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ジャパニーズコネクション編
中村孝太郎暗殺計画
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男はトニーの目の前で、まるでどこかのイカしたスパイのように得意げに葉巻を吸う。
男は葉巻をくわえたまま、トニーに写真を手渡す。
「これは?」
「知っての通りさ、我々はこの男が邪魔なのだ。あの刈谷阿里耶を逮捕し、日本最大のバイカー集団二つを壊滅させたこの男が脅威でしかないのだ。そこで……キミに殺しを頼みたいんだよ」
「その男なら、知っていますよ……」
トニーはウェイターに自分のグラスを差し出しながら言った。
「本当か?」
「ええ、わたしは昼間刈谷淳を殺害しようとした時に、この男と戦闘を行いました……こう言っては何ですが、このわたしにあそこまで苦戦させたのは奴が初めてでしょうね」
トニーはウェイターから注がれたぶどう酒を味わいながら言った。
「つまりだな、キミは我々の依頼を受けないと言いたいのか?キミと互角の腕を持っている人間だからと……」
「いいえ、そんな事を申しているのではありません……ただ、わたしは自分のリスクが多いと、やる気が失せるというだけの話だと仰りたいのですよ」
男いや、サル・ボロネーオはトニー・クレメンテは改めて恐ろしい男だという事を実感した。掴み所がない。
つまり、トニーの真意を読み取ることができない。
「ならば、報酬は倍払うよ、キミもそれならば、満足だろ?」
「報酬ではなく、あなた様の戦力をお貸しください」
サルはその言葉を聞き、行く行くはトニーが自分の地位を奪おうとしているのではないかと危惧していたが……。
「そんな真っ青な顔を浮かべないでくださいな、あなた様は少しだけ戦力を貸してくださるだけで、中村孝太郎を始末できるのです……」
サルはトニーから告げられた『中村孝太郎』という言葉が気になり、思わず目を丸くする。
「男は中村孝太郎というのかね?」
「間違いありませんよ、日本人なのにユニオン帝国の先住民のような赤銅色の肌をしてましたからね、強く記憶に残っておりますよ……」
トニーの言葉にサルは思わず苦笑する。ユニオン帝国の領土南北アメリカ大陸の先住民と日本人のクォーターか。サルはあまり想像力が豊かな方ではなかったので、中々想像できずにいる。
「で、そのインディアンはどれくらい強かったのかね?」
「それはとても、しかも、わたしに標的の殺害を諦めさせるくらいに、人の心を操るのが上手な男なんですよ」
トニーはそう言って、嬉しそうな表情で残ったぶどう酒を飲み干す。
「なるほどね、キミは我々よりその男に詳しいらしい、ならば、キミに必要な人員を与えようではないか……ドン・ボルジアから預かった貴重な兵たちだ。あまり、粗末に扱うなよ」
トニーはズレていた黒縁のメガネを上げながら言った。
「御意……」
中村孝太郎は実山聖子に一通りの事を告げ、その後に公安部の部屋の鍵を閉め、自宅に帰ろうとしていた。
その時。
「ねえ、孝ちゃん! 一緒に帰りましょう!」と姉の絵里子から一緒に帰るように提案されるが……。
孝太郎は呆れたようなため息を吐くばかりだった。
「姉貴の家とオレの家は逆方向だった筈だけどな……」
「いいじゃあない! まずはあたしが孝ちゃんの家に行って、それから孝ちゃんがあたしをあたしの家まで送るッ!完璧なプランじゃなくて?」
何が「完璧なプラン」だよと孝太郎は姉に突っ込みたくなる。要するに姉が自分と帰りたいだけなのだ。悪い気分ではなかったが……。
「すまんが、今日は無理なんだ。オレは明日から例の市長の疑惑について調べなけりゃあならんからな、市長が派遣した始末屋がオレを襲ったら、困るだろ?」
その言葉に絵里子は首を横に振って、妥協しようとはしない。
「いやよ! あたしは孝ちゃんといるわ! あたしが孝ちゃんを見捨てたら、孝ちゃんは誰に傷を治してもらうのよ! それに、あたしはだった一歳しか離れてなくても、あなたの姉なのよ! 絶対にあなたを見捨てないわ! だから、危険なんて理由で……」
絵里子は頰を赤らめながら言った。
「あたしを置いてかないでよ……」
孝太郎なそんな姉の熱意に惚れ出されたのか、そっと頭を撫でて、抱きしめた。
「ありがとよ姉貴……昔から、姉貴はオレを親父やお袋から守ってくれた……姉貴がいたからこそ、オレは警察官になれたんだ……」
「孝ちゃん……」
絵里子は弟に抱き締められることに喜びを抱いていた。それが、姉弟としての愛なのか、それとも別の感情なのか……。絵里子にはもう区別がついていた。
「よし、帰るか……」
孝太郎は姉の手を取り、勤務先の警察署を跡にする。その姿は二人を全く知らない人が見れば、仲の良いカップルに見えただろう。
孝太郎と絵里子は白籠市の夜の街の中を歩きながら、他愛のない会話を交わしていたが……。
途中に入った一本の電子メールで、たちまち絵里子は自分の携帯端末にこわばった視線を向けていた。
「信じられないわ! あの人たちあれでも親なのッ!」
「どうしたんだ?」
「聞いてよ、またお父さんとお母さん、あたしに連邦捜査官を辞めろと言ってきたのよ! 『お前にはそんな危険な仕事は向いていない! お前はあの男に騙されているッ!お前は私たちの仕事を手伝え』って……」
絵里子はそれから、道の真ん中というのも忘れ、金切り声を上げて孝太郎に自分の両親への怒りをぶつける。
「何よ、実の息子をあの男なんてッ!まるで、孝ちゃんは自分たちの中には存在しないみたいに……結局は自分たちに都合の良い人間しか、家族としか見えていないんだわ! 」
「落ち着いてくれよ、姉貴……オレは平気さ、オレが親父とお袋に嫌われていることは知っているよ、爺ちゃんと婆ちゃんと同じくらいにな……」
孝太郎は自分のエリートとも言われる家系を思い返す。中村家はかつての天下人豊臣家の流れを組む名門家で、これまでもずっとエリートを輩出してきた由緒正しい家系だった。だから、高卒で警官になった祖父や外国人の祖母。そして、祖父と同様の道を歩んだ自分も中村家では邪魔な存在なのだ。そう言えば、母の生家折原家も豊臣の流れを組む家だという噂を聞いたことがあるが……。
孝太郎は所詮は噂だとその自分の考えを一蹴した。
男は葉巻をくわえたまま、トニーに写真を手渡す。
「これは?」
「知っての通りさ、我々はこの男が邪魔なのだ。あの刈谷阿里耶を逮捕し、日本最大のバイカー集団二つを壊滅させたこの男が脅威でしかないのだ。そこで……キミに殺しを頼みたいんだよ」
「その男なら、知っていますよ……」
トニーはウェイターに自分のグラスを差し出しながら言った。
「本当か?」
「ええ、わたしは昼間刈谷淳を殺害しようとした時に、この男と戦闘を行いました……こう言っては何ですが、このわたしにあそこまで苦戦させたのは奴が初めてでしょうね」
トニーはウェイターから注がれたぶどう酒を味わいながら言った。
「つまりだな、キミは我々の依頼を受けないと言いたいのか?キミと互角の腕を持っている人間だからと……」
「いいえ、そんな事を申しているのではありません……ただ、わたしは自分のリスクが多いと、やる気が失せるというだけの話だと仰りたいのですよ」
男いや、サル・ボロネーオはトニー・クレメンテは改めて恐ろしい男だという事を実感した。掴み所がない。
つまり、トニーの真意を読み取ることができない。
「ならば、報酬は倍払うよ、キミもそれならば、満足だろ?」
「報酬ではなく、あなた様の戦力をお貸しください」
サルはその言葉を聞き、行く行くはトニーが自分の地位を奪おうとしているのではないかと危惧していたが……。
「そんな真っ青な顔を浮かべないでくださいな、あなた様は少しだけ戦力を貸してくださるだけで、中村孝太郎を始末できるのです……」
サルはトニーから告げられた『中村孝太郎』という言葉が気になり、思わず目を丸くする。
「男は中村孝太郎というのかね?」
「間違いありませんよ、日本人なのにユニオン帝国の先住民のような赤銅色の肌をしてましたからね、強く記憶に残っておりますよ……」
トニーの言葉にサルは思わず苦笑する。ユニオン帝国の領土南北アメリカ大陸の先住民と日本人のクォーターか。サルはあまり想像力が豊かな方ではなかったので、中々想像できずにいる。
「で、そのインディアンはどれくらい強かったのかね?」
「それはとても、しかも、わたしに標的の殺害を諦めさせるくらいに、人の心を操るのが上手な男なんですよ」
トニーはそう言って、嬉しそうな表情で残ったぶどう酒を飲み干す。
「なるほどね、キミは我々よりその男に詳しいらしい、ならば、キミに必要な人員を与えようではないか……ドン・ボルジアから預かった貴重な兵たちだ。あまり、粗末に扱うなよ」
トニーはズレていた黒縁のメガネを上げながら言った。
「御意……」
中村孝太郎は実山聖子に一通りの事を告げ、その後に公安部の部屋の鍵を閉め、自宅に帰ろうとしていた。
その時。
「ねえ、孝ちゃん! 一緒に帰りましょう!」と姉の絵里子から一緒に帰るように提案されるが……。
孝太郎は呆れたようなため息を吐くばかりだった。
「姉貴の家とオレの家は逆方向だった筈だけどな……」
「いいじゃあない! まずはあたしが孝ちゃんの家に行って、それから孝ちゃんがあたしをあたしの家まで送るッ!完璧なプランじゃなくて?」
何が「完璧なプラン」だよと孝太郎は姉に突っ込みたくなる。要するに姉が自分と帰りたいだけなのだ。悪い気分ではなかったが……。
「すまんが、今日は無理なんだ。オレは明日から例の市長の疑惑について調べなけりゃあならんからな、市長が派遣した始末屋がオレを襲ったら、困るだろ?」
その言葉に絵里子は首を横に振って、妥協しようとはしない。
「いやよ! あたしは孝ちゃんといるわ! あたしが孝ちゃんを見捨てたら、孝ちゃんは誰に傷を治してもらうのよ! それに、あたしはだった一歳しか離れてなくても、あなたの姉なのよ! 絶対にあなたを見捨てないわ! だから、危険なんて理由で……」
絵里子は頰を赤らめながら言った。
「あたしを置いてかないでよ……」
孝太郎なそんな姉の熱意に惚れ出されたのか、そっと頭を撫でて、抱きしめた。
「ありがとよ姉貴……昔から、姉貴はオレを親父やお袋から守ってくれた……姉貴がいたからこそ、オレは警察官になれたんだ……」
「孝ちゃん……」
絵里子は弟に抱き締められることに喜びを抱いていた。それが、姉弟としての愛なのか、それとも別の感情なのか……。絵里子にはもう区別がついていた。
「よし、帰るか……」
孝太郎は姉の手を取り、勤務先の警察署を跡にする。その姿は二人を全く知らない人が見れば、仲の良いカップルに見えただろう。
孝太郎と絵里子は白籠市の夜の街の中を歩きながら、他愛のない会話を交わしていたが……。
途中に入った一本の電子メールで、たちまち絵里子は自分の携帯端末にこわばった視線を向けていた。
「信じられないわ! あの人たちあれでも親なのッ!」
「どうしたんだ?」
「聞いてよ、またお父さんとお母さん、あたしに連邦捜査官を辞めろと言ってきたのよ! 『お前にはそんな危険な仕事は向いていない! お前はあの男に騙されているッ!お前は私たちの仕事を手伝え』って……」
絵里子はそれから、道の真ん中というのも忘れ、金切り声を上げて孝太郎に自分の両親への怒りをぶつける。
「何よ、実の息子をあの男なんてッ!まるで、孝ちゃんは自分たちの中には存在しないみたいに……結局は自分たちに都合の良い人間しか、家族としか見えていないんだわ! 」
「落ち着いてくれよ、姉貴……オレは平気さ、オレが親父とお袋に嫌われていることは知っているよ、爺ちゃんと婆ちゃんと同じくらいにな……」
孝太郎は自分のエリートとも言われる家系を思い返す。中村家はかつての天下人豊臣家の流れを組む名門家で、これまでもずっとエリートを輩出してきた由緒正しい家系だった。だから、高卒で警官になった祖父や外国人の祖母。そして、祖父と同様の道を歩んだ自分も中村家では邪魔な存在なのだ。そう言えば、母の生家折原家も豊臣の流れを組む家だという噂を聞いたことがあるが……。
孝太郎は所詮は噂だとその自分の考えを一蹴した。
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