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第一部 『白籠町のアンタッチャブル (決して触れられないもの達)』

第十三話 白籠駅騒乱ーその②

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孝太郎は刈谷阿里耶に続き、デパートの方へと走って行く。
そして、阿里耶がエスカレーターに登ろうとした時だ。
「おっと、そうはいかん! 」
孝太郎は阿里耶と自分との間にある空間を破壊し、阿里耶を自分の元へと引き寄せる。
「さてと、ここなら思いっきりテメェをぶちのめせるってもんだぜ」
だが、阿里耶はこの孝太郎の恐ろしげな言葉に動じるどころか、眉ひとつ動かそうとしていない。
「そうかな、確かにお前との距離が空いた事により、オレはちょいとお前に対し、不利になったがね……」
阿里耶は右手を糸に覆わせながら、その手を剣を一直線に振り下ろすように真っ逆さまに振り下ろす。すると……。
「ぐっ、オレの首が……」
そう、孝太郎の首を一本の糸が襲っていたのだ。
「ひゃっはっはっ~! どうだざまあ見やがれってんだッ!学校を出たばかりのクソッタレのガキがッ!大体テメェ……オレが台頭した時も何も出来ずに指を咥えていた無能なおまわりの一人だろ!?そんな無能な奴が何できんだ?」
阿里耶の挑発するような言葉に孝太郎は意識を薄れながらも、何くそとばかりに阿里耶を睨みつけるのを忘れていない。
「ふん、しつこいガキだぜッ!もう、お前の命はオレのもんだっていうのによぉ~」
孝太郎は少しでも自分の右手を動くのを確認する。
(チャンスは一回だけだ……得意げにオレの首を絞めようとしているあのクソッタレの鼻っ柱をへし折るには、ちょいとキツイお灸が必要だぜ……)
孝太郎は本当に咄嗟的に右手を振り上げ、阿里耶のブルートーンのスリーピースーツの裾を自らの魔法で破壊した。
その事が孝太郎の手によって引き起こされたのを確認すると、阿里耶は咄嗟に身構えて、今度は魔法を使うための右腕だけではなく、武器保存ワーペン・セーブから、拳銃を構えた。
「くっ、オレの三十万もしたスーツを破きやがったな……」
阿里耶は今にも鼻息を膨らませながら、拳銃の銃口を向けているが、本当の怒りの理由はスーツを破いた事ではないことくらい、孝太郎にも理解できた。
(大方、オレのような学校を出たばかりの若い警官にあんなチート能力があるのが意外だったんだろうな、さっきは能力を見せる前に、アイツ阿里耶が殺しちまったからな……)
孝太郎の予想は当たっていた。まさに百発百中と言ってもいい。例えるのならば、競馬で自分の賭けた馬が見事優勝し、大金を得た男の気分と言ったところだろうか。
だが、そんな孝太郎の気分とは正反対の男がいる。当の予想相手の刈谷阿里耶だ。
(あのクソッタレの若僧め、まさか、あんな奴が……いいや、ここはオレが反省するべきだぜ、『あんな学校を出たてのガキだから、大した能力を持っているはずはない』そんな固定概念があった自分をな……)
阿里耶はそれから、ジックリと孝太郎の全身を見回す。
(あの野郎め、安い給料でこき使われているポリ公のくせして、上等なスーツを着ていやがるな、グレーフラネンスのスーツに、赤茶のネクタイ……趣味はジジイらしいな、若い癖にと言ってやりたいが……中々悪くない趣味をしていやがるな)
阿里耶は話が脱線したかなと独り言を呟いてから、孝太郎の右腕を見る。
(野郎の右腕だ……あそこからチョーツェ~~能力が生み出されるんだよな、あの弱そうなガキがあんな上級魔法を持っているなんてな、もしかして……)
ここで、阿里耶の脳裏にある名前が思い浮かぶ。
(アイツはもしかしたら、の派生なんじゃあないのか)
だが、阿里耶は流石に妄想が過ぎたとばかりに、自ら頭を横に振る。
(いくらなんでもそれはないか、徳川一族の出身なら、こんな街で警官なんかやってないか……)
そして、阿里耶は孝太郎の魔法の対処方法を考える。
(あの野郎の弱点は正面にしか、あの強力な右腕を振るえんってことだな、つまり、横や背後……死角から攻撃すれば、あのガキは簡単に天国に逝っちまうってことだな)
阿里耶は思い立ったが吉日とばかりに、孝太郎の側に駆け寄る。
(妙だな、何故オレの方に真っ直ぐに突っ込んで来るんだ……)
孝太郎は疑問に思いながらも、真正面から突っ込んでくる阿里耶に向かって、自らの右腕を構える。
そして、右腕を振り下ろそうとした時。
(ばっ、バカなッ!阿里耶の奴が姿を消しただとッ!)
孝太郎は自分の顔から血の気が引くのを感じたが……。
(待てよ、あの野郎は横や背後から、オレを襲おうとしているんじゃあないだろうな?ならば、オレはそこさえ気を付けていればいいわけだな……)
(何て、思ってんだろうな)
そう心の中で、孝太郎の心の声を見透かすように呟いたのは、エスカレーターより、更に上。天井の近くで空中に浮いている刈谷阿里耶。
(本当の狙いは横でも、背後でもなく、頭上なのさ……人は警戒しているところ以外……つまり、絶対に来ないだろうと思っているところを攻撃されると、弱くなるものなのさ……)
阿里耶がエスカレーターの近くで、自分を警戒している孝太郎目掛けて武器保存ワーペン・セーブを使い、ナイフを取り出し、真っ逆さまに降りようとした時だ。
「上だな」
孝太郎は視線を急に横でも、背後でもない上空に向けた。
阿里耶はこれには顔を青ざめさせるよりはなかった。まさか、自分の計画が見透かされているとは……。
「お前の考えていることなんざ、お見通しだっつーの」
孝太郎は21世紀初頭のライトノベルと呼ばれる書籍の主人公が使うような言葉で、ワザと言ってみる。折角の街の大物ヤクザの捕物なので、カッコをつけてみたかったのだろう。
「確かにな、大体の人ならば、オレの死角になろうである横か背後を選ぶだろうな、そしてそこばかりを警戒するはずなんだ……だけどな、オレは全ての方向を警戒したんだ。咄嗟にな、まさに神の意志と言っても過言ではないかもしれない……」
「クソッタレめ、三国志の中に出てくる蜀のリレー式の見張り台の兵士かよ、テメェはッ!」
「いいや、オレはソイツらとも違うぜ、オレは地下も警戒したし、上空も警戒した。お前はたまたま、上空にいただけさ」
刈谷阿里耶は空中で固まって動けなくなってしまった。
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