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ジャパニーズコネクション編

オメルタ(血の掟)ーその①

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その後は気まずい雰囲気が流れ、ぎごちない様子で、姉を家に送り届けた後のことだ。孝太郎は自分を付けてくる異様な雰囲気のようなものに気がつく。
(オレを付けているだと……一体誰が?)
孝太郎は後ろでリボルバーのコックを打つ音が聞こえた瞬間に咄嗟に武器保存ワーペン・セーブから、45口径リボルバーを取り出し、その銃口を背後から付けてくる勢力に向ける。
孝太郎は拳銃を向けながら、背後から付けてくる男たちが異様な連中だと察した。
(コイツら、顔からして日本人じゃあないな、かと言ってアジア系やアフリカ系やヒスパニック系でもない、アングロ・サクソン系でもない……とすると)
孝太郎の脳裏に浮かんだのは『イタリア人』という言葉。
(コイツら、イタリアンマフィアの構成員か……)
孝太郎は背後の長袖のシャツとサスペンダーとズボンという格好の男三人を見つめながら、そう考察する。冬だというのにこんな格好をしているというのは#携帯暖房器具_ポーターブル・ヒーリング・フィクスチャー__#を使っているからだろう。
そんな事を考えていると、男の一人がようやく口を開く。
「お前が中村孝太郎だな?オレらのボスがあんたのお噂を聞いていてね、悪いがオレらと一緒に来てもらおうか」
サスペンダー軍団(と、孝太郎は名称した)のリーダーと思われる中心の男が日本語を喋っている。が、これは携帯翻訳機ポータブル・トラスンレーダーから出された声だと孝太郎は瞬時に判断した。
携帯翻訳機ポータブル・トランスレーダーは22世紀になって、人類が発明した最も偉大な発明品の一つだった。これにより、通訳は廃業となったが、同時に国際グローバル化の流れは枯葉を焼く火のように進んでいった。この機会は一見すると銀色の筒のように見えるが、ここに自分の言葉を伝えるのと同時に、機械が反応し、機械を介した自分の意思が翻訳され、音波に乗り、瞬時に相手に伝わるのだった。
(便利な時代に生きていて、良かったと……思いたいが、目の前の銃を持った男の言葉が通じるのを見ると、若干嫌な気分になるな、言葉が通じなければ、問答無用で倒すんだが、通じているとなると、一応話は聞かなければいかんからな……)
孝太郎は一応は両手を広げ、相手の交渉に応じる旨を行動で伝える。
「よし、支部長の元へと連れて行くぞッ!妙な動きを見せたら、ぶっ殺してやるからなッ!」
と、サスペンダー軍団のリーダーが孝太郎に散弾銃の銃口をくっ付けながら言う。
孝太郎は相手とは違い、携帯翻訳機ポータブル・トランスレーダーを持っていないため、黙って従うしかない。
(早く着かないのだろうか……)
孝太郎は男三人に車に乗せられながらもそう思っていた。
そして、ようやく白籠市の外れと思われる芝生と白色の壁の一軒家伝いのところに連れてこられた。
孝太郎はこのゴーストタウンは以前、刈谷阿里耶市長の前任である自由共和党の奥村玉三郎市長が、古き良きアメリカ政策を打ち出した時の残り香たる物だった。奥村市長は彼の提唱する50年代末から60年代前半のアメリカを理想の世とし、彼はあらゆる政策をそれに習ったものとした。
この古き良きアメリカを思わせる街も当時はいや、今も市長の無能さの象徴たらんものであった。彼の政策は彼の理想とは裏腹に政策はことごとく失敗し、ヤクザを肥えさせ、結果的に彼は刈谷阿里耶に市長の座を追われてしまっている。
(愚かな人だ……昔を夢見たり、それに倣ったりするのは構わないが、昔の政策をそのまま出しても、上手くいく筈がないんだ……その時と今とはまるっきり違うのだから……)
だが、孝太郎はそんな事を考えている余裕もない。すぐ後ろからサッサと家に入れと、イタリアンマフィアに銃尻で後頭部を小突かれ、孝太郎は中に入らざるを得ない。
孝太郎は言われるままに、この家のリビングルームと思われる部屋に通された。リビングルームはくたびれた外観とは裏腹に、豪華な敷物が敷いてあり、天井には金色のシャンデリアが。壁には20世紀の殺人鬼ジョン・ゲイシーが描いたと言われるピエロの絵が飾ってある。そしてその壁の近くには黒色の社長机と絵を眺めているのか、普段とは逆に壁に向いている社長椅子。
(一体、イタリアンマフィア ボルジア・ファミリーの支部長というのはどんな奴なんだ?)
と、孝太郎が考えていると。
「ヤァ、お昼ぶりだね、中村孝太郎くん……」
椅子を孝太郎の方向に向けたのは、トニー・クレメンテ。
「お前か……本来はイタリアンマフィアのお抱え殺し屋のくせに、フリーだと偽っていたのかい?」
孝太郎の言葉を意に返していないのか、トニーはくっくっと笑うばかり。
「まぁ、どう取ってもらっても構わんよ、それよりも、キミはこう考えたりはしないのかい?わたしはこの地位と引き換えに、一時的に雇われているだけだと……」
「いいや、違うね、あんたはイタリア系だろ?だから、同じくイタリア系のボルジア・ファミリーに自分の身を捧げても、違和感はないと考えたんだよ」
「成る程ね、孝太郎くん……キミは頭が良さそうだよ、だから、キミとは少し話をしたいと思っていたんだ」
「話だと?」
孝太郎は予想外の言葉に、思わず眉を寄せてしまう。
「まぁ、聞きたまえよ、わたしはご覧の通り、殺し屋で、キミは警察官だ……だが、考えてみたまえ、今や世界情勢は刻一刻と変わりつつあるのだよ、ロシアは共産主義をやめ、再び帝政となり、今は女帝が治めているね?反対に中国は共産主義化をより一層強めている。ヨーロッパでは王侯貴族が再び、政治を行っておる。かつての自由の国は今や新たなるローマ帝国だよ、そんな中で、帝政主義と共産主義が仲が良いと思うかね?片方は国王の主権は絶対であり、もう片方は国王は死するべき存在だ……この二つが仲が良い筈がないんだよ、だから必ず起こるよ、第4次世界大戦はね……」
トニーの言うことは至極当然だった。考えてもみれば、この二つの主義主張が上手くいく筈がない。孝太郎は目の前のトニー・クレメンテという男は何を考えているのかと不気味に思われた。
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