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ジャパニーズコネクション編

ヘリポートの殲滅戦ーその②

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何故、この寂れたヘリポートのガスタンクは破壊され、ガソリンが巻かれ、あまつさえ火まで点けられたのか。
少なくとも、中村孝太郎と刈谷淳の両名は知る由もない。
だが、この事件の真相を知っているのはこのヘリポートの上には約1名。彼は今、自分が壊したガスタンクの裏側に隠れ、二人の慌てふためく様子を観察している。男はスキンヘッドで、大きな四角い形の黒ぶちの眼鏡をかけており、ユニオン帝国を代表するスーツメーカーオックスフォードクローズの黒色のスーツを着ていた。そんな男の名前はトニー・クレメンテ。
かつてはユニオン帝国の暗黒街を騒がせた殺し屋であったが、過去にある男の命を狙った事により、ユニオン帝国を追放され、現在はフリーの殺し屋となっていた。そして、今は刈谷京介からの依頼により、実山聖子と刈谷淳の両名を始末する予定だったのだが、彼にとって、実山聖子が偽物だと言う事実は大きなものだった。
(まさか、警察官が女装していたとはな……中々美しい男だが、立体写真で見た刈谷阿里耶よりは随分と劣るな……)
トニーは改めて刈谷阿里耶という男が、どれほど美しい男かという事を認識させられた。世間的には充分にイケメンだともてはやされそうな、あの警官でさえ、阿里耶を前にしては霞んでしまうだろう。それくらい、刈谷阿里耶は美しい男だった。
(まぁ、甥のアイツは全くと言っていいほど、顔が違うがな……)
トニーは改めて自分の標的ターゲットの顔が醜いものだと認識せざるを得ない。
(さてと……あの二人が戦っているらしいな、よし、わたしとしては二人を相手にして勝ち残れる自身はあるが、あまり、体を使うのは好みではない、だからな、これを使わせてもらう)
そう言って、トニーはヘリポートに備え付けられているガスタンクを確認する。
(あのガソリンを巻けば、いかに強力な魔法師と言えども、容易には脱出できんだろうな……)
トニーは自分の右腕を紫色のオーラで覆い、次の瞬間に右腕から尖ったブーメランをガスタンクに向けて放つ。
微かな物音がしたが、戦闘に夢中の二人は気付かないようだ。トニーはそう思っていたのだが。
孝太郎のあの言葉が聞こえた瞬間に、トニーは我を忘れた。自分の計画が気付かれている!?そんな事になったら……。
トニーはそんな強迫観念から、懐に忍ばせていたマッチを取り出し、それを擦ってから、ヘリポートの周りに撒かれた火にそれを放り投げる。
これで、二人は死んでしまう筈だ。だが……。
「しょうがねえ! おれはこのヘリポートを破壊するッ!」
トニーは壊れたガスタンクから、二人の様子を確認する。
どうやら、あの警官の男が何やら画策しているようだ。トニーはガスタンクから身を乗り出さないように慎重に見守る。
(一体どうするのだ?ガソリンは貴様らのんだぞ! )
トニーがそう思った瞬間に、自分の足元が崩れるのを確認した。それと、同時にヘリポートも崩れていく。
いくら、歴戦の殺し屋でもこの状況はどうにもできまい。トニーは悲鳴を上げて叫ぶ事しかできないのだ。
トニーが落ちると同時に、トニーは頭を抱え、周囲を見渡す。
そして、次の瞬間に……。
「よう、お前があのガソリンを撒いたんだろ?しらばっくれるなよ、ユニオン人さん……いや、暗黒街を代表する殺し屋トニー・クレメンテと言うべきかな?」
トニーは闇の世界に足を踏み入れるまでは、ユニオン帝国の裕福な平民の家に生まれ、それなりの教養を身につけていたので、彼は4ヶ国語を身に付けていた。だから、孝太郎の日本語も理解できた。
「何故、わたしの名前を知っている?それに、刈谷淳はどうした?」
孝太郎はトニーからの二つの質問に同時に答えることにした。
「ここから、少しだけ離れたところで、寝てるよ、それにあんたのその名前はだからな……」
自由三つ葉葵党。それはトニーの日本共和国における最大の顧客であった。彼らからの主な暗殺依頼は与党議員の暗殺。もしくは社会的地位を消し去る事だった。
だが、ここでトニーに一つの疑問が浮かび上がる。どうして、一般の警察官がこの国最大の野党たる自由三つ葉葵党の内情を知っているのだろうか。
「ふふふ、答えは言わないでおくよ、それよりも聞きたいのは、わたしの方だね、どうして、きみのような一警官がこの国最大の野党の秘密を知っているのだ?わたしに教えてくれんかね」
トニーはレンズにヒビの入った眼鏡を上に上げながら尋ねた。
「……お前が答えなかったからな、おれも答えないでおくよ、お前は誰の依頼で、おれいや、実山さんと刈谷淳を狙った?」
トニーは腕を組みながら、冷ややかな視線を孝太郎に向けながら言った。
「殺し屋には守秘義務があるんでね、他の人には絶対に明かせんよ、ましてや警官にね……」
トニーは武器保存ワーペン・セーブから、レールガンを取り出し、その銃口を孝太郎に向ける。
「ふふふ、キミは本来は現時点でのわたしの抹殺リストには入ってはいなかったんだがね……予定が変わった。ここで始末させてもらうよッ!」
孝太郎はトニーがレールガンを発射するより前に、トニーに突進し、トニーの全体のバランスを崩させる。
そして、トニーの手から、落ちるのを確認し、レールガンを自分の魔法で破壊した。
トニーは孝太郎がレールガンを破壊するのと同時に、孝太郎を思いっきり殴る。まるで、爆弾のようだと孝太郎はトニーの強烈なストレートを表現した。
ギリギリのところで、体のバランスを保ち、武器保存ワーペン・セーブから、警察官用のオート拳銃を取り出し、トニーへと向ける。
だが、トニーはメガネのフレームにくっ付いているレンズの破片を無理やりむしり取り、それを孝太郎の腕に投げつける。
孝太郎は痛みのあまりに、拳銃を床に落とす。それをトニーは長い脚で思いっきり蹴りつけた。
「ふふふ、たかが、警官の分際で、このわたしにここまで戦えたのは、キミが初めてだよ! 名前を聞いておくか」
トニーは新たにM16通称『ブラックライフル』と呼ばれる突撃銃を取り出す。
それが、彼の孝太郎に対する構えなのだろう。最後の決闘に挑むガンマンはこんな気分なのだろうと考察した。
孝太郎は自らも、武器保存ワーペン・セーブから、ポンプ式ショットガンを出して、トニーに向けて名乗った。
「おれの名前は中村孝太郎。この街の誇り高き警察官だ! 」
その言葉を聞き、トニーは口元を緩めた。
「いいだろうッ!わたしはお前に全力の敬意を払って、戦うことを約束しよう! 」
二つの銃口がお互いの体を狙う。
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