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エピローグ『悪魔の使者たちは黄昏時に天国の夢を見るか?』
神通恭介の場合ーその19
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恭介が悲鳴と共に目を覚ましたのは風が吹き荒む荒れた病院の一室であった。
恭介は慌てて周りを確認する。そこにはあの恐ろしいベルゼブブの姿は見えなかった。どうやらベルゼブブや他の悪魔たちはどこか別の場所へと向かったか或いはあそこから一時的な退却を行ったのかもしれない。
なんにせよ逃げる事ができたのはありがたい。恭介はベッドの上で一息を吐く。
いずれにしろベルゼブブという恐ろしい敵から逃げる事ができた事と自身の声が戻った事に関しては幸運だというべきだろう。
周りを見渡すとそこには散乱した家具などが見えた。
特にテレビなどはテレビ台の上から引き摺り下ろされてしまい今では地面の上を転がりもはやその役割を果たしてはいない。
恭介がテレビに向かって憐憫ともいえる感情を向けていた時だ。突然扉を叩く音が聞こえた。恭介が入室を許可するとそこには心配そうな顔で恭介の姿を見つめる青年たちの姿。
「あ、あなたたちは?」
「我々は地元の青年団の者だよ。大東京の真ん中で倒れているキミの姿を見つけたんだ」
「べ、ベルゼブブや他の悪魔たちは!?」
「安心したまえ、撤退したよ。我々が来た時には奴らは既に姿を消していた」
「……女の子!?隣に女の子がいませんでしたか!?おれと同じ歳くらいの可愛い女の子です……」
恭介は必死になって訴えかけたのだが、その場にいた青年たちは誰もが顔を俯かせて首を横を横に振るばかりである。
という事は美憂の死体は放置されたのだろうか。志恩の死体は安置されたというのにどうして美憂は駄目なのだろう。
恭介はその事実に気がつくと半狂乱になりながら扉を開けて外へと飛び出そうと試みる。
「ま、待ってくれ!あんたッ!その傷でどこに行くつもりだ!?」
「美憂のところだよッ!おれは死んでしまった美憂のところに行って美憂を供養しねぇとおれは申し訳が立たねぇんだよ!」
「待てッ!その傷では無理だッ!」
「離せッ!離してくれッ!おれは今すぐにでも美憂を墓に入れないとーー」
「きっともう他の死体に紛れててわからねぇよ!今頃行っても無駄だッ!」
「無駄なわけあるもんかッ!おれは美憂の死体をーー」
「それよりもあんたの傷を治す方が大事だろうがッ!」
「そんなもの後回しだッ!美憂ッ!美憂ゥゥゥゥゥ~!!」
恭介の絶叫が響き渡っていく。恋人の名前を求めて泣き叫ぶ美憂の姿に青年たちは思わず顔を見合わせてしまう。
泣き叫ぶ恭介を慰めようとしたのだが、恭介は落ち着く素振りを見せなかった。
そのため恭介は病院の中に作られた拘束具の付いたベッドへと送られる事になった。暴れ回る患者を拘束するために設置されたそのベッドは病院のベッドというよりは刑務所において凶悪な囚人を拘束するためのベットと表現した方が適切かもしれない。
恭介がベッドの上に縛り付けられて死んでしまった美憂を思って泣いていた時だ。不意に自分の中から何かが抜け出していく様な感触を味わった。例えるのならば何か大きな食べ物を食べた後に満足して出す心地の良い欠伸の様な感触であった。と、同時に恭介の口から一つの影が出てきた。その影は飛び出すのと同時に白色のパーカーに身を包んだ少女へと姿を変えていく。
それはかつて恭介が契約を交わした時のルシファーと契約した姿そのものであった。
「やぁ、神通恭介」
「……ルシファー。どういうつもりだ?」
「決まっているだろ?キミと契約破棄をしたんだよ」
「け、契約破棄?」
目を丸くする恭介とは対照的にルシファーは何を当たり前だと言わんばかりの呆れた様な表情を浮かべながら言った。
「だってそうだろ?ゲームは『地獄への入り口』が開いた時点で破棄されてしまったんだから」
「……そ、それって」
「その通り、あの時点でキミたちは契約破棄をされてただの人間になってしまってもおかしくはなかった。それでもぼくらはキミたちと契約し続けていた……何故だかわかるかい?」
恭介はルシファーの問い掛けを呆然としながら聞いていた。ルシファーは何を言っているのだろう。恭介はその言葉の意味が理解できなかった。虚な瞳で自身を見つめ続けている恭介に対してルシファーは満面の笑みを浮かべて言った。
「キミたちの絶望する姿を見たかったからさッ!悪魔にとって人間が絶望する姿は最高のご馳走なのさッ!」
「そ、そんな事のためにおれたちから離れなかったのか?と、なるとルシファー……あの侵攻の時からお前はずっとおれたちを嘲笑っていたのか?志恩の覚悟も美憂の死に際もお前らにとっては宴会場を盛り上げるための宴会芸みたいなものだったのか?」
「おっ、その表現いいねッ!今度からそれを使わせてもらうよ」
ルシファーは満面の笑みで言った。恭介はルシファーが恐ろしくて仕方がなかった。表向きは人の欲望を叶えるフリをしておいて、裏では契約した人間をどうし絶望に追い込むかを思案していたに違いない。
恭介はルシファーの体から悪魔の影といえるものが見えてきた。悍ましいものが蠢き、恭介に向かって話し掛けているかの様だ。
「……ざけんな」
恭介は無意識のうちに呟いていた。恭介の吐き捨てた暴言を聞くために近寄ったルシファーに向かって彼は耳元で大きな声を上げて怒鳴り込む。
「ざけんなッ!おれたちを殺し合いのゲームに巻き込みやがってッ!挙句の果てにおれたちをこんな目に遭わせやがって!?おれたちがお前ら悪魔に何をしたっていうんだ!?」
「ハハッ、キミがそれをいうのかい?神通恭介……思い出してごらん?ゲームにキミが乗ったのは不純な動機だったじゃあないか、ゲームも慣れてからはキミも楽しんでいたじゃあないか、戦いを止めるなんて言っておきながらキミはその内では戦いを楽しんでいたんだッ!」
ルシファーの唇が吊り上がっていく。心底から楽しんでいるという表情である。彼女ば大きな笑い声を上げながら話を続けていく。
「答えられないところを見ると図星らしいねぇ。まぁ、当然か……なにせゲームには最上真紀子を始めとした優秀なサンドバッグたちがいたからねぇ。死んで当然の女、最低の悪人ども……そんな名目でキミたちは嬉々として戦いに臨んでいた様に見えるなぁ」
「ちが、違うッ!」
「悪女や悪人になら何をしても無罪だと思っていたんだろ?神通恭介?」
「ち、違う!」
恭介は自分の胸に針の様なものが突き刺さった事に気が付いた。動揺する恭介を他所にルシファーは話を続けていく。
「キミらは悪女や悪人が相手なら家の中に入って財布を取ろうとも、夜中に押し入って包丁を突き付けて逃げる様を楽しんでも無罪だと思っているんだろ?」
ルシファーの笑みが絶頂に達した。心底から怯える恭介の姿を見て楽しんでいるのだろう。ニヤニヤとしたいやらしい笑顔を浮かべるルシファーの姿が目に焼き付いて離れない。
「なんの話だよ。おれはそんな事をしてないぞ。最上にすらそんな事はしてない」
「例えばの話だよ。ぼくはある身勝手な男の話を例に挙げただけに過ぎない」
ここで恭介はルシファーが唇を半月の型に歪めるのを目撃した。彼女の中でいよいよ自身を追い詰める佳境に達したらしい。
恭介はルシファーの身勝手な主張に反論の言葉を飛ばそうとしたのだが、ルシファーが工作をしたのか反論の術を失ってしまった恭介は口をパクパクと動かしながら得意気な顔を浮かべて自身を見下ろすルシファーを見つめていた。
「まだまだ言わせてもらうよ。キミら人間はそうだ。悪者を見つければ寄ってたかって殴り殺す………言っておくけど、その件に関してはぼくらは何も関与してないよ。キミたち人間の醜い一面だ。各国にそんな例は沢山あるからねぇ。今度それについて調べてみなよ」
ルシファーは完全に打ちのめされたと言わんばかりの表情を浮かべる恭介を見下ろしながら言った。
恭介は慌てて周りを確認する。そこにはあの恐ろしいベルゼブブの姿は見えなかった。どうやらベルゼブブや他の悪魔たちはどこか別の場所へと向かったか或いはあそこから一時的な退却を行ったのかもしれない。
なんにせよ逃げる事ができたのはありがたい。恭介はベッドの上で一息を吐く。
いずれにしろベルゼブブという恐ろしい敵から逃げる事ができた事と自身の声が戻った事に関しては幸運だというべきだろう。
周りを見渡すとそこには散乱した家具などが見えた。
特にテレビなどはテレビ台の上から引き摺り下ろされてしまい今では地面の上を転がりもはやその役割を果たしてはいない。
恭介がテレビに向かって憐憫ともいえる感情を向けていた時だ。突然扉を叩く音が聞こえた。恭介が入室を許可するとそこには心配そうな顔で恭介の姿を見つめる青年たちの姿。
「あ、あなたたちは?」
「我々は地元の青年団の者だよ。大東京の真ん中で倒れているキミの姿を見つけたんだ」
「べ、ベルゼブブや他の悪魔たちは!?」
「安心したまえ、撤退したよ。我々が来た時には奴らは既に姿を消していた」
「……女の子!?隣に女の子がいませんでしたか!?おれと同じ歳くらいの可愛い女の子です……」
恭介は必死になって訴えかけたのだが、その場にいた青年たちは誰もが顔を俯かせて首を横を横に振るばかりである。
という事は美憂の死体は放置されたのだろうか。志恩の死体は安置されたというのにどうして美憂は駄目なのだろう。
恭介はその事実に気がつくと半狂乱になりながら扉を開けて外へと飛び出そうと試みる。
「ま、待ってくれ!あんたッ!その傷でどこに行くつもりだ!?」
「美憂のところだよッ!おれは死んでしまった美憂のところに行って美憂を供養しねぇとおれは申し訳が立たねぇんだよ!」
「待てッ!その傷では無理だッ!」
「離せッ!離してくれッ!おれは今すぐにでも美憂を墓に入れないとーー」
「きっともう他の死体に紛れててわからねぇよ!今頃行っても無駄だッ!」
「無駄なわけあるもんかッ!おれは美憂の死体をーー」
「それよりもあんたの傷を治す方が大事だろうがッ!」
「そんなもの後回しだッ!美憂ッ!美憂ゥゥゥゥゥ~!!」
恭介の絶叫が響き渡っていく。恋人の名前を求めて泣き叫ぶ美憂の姿に青年たちは思わず顔を見合わせてしまう。
泣き叫ぶ恭介を慰めようとしたのだが、恭介は落ち着く素振りを見せなかった。
そのため恭介は病院の中に作られた拘束具の付いたベッドへと送られる事になった。暴れ回る患者を拘束するために設置されたそのベッドは病院のベッドというよりは刑務所において凶悪な囚人を拘束するためのベットと表現した方が適切かもしれない。
恭介がベッドの上に縛り付けられて死んでしまった美憂を思って泣いていた時だ。不意に自分の中から何かが抜け出していく様な感触を味わった。例えるのならば何か大きな食べ物を食べた後に満足して出す心地の良い欠伸の様な感触であった。と、同時に恭介の口から一つの影が出てきた。その影は飛び出すのと同時に白色のパーカーに身を包んだ少女へと姿を変えていく。
それはかつて恭介が契約を交わした時のルシファーと契約した姿そのものであった。
「やぁ、神通恭介」
「……ルシファー。どういうつもりだ?」
「決まっているだろ?キミと契約破棄をしたんだよ」
「け、契約破棄?」
目を丸くする恭介とは対照的にルシファーは何を当たり前だと言わんばかりの呆れた様な表情を浮かべながら言った。
「だってそうだろ?ゲームは『地獄への入り口』が開いた時点で破棄されてしまったんだから」
「……そ、それって」
「その通り、あの時点でキミたちは契約破棄をされてただの人間になってしまってもおかしくはなかった。それでもぼくらはキミたちと契約し続けていた……何故だかわかるかい?」
恭介はルシファーの問い掛けを呆然としながら聞いていた。ルシファーは何を言っているのだろう。恭介はその言葉の意味が理解できなかった。虚な瞳で自身を見つめ続けている恭介に対してルシファーは満面の笑みを浮かべて言った。
「キミたちの絶望する姿を見たかったからさッ!悪魔にとって人間が絶望する姿は最高のご馳走なのさッ!」
「そ、そんな事のためにおれたちから離れなかったのか?と、なるとルシファー……あの侵攻の時からお前はずっとおれたちを嘲笑っていたのか?志恩の覚悟も美憂の死に際もお前らにとっては宴会場を盛り上げるための宴会芸みたいなものだったのか?」
「おっ、その表現いいねッ!今度からそれを使わせてもらうよ」
ルシファーは満面の笑みで言った。恭介はルシファーが恐ろしくて仕方がなかった。表向きは人の欲望を叶えるフリをしておいて、裏では契約した人間をどうし絶望に追い込むかを思案していたに違いない。
恭介はルシファーの体から悪魔の影といえるものが見えてきた。悍ましいものが蠢き、恭介に向かって話し掛けているかの様だ。
「……ざけんな」
恭介は無意識のうちに呟いていた。恭介の吐き捨てた暴言を聞くために近寄ったルシファーに向かって彼は耳元で大きな声を上げて怒鳴り込む。
「ざけんなッ!おれたちを殺し合いのゲームに巻き込みやがってッ!挙句の果てにおれたちをこんな目に遭わせやがって!?おれたちがお前ら悪魔に何をしたっていうんだ!?」
「ハハッ、キミがそれをいうのかい?神通恭介……思い出してごらん?ゲームにキミが乗ったのは不純な動機だったじゃあないか、ゲームも慣れてからはキミも楽しんでいたじゃあないか、戦いを止めるなんて言っておきながらキミはその内では戦いを楽しんでいたんだッ!」
ルシファーの唇が吊り上がっていく。心底から楽しんでいるという表情である。彼女ば大きな笑い声を上げながら話を続けていく。
「答えられないところを見ると図星らしいねぇ。まぁ、当然か……なにせゲームには最上真紀子を始めとした優秀なサンドバッグたちがいたからねぇ。死んで当然の女、最低の悪人ども……そんな名目でキミたちは嬉々として戦いに臨んでいた様に見えるなぁ」
「ちが、違うッ!」
「悪女や悪人になら何をしても無罪だと思っていたんだろ?神通恭介?」
「ち、違う!」
恭介は自分の胸に針の様なものが突き刺さった事に気が付いた。動揺する恭介を他所にルシファーは話を続けていく。
「キミらは悪女や悪人が相手なら家の中に入って財布を取ろうとも、夜中に押し入って包丁を突き付けて逃げる様を楽しんでも無罪だと思っているんだろ?」
ルシファーの笑みが絶頂に達した。心底から怯える恭介の姿を見て楽しんでいるのだろう。ニヤニヤとしたいやらしい笑顔を浮かべるルシファーの姿が目に焼き付いて離れない。
「なんの話だよ。おれはそんな事をしてないぞ。最上にすらそんな事はしてない」
「例えばの話だよ。ぼくはある身勝手な男の話を例に挙げただけに過ぎない」
ここで恭介はルシファーが唇を半月の型に歪めるのを目撃した。彼女の中でいよいよ自身を追い詰める佳境に達したらしい。
恭介はルシファーの身勝手な主張に反論の言葉を飛ばそうとしたのだが、ルシファーが工作をしたのか反論の術を失ってしまった恭介は口をパクパクと動かしながら得意気な顔を浮かべて自身を見下ろすルシファーを見つめていた。
「まだまだ言わせてもらうよ。キミら人間はそうだ。悪者を見つければ寄ってたかって殴り殺す………言っておくけど、その件に関してはぼくらは何も関与してないよ。キミたち人間の醜い一面だ。各国にそんな例は沢山あるからねぇ。今度それについて調べてみなよ」
ルシファーは完全に打ちのめされたと言わんばかりの表情を浮かべる恭介を見下ろしながら言った。
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