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第三部『終焉と破滅と』
姫川美憂の場合ーその⑩
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姫川美憂は長晟剛教授の話を聞いて世界の滅亡を止めるため、あるいは人類の滅亡そのものを止めるための手助けを行おうと考え始めていた。
自身が安っぽい正義感に酔っているという事は否定できない事実なのであるが、それ故に開き直りも早かった。安っぽい正義で何が悪い。自分がやっているのは時代劇で主人公が人々を守るために悪代官や悪家老と対決するのと同じ様なものなのだ。そして、人々を脅かす敵を叩き斬るという事の何が悪いのだ。
美憂は自分が好きだった時代劇の事を思い出す。昭和のスターが演じる医者であるのと同時に凄腕の剣客である主人公が法で裁けない悪人を叩き斬るという時代劇である。
美憂が幼い頃に再放送で観たものだ。美憂にとってその時代劇の主人公はヒーローに等しかった。周りの人々は魔法少女アニメなどのヒロインであったが、美憂にとってのヒーローはその医師の剣客であったのだ。
美憂はまだ健在であった頃の両親に向かって叫んだ。
「あたし、先生みたいな人を救う人になりたいッ!」
それを聞いた両親が幼い美憂の頭を優しく撫でた事を覚えている。美憂が幼い頃から両親には白髪が目立っていたが、そんな優しい両親は美憂にとって自慢であったのだ。
美憂にとっては自身の両親が周りの他の両親と比べて老けている事など気にもならなかった。
美憂は今日は黙っていた恭介を絞り、大学の研究室から帰った後にはスーパーで買い物を済ませ、一足早くに両親の元へと帰った。
「ただいま、父さん、母さん」
美憂のその言葉を聞いて母親は優しく抱き締めたのである。
美憂は両親に今日はバイトがなかった事を告げると、そのままその手で料理を作っていく。
那須お浸しに、だし巻き卵、鯖の味噌煮、きんぴらごぼうなどを順番に作り上げていく。美憂は最後に玉ねぎと葱が入った味噌汁を作って夕飯のおかずを仕上げていくのだった。そして家族の茶碗の中に順番に米をよそう。
皿に料理を盛り、やがてアルバイトから帰ってきた父親を出迎えて家族三人の夕食を取る。
味噌汁を啜り、米をかき込んでいく。父親は美憂の作った料理をベタ褒めにし、上機嫌な様子で口にしていく。
美憂がそんな父の表情に満足して、食事を行っていると、不意に母が美憂の手を握って言った。
「ねぇ、美憂……昨日ね、お父さんと話し合ったんだけど、もうあんなアルバイトはやめてほしいって話をしてたの」
「あぁ、昨日な、お父さんバイト先で正社員にならないかって誘われてな。給料が手渡される様になったら、これまでのお前に頼り切りの生活からも抜け出せる」
「そうよ、これからあなたは普通の人生を取り戻すのよ」
美憂はその手から母の温もりが伝わってくるのを感じた。もうこれ以上あんな商売に手を染めなくて済む。もうこれ以上クラスメイトたちにその事を触れられなくて済む。
美憂の心は温かくなり、気が付けば無意識のうちにその涙を溢していた。そんな娘の涙を母親は優しく拭っていく。
「……偉かったわね。美憂。あなたはもう普通の女の子に戻れるのよ。今まで本当にごめんなさいね」
「すまなかったな、美憂」
「ううん。お父さんがまた働ける様になっただけ、あたしは嬉しい。じゃあ、これからはお父さんに任せてもいいかな?」
「勿論だともッ!」
父はその胸を強く叩きながら言った。
「これでも、高度経済成長期を支えた男の一人だからなッ!知ってるか?美憂。あの頃のおれは二十代で、建築業界に入ったばかりだった」
父はそうして過去の話を始めていく。自分が親方に苦しめられながらも、必死に技術を磨き、バブルの頃に自分の土建会社を建設した事。
それからこの家を買い、今の妻すなわち自身の母と結婚した事、それから二人で愛し合い、高齢と呼ばれる年齢になった頃に孫の様な年齢の娘である美憂が生まれた事を語った。
「……父さんが思うに、これまでの自分の人生の中で一番誇らしいと思った事はな、美憂、お前を授かった事だよ」
「あたしを?」
「あぁ、もう諦めてた時に妻が妊娠している事に気が付いてな……それからやっとの思いで妻に出産してもらってお前と出会った時に、父さんはお前に一生を捧げると誓ったんだ。同時にこんなに可愛らしい娘を授けてくれた事に感謝を感じたんだ」
「……そこまで褒められても、こちらとしては何もできない。弱ったな」
美憂が照れ臭そうに頭をかくと、そんな美憂を母が優しく抱き締めたのであった。
「いいのよ、私たちはあなたに幸せを貰ってるんだから」
美憂は温かくなった。心の底から温かくなってくるのだ。
その後に改めて食事をしたのだが、その日の夕食は大勢のスーツを着た男性との会食よりも美味しい食事だった。
美憂が両親がいる世界を救う事ができるのならば、ヒーローになろう。
そんな決断をした時だ。翌日になり、ニュースが入った。
あろう事か、父親が事故に見舞われたのだ。美憂が慌てて父親の入院先へと向かうと、そこにはやつれ切った顔を浮かべて横たわる父親の姿。
「父さん!父さん!」
美憂が昏睡状態になっている父親の元へと駆け寄り、父親を助けようとしたものの、父は美憂の必死の呼び掛けにも関わらずに翌朝に息を引き取った。
「ご臨終です。平成24年ーー」
美憂はそれを聞いて泣いた。思いっきり泣き喚いた。恥も外聞もない。笑いたい奴は笑えばいい。蔑みたい奴は蔑めばいい。美憂はそんな心境であった。
美憂は暫く病院の長椅子の上で腰を下ろし、項垂れていたのだが、生理現象には勝てなかったらしく、長椅子から立ち上がりトイレに向かう。用を出してトイレから出ると、その入り口の前にセーラー服を着た例の女性が立っていた。
「……天堂希空?」
「どう?お嬢ちゃん。父親を失った気分は?」
「ま、まさかお前が……」
全てを察して、拳を震わせる美憂に対して、希空は揶揄う様に言った。
「だってさぁ、あんたの不手際であたしは父親を失ったんだよ?だから、そのあんたには報いを受けてもらったの」
美憂はその言葉を聞いた瞬間に我を忘れた。拳を振り上げて希空に向かっていく。だが、希空はそれをあっさりと交わし、反対に美憂の髪を掴み上げて言った。
「ちょっと態度に気を付けなよ。あたしが優しくなかったら今頃あなたなんてあの世行きだよ」
「黙れッ!よくもあたしのお父さんをッ!」
「お嬢ちゃん。あんた『目には目を、歯には歯を』って言葉を知ってる?ハムラビ王の言葉なんだけど、あっ、無学なお嬢ちゃんは知らないか、ごめんね」
「‥‥黙れ、黙れェェェェ~!!」
美憂はそのまま殴り掛かろうとしていたのだが、希空はそれをゆっくりと受け止める。
「ダメでしょ?お嬢ちゃん。人にパンチなんかしたりしちゃ。それにさっきから何回同じ事を繰り返すのよ。あんたは壊れたスピカーか何か?」
「黙れ、黙れ、黙れ、よくもあたしのお父さんを……お父さんを返せッ!」
「それはこっちの台詞でしょうがッ!」
希空はそのまま美憂の頭に拳を振り下ろしたのである。
美憂は両手で頭を抑えながらそのまま病院を去っていく希空の背中を黙って睨んでいたのである。
一体父が何をしたというのか。自分だけに報復するのならばともかくどうして無関係である筈の父に報復するのだ。
どうして、自分の両親は高度経済成長やバブル経済を支え、国の発展に貢献した一人だというのにどうして、その功績が報われるどころか国の支配者に殺されなくてはならないのだろうか。
美憂の中の怒りは頂点に達した。そして、無意識のうちにある人物に連絡を取っていた。
「もしもし、最上か?時間が空いていたらすまない。少し、話があるんだ……とても大事な話がな」
そう語る美憂の表情は憎悪に満ち溢れていた。今の彼女の中には道徳や倫理などという感情は全て欠落していた。
あるのは復讐の一念だけであった。
自身が安っぽい正義感に酔っているという事は否定できない事実なのであるが、それ故に開き直りも早かった。安っぽい正義で何が悪い。自分がやっているのは時代劇で主人公が人々を守るために悪代官や悪家老と対決するのと同じ様なものなのだ。そして、人々を脅かす敵を叩き斬るという事の何が悪いのだ。
美憂は自分が好きだった時代劇の事を思い出す。昭和のスターが演じる医者であるのと同時に凄腕の剣客である主人公が法で裁けない悪人を叩き斬るという時代劇である。
美憂が幼い頃に再放送で観たものだ。美憂にとってその時代劇の主人公はヒーローに等しかった。周りの人々は魔法少女アニメなどのヒロインであったが、美憂にとってのヒーローはその医師の剣客であったのだ。
美憂はまだ健在であった頃の両親に向かって叫んだ。
「あたし、先生みたいな人を救う人になりたいッ!」
それを聞いた両親が幼い美憂の頭を優しく撫でた事を覚えている。美憂が幼い頃から両親には白髪が目立っていたが、そんな優しい両親は美憂にとって自慢であったのだ。
美憂にとっては自身の両親が周りの他の両親と比べて老けている事など気にもならなかった。
美憂は今日は黙っていた恭介を絞り、大学の研究室から帰った後にはスーパーで買い物を済ませ、一足早くに両親の元へと帰った。
「ただいま、父さん、母さん」
美憂のその言葉を聞いて母親は優しく抱き締めたのである。
美憂は両親に今日はバイトがなかった事を告げると、そのままその手で料理を作っていく。
那須お浸しに、だし巻き卵、鯖の味噌煮、きんぴらごぼうなどを順番に作り上げていく。美憂は最後に玉ねぎと葱が入った味噌汁を作って夕飯のおかずを仕上げていくのだった。そして家族の茶碗の中に順番に米をよそう。
皿に料理を盛り、やがてアルバイトから帰ってきた父親を出迎えて家族三人の夕食を取る。
味噌汁を啜り、米をかき込んでいく。父親は美憂の作った料理をベタ褒めにし、上機嫌な様子で口にしていく。
美憂がそんな父の表情に満足して、食事を行っていると、不意に母が美憂の手を握って言った。
「ねぇ、美憂……昨日ね、お父さんと話し合ったんだけど、もうあんなアルバイトはやめてほしいって話をしてたの」
「あぁ、昨日な、お父さんバイト先で正社員にならないかって誘われてな。給料が手渡される様になったら、これまでのお前に頼り切りの生活からも抜け出せる」
「そうよ、これからあなたは普通の人生を取り戻すのよ」
美憂はその手から母の温もりが伝わってくるのを感じた。もうこれ以上あんな商売に手を染めなくて済む。もうこれ以上クラスメイトたちにその事を触れられなくて済む。
美憂の心は温かくなり、気が付けば無意識のうちにその涙を溢していた。そんな娘の涙を母親は優しく拭っていく。
「……偉かったわね。美憂。あなたはもう普通の女の子に戻れるのよ。今まで本当にごめんなさいね」
「すまなかったな、美憂」
「ううん。お父さんがまた働ける様になっただけ、あたしは嬉しい。じゃあ、これからはお父さんに任せてもいいかな?」
「勿論だともッ!」
父はその胸を強く叩きながら言った。
「これでも、高度経済成長期を支えた男の一人だからなッ!知ってるか?美憂。あの頃のおれは二十代で、建築業界に入ったばかりだった」
父はそうして過去の話を始めていく。自分が親方に苦しめられながらも、必死に技術を磨き、バブルの頃に自分の土建会社を建設した事。
それからこの家を買い、今の妻すなわち自身の母と結婚した事、それから二人で愛し合い、高齢と呼ばれる年齢になった頃に孫の様な年齢の娘である美憂が生まれた事を語った。
「……父さんが思うに、これまでの自分の人生の中で一番誇らしいと思った事はな、美憂、お前を授かった事だよ」
「あたしを?」
「あぁ、もう諦めてた時に妻が妊娠している事に気が付いてな……それからやっとの思いで妻に出産してもらってお前と出会った時に、父さんはお前に一生を捧げると誓ったんだ。同時にこんなに可愛らしい娘を授けてくれた事に感謝を感じたんだ」
「……そこまで褒められても、こちらとしては何もできない。弱ったな」
美憂が照れ臭そうに頭をかくと、そんな美憂を母が優しく抱き締めたのであった。
「いいのよ、私たちはあなたに幸せを貰ってるんだから」
美憂は温かくなった。心の底から温かくなってくるのだ。
その後に改めて食事をしたのだが、その日の夕食は大勢のスーツを着た男性との会食よりも美味しい食事だった。
美憂が両親がいる世界を救う事ができるのならば、ヒーローになろう。
そんな決断をした時だ。翌日になり、ニュースが入った。
あろう事か、父親が事故に見舞われたのだ。美憂が慌てて父親の入院先へと向かうと、そこにはやつれ切った顔を浮かべて横たわる父親の姿。
「父さん!父さん!」
美憂が昏睡状態になっている父親の元へと駆け寄り、父親を助けようとしたものの、父は美憂の必死の呼び掛けにも関わらずに翌朝に息を引き取った。
「ご臨終です。平成24年ーー」
美憂はそれを聞いて泣いた。思いっきり泣き喚いた。恥も外聞もない。笑いたい奴は笑えばいい。蔑みたい奴は蔑めばいい。美憂はそんな心境であった。
美憂は暫く病院の長椅子の上で腰を下ろし、項垂れていたのだが、生理現象には勝てなかったらしく、長椅子から立ち上がりトイレに向かう。用を出してトイレから出ると、その入り口の前にセーラー服を着た例の女性が立っていた。
「……天堂希空?」
「どう?お嬢ちゃん。父親を失った気分は?」
「ま、まさかお前が……」
全てを察して、拳を震わせる美憂に対して、希空は揶揄う様に言った。
「だってさぁ、あんたの不手際であたしは父親を失ったんだよ?だから、そのあんたには報いを受けてもらったの」
美憂はその言葉を聞いた瞬間に我を忘れた。拳を振り上げて希空に向かっていく。だが、希空はそれをあっさりと交わし、反対に美憂の髪を掴み上げて言った。
「ちょっと態度に気を付けなよ。あたしが優しくなかったら今頃あなたなんてあの世行きだよ」
「黙れッ!よくもあたしのお父さんをッ!」
「お嬢ちゃん。あんた『目には目を、歯には歯を』って言葉を知ってる?ハムラビ王の言葉なんだけど、あっ、無学なお嬢ちゃんは知らないか、ごめんね」
「‥‥黙れ、黙れェェェェ~!!」
美憂はそのまま殴り掛かろうとしていたのだが、希空はそれをゆっくりと受け止める。
「ダメでしょ?お嬢ちゃん。人にパンチなんかしたりしちゃ。それにさっきから何回同じ事を繰り返すのよ。あんたは壊れたスピカーか何か?」
「黙れ、黙れ、黙れ、よくもあたしのお父さんを……お父さんを返せッ!」
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美憂は両手で頭を抑えながらそのまま病院を去っていく希空の背中を黙って睨んでいたのである。
一体父が何をしたというのか。自分だけに報復するのならばともかくどうして無関係である筈の父に報復するのだ。
どうして、自分の両親は高度経済成長やバブル経済を支え、国の発展に貢献した一人だというのにどうして、その功績が報われるどころか国の支配者に殺されなくてはならないのだろうか。
美憂の中の怒りは頂点に達した。そして、無意識のうちにある人物に連絡を取っていた。
「もしもし、最上か?時間が空いていたらすまない。少し、話があるんだ……とても大事な話がな」
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