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ワイドエリアチェイス編

殺人鬼の挽歌ーその④

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孝太郎は嫌々ながらも、その電話を取った。
「もしもし、オレだけど」
「お前か……徳川様から命令が下ってな、本多太郎は党の面汚しだから、始末しろと命令された」
「徳川が……?」
と、その孝太郎の無礼な言葉を孝太郎の父は臣下としては捨て置けなかったのだろう。厳しい声で訂正を要求した。
「徳川だ……」
「オレは自由三つ葉葵党の支持者じゃあないし、徳川幕府なんて何百年前の存在になってると思ってんだ?親父はそれを分かっていないよ、中村家も豊臣の流れを組む家だとはいえ、そんな事が仕事に支障出るのかい?」
「徳川様はそういう事に拘っていらっしゃるのだ。お前の考えは反儒教的だ」
「結構さ、いちいち昔の事に拘っていられるかよ、それで、本多太郎の件ならば、了承はできないぜ、オレは警察官だからな、犯罪者は生きて、法の裁きを受けるべきだと思ってるんだ」
と、その言葉を聞くなり、電話の向こう口から大きな笑い声が巻き起こる。
「お前が?刈谷京介に自殺を許したお前が?笑わせるなッ!いいか、お前はウチの息子じゃあない、私からすれば、お前は娘をこんな道に引きずり込んだ憎いやつだ! それを放っているのは、オレの最後の肉親の情とやらが、働いているからに過ぎないんだ! 」
孝太郎はつくづく思う。何故、自分は好きな道を歩むのにこんなに父から責められなければならないのだろうと。
自分は父のペットではない。自分の好きな道を歩んで行くのが何故悪いのだ。姉の件だってそうだ。姉は人の役に立ちたいと自ら連邦捜査官を選び、頑張ってきたのだ。それをアッサリと否定するだなんて。
孝太郎は姉の人生の全てを否定されたような気がして、義憤に駆られる。
「なら、結構だッ!オレだってアンタを本当の親だなんて思わないからなッ!」
こうなっては、売り言葉に買い言葉だ。孝太郎は歯をむき出しにしながら、携帯端末の通話アプリを切った。こうでもしなければ、自分の気が収まらない。
「あの、孝太郎さん……」
そんな荒い息を吐いている孝太郎を呼ぶ声が聞こえる。一体誰なのだろうか。
孝太郎が地面からその声がした方向に視線を移動させると、そこにはあの倉本明美が立っていた。
「ああ、そうだった……呼んでたんだな、署にまで戻ってくれって……」
「そうだよ、忘れるなんて本当に恩知らずだよなぁ~~」
明美の側に立っていた聡子は頰を膨らませながら、腰に手をあてている。
「悪かったよ、さっきまで親父と揉めててな、他の事が全部頭からフット飛んでいやがったんだ」
孝太郎の弁解は申し訳なさそうに首の後ろをかいている。
「とにかく……市長はどこに逃げたのか、教えてくれよ! 」
その言葉を聞くなり、孝太郎はよくぞ聞いてくれました言わんばかりの満面の笑みで答える。
「市長は横浜港に向かっている筈だぜ、オレの推理だとそこだ。怪我をした姉貴以外は全員いける筈だぜッ!」
孝太郎は波越警部から渡されたと思われる車のキーを全員に見せる。
「これは捜査会議が始まる前に警部から渡されてな、急いで追うぞ! 」
孝太郎は波越警部の車は署の裏の駐車場に停めてある旨を伝えると、全員にそこに行くように指示した。



本多太郎とその一行が横浜港へと到達したのは、日が殆ど登りかけていた頃合いであった。
「よし、これならば、逃げられるぞ! 」
「やりましたね、あとはロマノフ帝国からの援軍を待つだけですね」
と、島津の言葉に割り込むように月岡が口を出す。
「待ったよ、オレとの約束を忘れんじゃあないぞ」
「金だろ?よく見ろよ、港の方にはまだロマノフ家の紋章が入った船が届いていないじゃあないか、お前の報酬はその時に渡すって」
その言葉で、月岡は納得したらしく、腕を組んでニタニタとしている。金勘定でもしているのだろうか。
智久は横浜港をグルリと見渡す。
横浜港の港の部分は完全にドラマなどでよく見る港であり、コンクリート造りの床の上にコンテナがこれでもかという程に並んでいる。船の周りは人が来るせいか、他のスペースに比べても、コンテナの量は少ないが、それでも充分に多い量と言えた(無論、足の踏み場もないという程ではないが)
「とにかく、ここでロマノフ家の船を待てば、いいんだろ?ここで警察に捕まらなければの話だが……」
「御安心を……既に喫茶店『モーニング』の店主には別の港を言うように指示しておりますし、万が一にも我々に警察が追いすがることはないでしょうな」
智久の言葉に太郎はハッハッと高笑いをし出すが、次の瞬間にその高笑いを辞めずにはいられない。後ろの方から銃弾が飛んできたから。
「誰だ!?」
「悪いね、どこの世界にも計略に引っかからずに自分の推理と勘だけを信じる刑事はいるぜ」
そう答えたのは背後からやって来る三人の人影のうちの一人。
いや、太郎。智久。月岡の三人はその人影に見覚えがあった。そう、その人影はあの中村孝太郎そのものであったから。
「何をしに来たんだ……」
智久は拳をギリギリと握り締めながら尋ねた。
「何って決まっているだろ?お前らを逮捕しに来た……それが、オレの仕事だからね、全員動くな! 逮捕する! 」
孝太郎は三人に銃を構えながら大声で叫ぶ。
「フフフフフフフフ~アハハハハハハハ~~!!! 」
と、大声で笑い出したのは島津智久であった。
「キミがボクらを追い詰める?キミが?たかが、破壊の魔法しか使えないキミが?」
智久はいやらしい笑いを辞めようとはしない。
「その通りだ。お前らを逮捕するぜ、言っておくけど、破壊の魔法を甘く見るなよ、お前が、逮捕された暁にはオレの魔法を認めざるを得なくなるぜ」
「いいよ、ボク魔法を超えられればの話だけどねッ!」
智久は自分の魔法を使い、姿を消す。
「ようやく奴も本気を出したようだな、流石はワシの見込んだ魔法師よ」
太郎は腕を組みながら、秘書の活躍を見届けようとしているようだ。
そして……。
「どれ、ワシは貴様らの相手をしてやるとするか……」
と、本多太郎は先祖代々の武器とさえも言える蜻蛉切りと呼ばれる槍を武器保存ワーペン・セーブから取り出す。
蜻蛉切りとは笹穂の槍身で、刃長は43.7cmもあり、茎は55.6cm。最大幅は3.7cmもあり、厚みは1cmもあり、重量は498gもあるという化け物槍であった。
「市長は体力がないなんて言ったのは、どこの誰だ?あいにくだが、ワシの腕は怪力でな、それにこの体は脂肪じゃあない、筋肉で出来ているんだ」
太郎はその証明とばかりに着ていた黒色のスーツを破り、体の筋肉をさらけ出す。
「さてと、これでお前を始末してやろうかの」
太郎は槍を振り回しながら、孝太郎へと近づいて行く。
孝太郎にしてみれば、太郎と智久の両名を相手にするのはいささかキツイものがあった。いかに自分の破壊の魔法の攻撃力が優れていようとも、隙を突かれてしまうだろう。
孝太郎は二人のあまりの卑怯な態度に思わず唇を噛みしめる。
と、ここで孝太郎の後ろにいた聡子が声を荒げる。
「待ちなッ!あんたはあたしが相手するッ!」
一瞬孝太郎は聡子が強がっているのではないかと考えたが、満面の笑みを浮かべている様子から、それはなさそうだ。
「ほう、お前のような小娘にワシの蜻蛉切りが相手にできるとは思えんがね……」
太郎は蜻蛉切りの標的を孝太郎から聡子に変えて向かって行く。
「いーや、あんたはあたしを甘く見ている筈さ、あんたはあたしをただの小娘だとね……だけども違うんだよなぁ~~」
と、ここで聡子も武器保存ワーペン・セーブから、日本刀を取り出す。
「あたしはさぁ~昔から、親父に剣道を習わされててさ、剣の腕にはそこそこ自信があるのよ、あんたの蜻蛉切りだって相手にできるくらいにね」
聡子は日本刀の剣先を向けながら叫ぶ。
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