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第一部 『白籠町のアンタッチャブル (決して触れられないもの達)』

第七話 新たなるヤクザ組織

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刈谷阿里耶は不機嫌であった。
理由はたったと一つ。自分たちがこの日本共和国において禁止されているタバコを密造されているという証拠を警察に握られてしまったからだ。
刈谷は不機嫌そうな調子で、秘書の久方彩香を呼び出す。
「お呼びでしょうか、刈谷様……」
「そうだな、お前に頼みたい事があるんだがな……」
阿里耶は信頼できる秘書にある冷酷な指示を下す。
「成る程……あなた様はあのお方を始末なさるおつもりなのですね?」
「その通りさ、あ~お前直々に出向く必要はない、ウチの組で有能な奴を仕向けろ、あの野郎を始末する」
阿里耶は自分をまるで実の親のように慕う山城拓也をいとも簡単に、まるで古くなった雑誌を捨てるような気軽さで命令した。
彩香としては抵抗を感じずにはいられなかったのだが、阿里耶の命令に逆らう訳にはいかない。
「分かりましたわ、早速……」
だが、ここで彩香は大事な要件を思い出す。
「いえ、あなた様は確か明日は竜堂寺組の組長竜堂時清太郎と面会のご予定があるのではありませんか?」
阿里耶は構わぬという風に、彩香の言葉に反論したが、彩香は今日のところはしつこく食い下がる。
「竜堂寺組は関西最大のヤクザであり、尚且つ我々とは折り合いが悪いのは、あなた様もご存知の筈でしょう?今、組を動かして、竜堂寺組に何か勘付かれるのは不味いのです」
彩香の言葉に、阿里耶はならばと彼女を自分の派手な黒色の椅子の側に来るように命令した。
彩香が近づいた後に、阿里耶は彩香の耳元で何やら囁く。端正な口元を緩めながら。
「……それは良い考えですわ、早速実行に移すのが、良いかと存じます」
「よし、ならば組の全ての連中に通達しろ、三日後白籠駅でとな……」
彩香は阿里耶の側から離れると、阿里耶の派手な書斎をグルリと見渡す。
魔法特化型の強化ガラスを背にそびえ立っている黒の革の派手な社長椅子に派手な金色の電話が乗った社長机。
そして、その机と椅子の前に敷かれているのは、トラの毛皮。
周囲には社長椅子と同様の黒色の革の椅子が向かい合って並んでいる他に、上等の黒のソファーが一台。
そして観葉植物が多数。本棚には彼の本嫌いの性格を表しているのか、難しい本やら小説やらが入っておらずに、代わりに漫画やギャング映画のDVD(300年前から映像の保存技術はDVDと決まっているのだ)が多数。
特に『スカーフェイス』は何度も観ているのか、頻繁に出し入れした後がケースの上の傷により判別できた。
それを自分のデカイ私室で観るのだろうか。
いずれにしろ、彩香には彼の私生活など何の関係もないのだ。
副組長(実際には秘書だが)として組員に命令を出すのは、自分の仕事だ。
だが、今日は夜も遅い。とにかく今日は帰りたい。
彩香は帰ったら、温かいシャワーで体を休ませようと心に決めた。


白籠町のアンタッチャブル のリーダーこと、折原絵里子は今日の任務のために至極不機嫌であった。
先日に刈谷阿里耶の手下山城拓也とタバコ密売チームの摘発後に白籠警察署の署長から受けた命令は、これまでの絵里子の努力を無に帰すものと同様である。
と、彼女は考えていた。
そんな時だ。白籠駅のプラットホームから、一人の老年の男が歩いてくるのを見て、ようやく絵里子は正気に返った。
事前の映像資料により、本人の確認は済ませていたというのに。
ーーー竜堂寺清太郎。
関西最大のヤクザのボスであり、まさにヤクザと言った先代とは打って変わり、組織の合法化に務めている人物であり、彼の長年の活躍により、竜堂寺組は合法組織一歩手前まで登りつめている。
だが、ここでトラブルが現れた。そう、刈谷阿里耶の存在だ。
白籠市を暴政により、恐怖の街に陥れ、ヤクザの名前を日本どころか、海外のマフィア組織にすら知らしめた刈谷阿里耶と刈谷組の存在はこれまで政府や警察や世間から清太郎や竜堂寺組やその下の系列のヤクザ組織にとっては、邪魔でしないのだろう。
だから、白籠町を訪れたのだ。刈谷阿里耶を牽制するために……。
「初めまして、あなたが白籠町のアンタッチャブル こと、折原絵里子さんですね?私の名前は竜堂寺清太郎と言います。関西の方では有名な実力家でして……」
「お噂はかねがね、お聞きしておりますわ、もうじき他のメンバーもあなたの護衛のために到着する予定ですが……」
「護衛?お言葉はありがたいのですが、護衛が護衛にならないのでは?」
清太郎の言葉は全くもって的を射ていた。
刈谷阿里耶がいくら、無鉄砲で勇敢なる人物で、自分の魔法に自信を持っていようとも、日本ヤクザ組織のトップたらん清太郎を襲うような真似はしないだろう。
だが、自分たちは昨日の密造タバコ摘発の件で刈谷阿里耶並びに刈谷組の連中に恨まれているだろう。
だから、自分たちはいつ襲撃に遭ってもおかしくはない立場なのだ。
だから、敵対関係にある自分たちが護衛に付けば、無関係の清太郎も、とばっちりを食らうと考えているのだろうと。
「あなたの考えていることも分かりますが……我々としては全力で警備に当たらせていただく所存で……」
絵里子は自分でも心にもない事を言っていると思った。
絵里子はそもそも最初に上層部からこの話を聞かされた時に、何度も何度も叫びたくなるのを必死に我慢していたから。
そもそも、自分たちは刈谷阿里耶というヤクザの親玉を捕まえるのに苦労しているのに、どうして別のヤクザ組織の親玉を守る必要があるのだろうかと。
上層部が言うには、毒を持って毒を制す作戦らしいが、絵里子には納得がいかなかった。
確かに、目の前の竜堂寺清太郎はいつも派手なスーツを着込み、上等の黒の艶の髪を見せびらかし、そして絵里子やアンタッチャブルの仲間を除いた全ての女性に受け入られそうな端正な顔。そして常に側にいる美しき女秘書。
そんな刈谷阿里耶とは対照的な存在と言えただろう。
特に彼は壮年の物静かな男性だし、着ている服も地味な羽織と着物という和服だ。
刈谷阿里耶を"悪魔"と表現するのならば、竜堂寺清太郎は"妖怪"と評するべきなのかもしれない。
絵里子としては妖怪と悪魔がお互いを食い潰しあい、いずれは共倒れする事を望んでいるのだが……。
そんな事を考えていると、携帯端末の連絡アプリに全員からのメッセージが届いた。
もうじき、駅に到着するらしい。
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