上 下
51 / 233
ワイドエリアチェイス編

動き出した権力

しおりを挟む
孝太郎は遅れた救急車相手に必要以上に怒鳴った。
「お前ら、何をやっているッ!肝心な時に遅れて、それでも医者なのかッ!」
その言葉に、救急車に乗っていたと人たちはうなだれるしかなかった。
孝太郎は怒鳴った後に、落ち着いたのか、非を認め、謝罪し、隊員たちに謝罪した。
そして……。
「オレも同行しても構わないだろうか?オレはその人の弟なんだ」
その言葉を聞くなり、救急隊員たちはそれを許可した。
二人の姉弟が乗る救急車を眺めながら、石井聡子と倉本明美はお互いに気まずい空気を察し、黙っていたのだが。
「あ~~!! ちくしょー! あの野郎! 絵里子さんをあんなに騙し討ちしやがって!! 本当に性根の腐った野郎だよ! 」
その聡子の言葉に、明美はフゥと小さなため息を吐いてから、答えた。
「そうよね、アイツは本当に性根のねじ曲がった卑劣漢よ」
明美は取り押さえようとする警官相手に泣き喚きながら抵抗する小早川を見ながら呟く。
「捕まったら、罪は重くなるだろうな、ただでさえ殺し屋としての殺人の罪と今回の土井真和さん殺しに、絵里子さんへの殺害み未遂と公務執行妨害……アイツ、薬殺刑になるんじゃあないの」
薬殺刑とは日本共和国が西暦2217年に採用した死刑方法である。それまでの絞首刑に代わる人道的な刑罰として今や名を馳せている。
「でも、待ってよ、もしかしたら、それよりも重い罰……星流しの刑するあり得るわ! 」
「星流しの刑だって!?」
聡子が声を荒げたのも無理はない。星流しの刑は薬殺刑よりも重い罰であり、補給物質無しでは生きられない砂だけの星に流し、ちょうど一か月間だけ生きられる水と食料を与え、その後は何も干渉せずに、飢え死にするのを待ってから、死体を回収する刑罰らしいが……。
「ちょっと待ってよ! 共和国でも、今までその刑罰に処された人はほんの二、三人しかいないんだぞ! 」
即死刑であり、尚且つそれまではキチンと充実した独房で待てる薬殺刑とは違い、星流しの刑は一か月だけしか生きられない上に、地獄のような環境で自然死するのを待つという人類史上最も残虐な罰とさえ言える刑である。
だが、殺し屋とはいえ、それまで残酷な手口で人を殺したことがない彼がそんな重罰を受けるとは到底聡子には思えなかったが。
「思い出してよ、彼は誰の命令で動いていたの?」
明美の言葉に、聡子には『市長』の二文字が……。
「確かにな、星流しの刑ならば、移送中に刑務官が付く以外は、人とも話さない……つまり、今回の事件の事を話す機会が無くなる筈……」
「そう、本多太郎の政党……自由三つ葉葵党が法務省に圧力をかける可能性は高いわ……」
そう話していた時だ。突然、二人の間に銃声が鳴り響く。音からして45口径のオート拳銃だろうか。
二人は音が鳴り響いた方向つまり、小早川新太の元へと急ぐ。
「お二人ともちょうど良かった! 」
と、小早川を逮捕した若い警官が、いや、正確には『逮捕しようとしていた』と表現するべきだろうか。
何故なら、小早川新太は既に物言わぬ死体と化していたのだから。
「先ほど、小早川を撃ち殺した犯人は、既に白籠市の外れの方に向かっていってしまって……」
と、若い警察官は『プリンス・シューズ』と郊外の住宅地の奥に続く暗闇を指差す。
「分かった! 直ぐにあたしらで追うから、あんたらは署の方に連絡を取っておいて! 」
その聡子の言葉に、若い警官はビシッと敬礼をしてから、携帯端末を操作し、署の方へと連絡を入れる。
「よし、あたしらで追うぞ! 」
聡子がスコーピオンを取り出しながら言う。
「ええ、分かってるわ! でも、撃った男の特徴も聞かずに、行くつもりなの?」
その言葉に、聡子はアッと口を開けている。
そして、先ほどの若い警察官が申し訳なさそうに手をうなじの方にやりながら特徴を教える。
「ええ、その男は黒っぽいジャンパーにジーンズ。それから黒っぽい靴に、目出し帽をつけていましたね」
「全部、黒ね……」
「いかにも暗殺者っつーの、分かりやすい泥棒みてーな、格好してんな」
明美と聡子の意見は最もであったが、そんな事を言っている場合ではないと気付いたのか、大慌ててでパトカーに乗り込み、男を追跡する。


同時刻白籠署。
取り調べ室で銃声が鳴り響く音がした。発砲したのは本多市長の秘書島津智久。
「いやだな、月岡さん……あなたの実力はこんなもんじゃあないでしょう?折角、あんたを助けに来たんだから、そんな所でくすぶってないで、アンタッチャブルの壊滅に協力しでください」
と、手を差し伸べる島津の手を月岡は恭しく受け取り、島津の用意したルートを使って、白籠署を跡にする。


波越署長は署長室にて、月岡源三郎の逃亡を知った。
「何ィ! 月岡が逃げただと!?」
「ええ、署員が目を離した瞬間に何者かの手引きにより、脱獄したとの事で……」
部下の報告に波越署長は頭を抱えていたが、次にこの事態を打開できる唯一の可能性を提示する。
「アンタッチャブルを……中村孝太郎くんはどこにいるのかね! 」
「それが……彼は姉にして、アンタッチャブルのリーダーたる折原絵里子が重傷だと病院に付き添いに……」
その言葉を聞いた瞬間に、いよいよ波越からは希望の可能性が消失した。アンタッチャブルには石井聡子と倉本明美残っているが、あの二人の魔法がそんな強いものとは思えない。
「うーん、署員一同に連絡しろ! この件は重大だと! 何としてでも月岡源三郎を捕獲しろ! 奴をもし他の市街に逃せば、またどこかの家族に被害が及ぶとな……」
その言葉を重く受け取り、伝えに来た壮年の警察官は敬礼し、署長室を跡にする。


月岡源三郎は島津と共に、逃亡した後は次々と家族に魔法を使い、魔法を使って市長への敵対勢力を排除しようとしている所であった。
「よし、本多市長を批判していたのは弁護士の坂山忠弁護士とジャーナリストの実山聖子の二人だ……この二人を消せば、再び本多市長は次の選挙で当選する筈さ」
月岡はその言葉に従い、従えた数人の男を坂山弁護士の事務所へと向かわせる。
「お前たちぬかるなよ……」
その言葉に、月岡の魔法で操られている男二人は首を黙って縦に動かす。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後天スキル【ブラックスミス】で最強無双⁈~魔砲使いは今日も機械魔を屠り続ける~

華音 楓
SF
7歳で受けた職業診断によって憧れの狩猟者になれず、リヒテルは失望の淵に立たされていた。 しかし、その冒険心は消えず、立入禁止区域に足を踏み入れ、そこに巣食う機械魔に襲われ、命の危機に晒される。 すると一人の中年男性が颯爽と現れ、魔砲と呼ばれる銃火器を使い、全ての機械魔を駆逐していった。 その姿にあこがれたリヒテルは、男に弟子入りを志願するが、取り合ってもらえない。 しかし、それでも諦められず、それからの日々を修行に明け暮れたのだった。 それから8年後、リヒテルはついに憧れの狩猟者となり、後天的に得た「ブラックスミス」のスキルを駆使し、魔砲を武器にして機械魔と戦い続ける。 《この物語は、スチームパンクの世界観を背景に、リヒテルが機械魔を次々と倒しながら、成長してい物語です》 ※お願い 前作、【最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~】からの続編となります より内容を楽しみたい方は、前作を一度読んでいただければ幸いです

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

おじさん、後方黒幕面する

逆転好き
SF
ポストアポカリプスった世界にいつの間にかいたおじさんが、軽く知ってるものでも創り出せるチートを使って後方黒幕面するかもしれない話。 たぶん。

【マテリアラーズ】 惑星を巡る素材集め屋が、大陸が全て消失した地球を再興するため、宇宙をまたにかけ、地球を復興する

紫電のチュウニー
SF
 宇宙で様々な技術が発達し、宇宙域に二足歩行知能生命体が溢れるようになった時代。  各星には様々な技術が広まり、多くの武器や防具を求め、道なる生命体や物質を採取したり、高度な 技術を生み出す惑星、地球。  その地球において、通称【マテリアラーズ】と呼ばれる、素材集め専門の集団がいた。  彼らにはスポンサーがつき、その協力を得て多くの惑星より素材を集める危険な任務を担う。  この物語はそんな素材屋で働き始めた青年と、相棒の物語である。  青年エレットは、惑星で一人の女性と出会う事になる。  数奇なる運命を持つ少女とエレットの織り成すSFハイファンタジーの世界をお楽しみください。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

深海のトキソプラズマ(千年放浪記-本編5上)

しらき
SF
千年放浪記シリーズ‐理研特区編(2)”歴史と権力に沈められた者たちの話” 「蝶、燃ゆ」の前日譚。何故あの寄生虫は作り出されたのか、何故大天才杉谷瑞希は自ら命を絶ったのか。大閥の御曹司、世紀の大天才、異なる2つの星は互いに傷つけ合い朽ちていくのであった…

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

ノースウッドの電子脳

園田健人(MIFUMI24)
SF
人造人間(製品名『ADAMS』)を専門とするセラピスト「アルバート・ファーマン」の活動記録。 ※ADAMSが創作した物語および感想はOpenAIが開発したChatGPTを活用したものです。

処理中です...