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ジャパニーズコネクション編

オメルタ(血の掟)ーその③

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孝太郎はトニーの能力を前にして、今までに感じた事のない程の絶望感を抱いていた。全てを死に至らしめる魔法だと……。そんな魔法があるなんて。トニーの魔法に対処する術がこの世にあるとは孝太郎には到底思えない。
と、すると、自分はトニーの攻撃の前になすすべも無く倒されてしまうのか。否。そんな事はあり得ない。自分は姉のためにも死ぬ訳にはいかないのだ。
孝太郎は自分の魔法を秘めた右腕の拳をトニーに向ける。
「やって来いよ、オレはお前の攻撃なんぞ、意に返さないぜ」
「ふふふ、孝太郎くん……大抵、わたしが認めた魔法師でも、大抵はこの魔法を見るたびに、命乞いをしたものだよ、しかし、久し振りだよ! わたしのこの魔法を見て命乞いをしなかったのはなァァァ~~!! 」
トニーは再び孝太郎に飛びかかり、触れれば強制的に死に至らしめられる魔法を浴びせようとする。
孝太郎は飛びかからんとするトニーの脚に標的を定めた。叫び声を上げた孝太郎は逆にトニーに飛びかかる。
(孝太郎くん……きみらしくもないじゃあないか、いよいよわたしに敵わないと見て、ヤケになったのか?)
トニーはそう思った時に、孝太郎の右腕が自分の脚を狙っている事を悟った。そして、瞬時に背後に体を逸らし、慌てて自分の足を地面につける。
「危なかったね、まさか足を狙うとは思わなかったよ、こんな手段に出て、わたしを追い込んだのはあの女に並んで、キミが二人目さ……」
「あの女?」
孝太郎はトニーの言葉が引っかかり、思わず片眉を下げる。
「あ~何でもないよ、昔とあるユニオンの著名人を暗殺する際に、そいつに仕えていた護衛の女だよ、アイツの強さは桁外れだったな……」
トニーは懐かしそうな表情を浮かべ、天井を見上げる。そこにその女の幻影が浮かんでいるのだろうか。
「やれやれだ。それよりも……サッサと決着を付けようッ!姉貴がオレを心配しているだろうしなッ!」
「いいだろうッ!今度こそ、キミを始末してあげるよッ!わたしの最強の魔法でねッ!」
トニーは再びあのオーラで右腕を包む。その時だ。何やら妙な音。何かが燃えているような音が聞こえた。
「おい、何か聞こえないか?」
孝太郎は堪らなくなって、トニーに質問する。
「いいや、何も聞こえないけどね」
トニーのその言葉に、孝太郎は自分の耳は幻聴を聞いたのかと、考えたが。
「あっ、アレは……」
孝太郎は絶句した。地下室の生命線たる排気口から黒色の煙が上がっているという事実に。
「おい、大変だッ!お前がオレを連れてきた屋敷が燃えているッ!」
孝太郎の言葉に、トニーは慌てて排気口を確認する。孝太郎の言葉は正しいようだ。恐らく屋敷が燃えている。
「おかしいな、火の元は全て始末したはずなんだがな……」
トニーは首を傾げたが。
「くっ、まさかアイツらか!?」
「アイツらだと!?」
孝太郎は予想外の言葉を放ったトニーの言葉に驚き、思わず二度尋ねてしまう。
「アイツらだと……お前の部下じゃあないのか!?」
「いいや、アレはわたしの部下じゃない! わたしが借りたボルジア・ファミリー日本支部の兵隊たちだ……キミを連れてくるのと、この屋敷の内装を整えるのに貸してもらっていただけだ……」
「おい、あのあんたの雇い主はオレもろともあんたを殺すつもりらしいぜッ!」
「ああ、焼き殺すつもりだろうな……クソッタレ! 」
あの上品な雰囲気からは感じられない程の怒りが孝太郎からは感じられた。これまでの彼からは考えられないような。
「キミは意外に思うかもしれんがねッ!わたしが何よりも怒る時は依頼人に裏切られた時さッ!アイツらはわたしとの信頼関係を無に帰したの同じだからねッ!だから、そんな時はわたしはその時の標的ターゲットの始末を諦め、裏切った奴を真っ先に殺すのさ……」
成る程と孝太郎は首を縦に動かす。彼は自分が裏切られる事が一番腹ただしいようだ。
「ならば、どうやって脱出する?この部屋はもうじき崩れるだろうな……」
「案ずるな、わたしの魔法を忘れたのか?」
と、トニーは孝太郎に向ける筈だったであろう右腕の魔法を地下室の扉に向ける。すると、地下室の扉は寿命がきて、錆びついた時のように腐り落ちた。
「急ごう! おっと、それから……」
トニーは教師が生徒に教えるように言った。
「火事の時に恐れるものの第2位は焼死の次に恐れるものは何だ?」
「煙による一酸化炭素中毒」
「その通りだ。なるべく煙を吸わんように口元を何でもいいから覆い給え」
トニーの言葉に従い、孝太郎は自分の手で口元を覆う。
「よし、準備はできたようだ」
トニーは自分自身も口元を覆い、地下室を跡にする。


屋敷の周りでは、既に火が燃え広がった屋敷をサル・ボロネーオとその部下53名が見守っていた。
「よし、これであの二人は死んだんですよね?ミスターボロネーオ! 」
そう、満面の笑みで尋ねてきた部下に、サルも同じく満面の笑みで答える。
「だな、ボルジア・ファミリーの脅威二人が一気に消えたわけさ、この街の支配権は既に市長から貰っているんだ……オレらは市長がヤバくなるたびに、事件を起こし、疑惑から目を逸らさせる……その代わりに市長はオレらの事に何も言わない、警察も押さえつける……ハハハハハハハハハハ~~!! 白籠市はオレらの楽園だぜッ!」
その言葉にサルの部下は全員が笑っていた。誰一人、炎の中から自分たちに向けられているM16の銃口に気づく事なく。
「さてと、ならば、前祝いでも……」
その時にようやくM16が火を吹き、ワンカップのお酒を持った部下の男はその場に崩れて落ちしてしまう。
「だっ、誰だ!?」
無論、サルは炎の中から自分たちを狙っていたM16の銃口のことなんて、知る由がない。この場では狼狽えることしなさができないのだ。
サルは部下に呼びかけ、臨戦態勢の準備を整えるように言うが……。
「ギャァァァ~~!! 」
「ウゲャァァァ~~!!! 」
と、言った悲鳴が次々に聞こえる。
「いっ、一体誰なんだ!?」
「わたしさ」
炎の中からトニー・クレメンテが現れる。
「やれやれ、お前らが市長とそんな関係だったとはな……」
そして、もう一人38口径のリボルバーを持った日本人の青年が。
「いっ、生きていたのか……」
と、震えながら指を差すサルの問いに二人は首を縦に動かす。
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