわりされなけりゃあ、ならないんだい?」
そのトニーの言葉を無視し、淳一は自分の『村正』の刃先を向けて、威嚇するように歯を食いしばりながら叫ぶ。
「ふん、構うもんかいッ! お前のような殺しを楽しむ奴に礼儀は不要ってもんだッ!」
淳一は『村正』の刃先を構えて、トニーに突っ込もうとするが……。
「甘いよ」の一言共にトニーから一つのブーメランが飛んできた。淳一は自分の刀でトニーの魔法を弾き返そうしたが、ブーメランは淳一の刀をかすめた後に、淳一の背後へと消えていく。 背後の攻撃は明美の魔法で何とか弾き返したために、その毒牙に触れられずに済んだのだが……。
「淳一ッ!お前の方向に跳ね返ってきているぞッ!」
孝太郎はブーメランが飛んできたという事を忘れ、トニーにばかり意識を向けている淳一に向かって叫ぶ。
「クソッタレがァァァ~!! 」
淳一はクルリと向きを変え、『村正』の刃先をブーメランへと向ける。
淳一は『村正』と自分の腕のお陰で、直撃を避けられた。そして、そのブーメランはトニーの元へと帰っていく。
トニーは慌てる事なく、自分の右手で緩やかにキャッチした。
「フフフフ、ブラボー! ブラボー! キミがそこまでやるとは思いもしなかったよ、私の魔法を交わすとはね……」
「へっ、拍子抜けしたというセリフなら、オレの方が上だぜ、『死神』なんて大層な二つ名を付けられるてるから、もうちょっと強い魔法が来るのかと思ってたけどよぉ~てんで、期待外れだよ」
「そうかい?なら、キミのご要望通りに私の強みを見せてやるよ」
トニーは武器保存ワーペン・セーブから、M16という強力な機関銃を取り出す。
「危ないッ! 全員伏せろッ!それから、明美は魔法を使ってくれ! あの野郎の銃弾を防げるのはお前の魔法だけなんだァァァ~!! 」
いつものクールな孝太郎からは連想できなほどの慌てふためいた様子から、明美も只事ではないとばかりに、魔法を使って、トニーの銃弾を防ぐ。他の人たちも頭を下げた事で、何とか頭や体に当たらずに済んだのだが。
「クソッタレッ!あんな銃があるんじゃあ、迂闊に近寄る事もできねぇよ! 」
淳一は頰を紅潮させながら叫ぶ。
「そうだな、だからこそ、小隊の方々には今は避難してもらわなければならないと思うぜ」
その言葉に小隊全員が頷く。それから、かつてのボルジア・ファミリー進出時のライバルであるトニーに向かってこう提案する。
「おい! この人たちは今は関係ないぜ! オレらとの勝負にはな! アイツらを殺すのなら、後でも出来るけど、今はオレと決着を付けるのが、ベストなんじゃあないのか!?」
その孝太郎の挑発するような言葉にトニーはこぼれ落ちるような真っ白な歯を見せながら右手の人差し指と親指を重ね、丸の形を作り、孝太郎の提案に許可を出す。
「いいよ、キミの提案に敢えて乗ってやろうじゃあないか! 私もキミとは決着を付けたいと思ってはいたんだよ……」
トニーはM16の銃口を孝太郎に向けながら言った。
孝太郎もそれに応対するかのように武器保存ワーペン・セーブから、自分のレーザーガンを取り出す。
まず、最初に発砲したのはトニー。
だが、孝太郎は一旦レーザーガンを左手に持ち替え、次に右手の自分の魔法でトニーのM16の銃弾を消し去った。
「キミの魔法は相変わらずだな、何もかも破壊してしまう……」
「いいや、あんたの魔法に比べたら、随分と可愛い魔法だと思うよ、いい加減見せてみろよ、あんたの真の魔法をさ……」
「フフフ、切り札は最後の最後までとっておくものだよ、あの時は特別さ、一対一だったからね、サルの奴に使わなかったのはアレを使って、簡単にあの世に逝ってしまっては困るからだよ」
トニーはそう言うと、M16から何十発もの銃弾を発射する。
銃弾は全て孝太郎に向けられたものであったので、他の人に当たると言う念を孝太郎が抱く事はなかったのだが、何せ数が桁違いである。孝太郎は自分の右腕だけであの数を消せるのかと言う不安に陥ったのだが、何とかやるしかないと肝に銘じ、トニーの繰り出す銃弾に挑む。
孝太郎は叫び声を上げながら、右腕を銃弾に向かって振り下ろし、銃弾を消し去っていく。一発の漏れもあってはならない。
孝太郎はその思いだけで、トニーの恐怖に耐えたのだ。
10秒か、20秒か。或いは30秒間かの短い時間が孝太郎には無限の時間にようにも感じられた。
「おやおや、余裕がなくなってきたらしいな、中村孝太郎くん……」
「いいや、あんたをブチのめすくらいならば、充分過ぎるくらいだと思うけどな」
孝太郎は一部の狂いもないという目で、トニーを睨む。
「よし、ならば私の魔法を交わす事はできるかなッ!」
トニーからブーメランが放たれる。孝太郎は臆する事なく逆にブーメランへと向かって行く。
孝太郎はブーメランに向かって、自分の魔法を使い、消し飛ばそうとしたのだが、ブーメランは孝太郎の右腕をすり抜け、孝太郎のお腹へと飛んでいく。
孝太郎は足の力を強め、それから力強く地面を蹴った。すると、孝太郎の体は宙に浮き、ブーメランの直撃を避けたのだった。
だが、所詮はブーメランだ。跳ね返ってくるのはカラオケとかで、ノリノリで歌っている時に食事や飲み物を運ばれると、歌うのをやめてしまうのと同じくらい確実な事であった。
孝太郎は自分に向かってくるであろう脅威に対し、策を巡らせる。
そして、再びブーメランが孝太郎に飛んできた時に……。
孝太郎はレーザーガンを出して、ブーメランを攻撃した。ブーメランはレーザーガンに当たると、そのまま落ちてしまうかと思われる程に衰弱していたのだが……。
何とか、両翼から黒い煙を出しながらも、トニーの元へと帰還した。
「やれやれ、ブーメランはあまり効果がないらしいね」
「いいや、これでお前は本気を出せるじゃあないか、お前の真の魔法をオレに向かって発揮できるじゃあないか……」
トニーはメガネのズレを直しながら、孝太郎に向かって言った。
「それもそうだな、キミを始末した後に、キミの仲間と共和国軍を手っ取り早く始末するために、この魔法を使うとするか……」
孝太郎は前のあの死をも司る魔法の事を思い返し、自分を自分で勇気付けた。
この場でトニー・クレメンテを捕縛する事はこの後の戦いにも有利な事だ。自分的にはトニーという一番の脅威がいなくなる。
それだけで、この要塞の攻略がまるでボーリングでガーターを取るのと同じくらい簡単な事のように思えるのだ。
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