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第二部『箱舟』
姫川美憂の場合ーその⑥
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だが、そんな美憂のささやかな希望などはあっさりとウォルターの手によって打ち砕かれてしまった。ウォルターは零一を足で虐めたまま美憂の首を絞めて拘束したのである。
「ぐっ、バカな……」
美憂はレイピアを落とし、両手で自身の首を締め付けるウォルターの手を退けようとしたのだが、それは結果的に美憂の足をバタつかせるだけで終わってしまう。
兜の下で美憂が苦悶の表情を浮かべているというのは零一にも想像できた。
だが、今の自分ではどうする事もできない。零一は兜の下で頬を紅潮させていた。怒りの炎が心の中で燃え上がっていく。ウォルターという外道を必ずやこの手で取り除いてやるのだという思いで彼の頭の中は埋まっていた。
だが、思っていたとしてもそれは実行に移さなくては意味がない。
零一からすれば虚しさが募っていくばかりである。どうすればいい。
「ならよぉ、こいつが死ねばいいだけの話じゃねーか」
背後から真紀子の声が聞こえた。どうやら彼女は美憂より一足遅く恐怖と衝撃から立ち上がったらしい。同時に雨霰の様な銃弾が三人に向かって降り注いでいく。ウォルターは避けきれないと悟り、そのまま逃亡したので、割を食らったのは零一であった。彼一人であったのならば逃げきれたのだろうが、彼の近くには美憂がいた。零一は咄嗟に捨て身となって美憂を庇ったのであった。
大量の銃弾を浴びせられ既に彼は瀕死となっていた。そんな零一を美憂は抱き抱えた。
「どうして、あたしを?縁もゆかりもないはずなのに……」
「……警察官の仕事は市民を守る事なんだ。私はその役割を果たしただけなんだ……私は義務を果たしただけだ。だから気にしなくてもいいさ」
零一はそれから美憂に兜を外す様に指示を出す。
兜からは真の零一の顔が見えた。彼は今にも死にそうに口元から血を流している。美憂はそんな彼を優しく抱きしめた。
「……ありがとう。ここ数週間あんたの敵でしかなかった筈のあたしを守ってくれて……」
零一は美憂の感謝の言葉を聞くと、そのまま満足気な顔を浮かべて地面の上に倒れ込む。後悔など感じられない安らかな顔で彼は息を引き取ったのであった。
美憂は零一を丁寧に地面の上に下ろすと、そのまま背後にいた最上真紀子を睨む。
「んだよ、あたしが悪いっていうのか?しょうがねーだろ、一発だけだとウォルターを仕留められないと思ったんだ」
「お前のあの台詞だけを聞くと、ウォルターだけを狙った様にも聞こえるがな、その真の目的がわからない程、あたしの頭はボンクラじゃあないんでね。あんたの目的はあたしとあの人……そしてウォルターを纏めて殺す事にあったんだ……それで事故に見せかけて殺すのがあんたの真の目的だったんだね」
「だからなんだってんだよ?テメェがノコノコあの男を助けになんて行かなけりゃあ、あの男はあんたを庇わずに済んだかもしれねーんだぜ」
「いうに事欠いて、貴様……責任をあたしに擦り付けるつもりか?」
美憂の怒りが頂点に達したのだろう。兜の牙を折って、そのままそれを地面の上にばら撒いていく。同時に美憂の分身が地上から姿を表し、真紀子に向かって襲い掛かっていく。
真紀子は機関銃を乱射して美憂の分身を倒していくが、真紀子が銃を乱射するたびに美憂が牙を折ってそれ地面の上にばら撒き、真紀子の元へと向かわせていくためにいくら撃ち殺してもキリがないのである。
「クソッタレ!いくら撃ってもキリがねぇ!いくら湧いてくるんだよ!?」
真紀子は警察の追跡を逃れるために荷台からパトカーを撃つ大昔の映画のギャングの事を思い出す。
鳥取に住んでいた頃に深夜の放送で見た様な気がする。半分呆けていた曽祖母が好きだった様な気がする。
「フフ、こうして見てみると、1930年代の映画を思い出すな。懐かしいよ。1937年生まれの私は幼少期にかけてこの手の映画を観たもんだ」
「なっ、テメェ!?いつからそこに!?」
「キミたち二人が無意味な同士討ちを繰り広げているうちに移動させてもらったんだ。背後がガラ空きだったね。お嬢ちゃん!」
ウォルターは兜に守られた真紀子の顔を思いっきり叩いて彼女の体を一回転させると共にそのまま彼女の手から機関銃を奪い取ったのである。
真紀子が尻餅をついたところで彼女に向かってその銃口を突き付けたのである。
「ガッ、ちくしょう……」
「フフッ、最期だから言っておくがね、私はキミみたいなお奴が昔から嫌いだった。人を虐めて傷付けて、そのくせ自分はお上品だとでも言いたげな悪女がな」
「……悪女で悪かったな。じゃああたしが死ぬ前にその悪女に感謝でもしたらどうだ?カルト教祖……あたしの様な悪女がいるからあんたの教団が栄えるんだろうが、さぁどうだ?死ぬ前に悪女におやすみのキスでもしてくれたらいいんじゃあないのかい!?」
「キスはせんよ、代わりに祈ってあげるよう。そんな悪女を救うのも私の役目だからね。安心したまえ、きっとキミが神に救われて天国に行ける様に取り計らってあげるから」
ウォルターが真紀子から奪い取って機関銃の引き金を引こうとした時だ。目の前で真紀子が今度は新たに拳銃を召喚したのが見えた。
「……どうしたんだい?今更怖気付いたなんて言わねぇよな?」
「ぐっ、悪女の分際で粋な真似をするじゃあないか!」
「当たり前だろ?悪女っては粋な真似してなんぼなんだよ!ヒーローに酒を飲ませて、自分が襲われたふりをして他のヒーローからの信頼を失くさせたり、ラスボスを倒したヒーローを嵌めて、処刑にして自分の地位を安定させようとしたりしてな、ヒーローが逆襲したりパワーアップしたりする……その後で惨めったらしく殺されるのが悪女の役なんだぜッ!」
真紀子はそのまま宣戦布告も言わずにウォルターが持っていた自身の機関銃を落とす事に成功した。真紀子はウォルターが怯んだ隙を利用して、機関銃を奪い取り、背後に向かって退却を始めていくのである。真紀子は安全装置をつけて拳銃をポケットの中に仕舞うと、そのまま両手で機関銃を握って美憂の元へと突撃していく。
意外な突撃に美憂は真紀子を逃してしまう事になった。慌てて追い掛けようとしても、真紀子が素早く背後を振り返って機関銃の引き金を引いて弾丸を乱射する事で美憂の手から逃げる事に成功したのである。
目的地は恐らく弟の志恩が捕らえられていると思われるかつての支部長の屋敷だろう。
このまま逃してはなるまい。だが、自分たちを狙うウォルターも気になる。
だが、ウォルターはそんな美憂たちの意図を察したのか、兜越しに微笑を浮かべながら他の三人に向かって告げた。
「あの女を追うがいい。今回だけは私はキミたちをもう追跡したりはせんよ」
その言葉を聞いて美憂と他の二名は身体と精神の両方面で痛む体を起こして真紀子を追っていくのである。
そして真紀子を追ってかつての町長が住んでいた屋敷へと向かっていく三人に向かってウォルターは小さな声で別れの言葉を告げた。
「さらばだ。諸君……また近いうちに必ず会おう事になるであろうがな」
ウォルターは大きな笑い声を上げながら来客用のホテルへと戻っていくのであった。
「コクスン!お帰りなさいませ!」
ホテルの受付係の女性が慌てて頭を下げる。
「いや、そんなに畏まってもらわなくてもいいんだ……それよりもホテルの部屋は空いているかね?」
「あ、空き部屋などととんでもありません!コクスンにはホテルのスイートをご用意させてーー」
「気など遣わなくても大丈夫だ。適当な部屋に案内してくれたまえ」
受付係の女性はそれを聞いて恐縮した様子で頭を下げる。
ウォルターはそれからホテルのポーターに荷物を預けて自身に割り当てられた部屋へと向かっていく。
これからの事を色々と考えたくなくてはならないが、これから長い戦いを控える身になるであろうから、ウォルターとしてはまずはシャワーを浴びてリラックスしたかった。
「ぐっ、バカな……」
美憂はレイピアを落とし、両手で自身の首を締め付けるウォルターの手を退けようとしたのだが、それは結果的に美憂の足をバタつかせるだけで終わってしまう。
兜の下で美憂が苦悶の表情を浮かべているというのは零一にも想像できた。
だが、今の自分ではどうする事もできない。零一は兜の下で頬を紅潮させていた。怒りの炎が心の中で燃え上がっていく。ウォルターという外道を必ずやこの手で取り除いてやるのだという思いで彼の頭の中は埋まっていた。
だが、思っていたとしてもそれは実行に移さなくては意味がない。
零一からすれば虚しさが募っていくばかりである。どうすればいい。
「ならよぉ、こいつが死ねばいいだけの話じゃねーか」
背後から真紀子の声が聞こえた。どうやら彼女は美憂より一足遅く恐怖と衝撃から立ち上がったらしい。同時に雨霰の様な銃弾が三人に向かって降り注いでいく。ウォルターは避けきれないと悟り、そのまま逃亡したので、割を食らったのは零一であった。彼一人であったのならば逃げきれたのだろうが、彼の近くには美憂がいた。零一は咄嗟に捨て身となって美憂を庇ったのであった。
大量の銃弾を浴びせられ既に彼は瀕死となっていた。そんな零一を美憂は抱き抱えた。
「どうして、あたしを?縁もゆかりもないはずなのに……」
「……警察官の仕事は市民を守る事なんだ。私はその役割を果たしただけなんだ……私は義務を果たしただけだ。だから気にしなくてもいいさ」
零一はそれから美憂に兜を外す様に指示を出す。
兜からは真の零一の顔が見えた。彼は今にも死にそうに口元から血を流している。美憂はそんな彼を優しく抱きしめた。
「……ありがとう。ここ数週間あんたの敵でしかなかった筈のあたしを守ってくれて……」
零一は美憂の感謝の言葉を聞くと、そのまま満足気な顔を浮かべて地面の上に倒れ込む。後悔など感じられない安らかな顔で彼は息を引き取ったのであった。
美憂は零一を丁寧に地面の上に下ろすと、そのまま背後にいた最上真紀子を睨む。
「んだよ、あたしが悪いっていうのか?しょうがねーだろ、一発だけだとウォルターを仕留められないと思ったんだ」
「お前のあの台詞だけを聞くと、ウォルターだけを狙った様にも聞こえるがな、その真の目的がわからない程、あたしの頭はボンクラじゃあないんでね。あんたの目的はあたしとあの人……そしてウォルターを纏めて殺す事にあったんだ……それで事故に見せかけて殺すのがあんたの真の目的だったんだね」
「だからなんだってんだよ?テメェがノコノコあの男を助けになんて行かなけりゃあ、あの男はあんたを庇わずに済んだかもしれねーんだぜ」
「いうに事欠いて、貴様……責任をあたしに擦り付けるつもりか?」
美憂の怒りが頂点に達したのだろう。兜の牙を折って、そのままそれを地面の上にばら撒いていく。同時に美憂の分身が地上から姿を表し、真紀子に向かって襲い掛かっていく。
真紀子は機関銃を乱射して美憂の分身を倒していくが、真紀子が銃を乱射するたびに美憂が牙を折ってそれ地面の上にばら撒き、真紀子の元へと向かわせていくためにいくら撃ち殺してもキリがないのである。
「クソッタレ!いくら撃ってもキリがねぇ!いくら湧いてくるんだよ!?」
真紀子は警察の追跡を逃れるために荷台からパトカーを撃つ大昔の映画のギャングの事を思い出す。
鳥取に住んでいた頃に深夜の放送で見た様な気がする。半分呆けていた曽祖母が好きだった様な気がする。
「フフ、こうして見てみると、1930年代の映画を思い出すな。懐かしいよ。1937年生まれの私は幼少期にかけてこの手の映画を観たもんだ」
「なっ、テメェ!?いつからそこに!?」
「キミたち二人が無意味な同士討ちを繰り広げているうちに移動させてもらったんだ。背後がガラ空きだったね。お嬢ちゃん!」
ウォルターは兜に守られた真紀子の顔を思いっきり叩いて彼女の体を一回転させると共にそのまま彼女の手から機関銃を奪い取ったのである。
真紀子が尻餅をついたところで彼女に向かってその銃口を突き付けたのである。
「ガッ、ちくしょう……」
「フフッ、最期だから言っておくがね、私はキミみたいなお奴が昔から嫌いだった。人を虐めて傷付けて、そのくせ自分はお上品だとでも言いたげな悪女がな」
「……悪女で悪かったな。じゃああたしが死ぬ前にその悪女に感謝でもしたらどうだ?カルト教祖……あたしの様な悪女がいるからあんたの教団が栄えるんだろうが、さぁどうだ?死ぬ前に悪女におやすみのキスでもしてくれたらいいんじゃあないのかい!?」
「キスはせんよ、代わりに祈ってあげるよう。そんな悪女を救うのも私の役目だからね。安心したまえ、きっとキミが神に救われて天国に行ける様に取り計らってあげるから」
ウォルターが真紀子から奪い取って機関銃の引き金を引こうとした時だ。目の前で真紀子が今度は新たに拳銃を召喚したのが見えた。
「……どうしたんだい?今更怖気付いたなんて言わねぇよな?」
「ぐっ、悪女の分際で粋な真似をするじゃあないか!」
「当たり前だろ?悪女っては粋な真似してなんぼなんだよ!ヒーローに酒を飲ませて、自分が襲われたふりをして他のヒーローからの信頼を失くさせたり、ラスボスを倒したヒーローを嵌めて、処刑にして自分の地位を安定させようとしたりしてな、ヒーローが逆襲したりパワーアップしたりする……その後で惨めったらしく殺されるのが悪女の役なんだぜッ!」
真紀子はそのまま宣戦布告も言わずにウォルターが持っていた自身の機関銃を落とす事に成功した。真紀子はウォルターが怯んだ隙を利用して、機関銃を奪い取り、背後に向かって退却を始めていくのである。真紀子は安全装置をつけて拳銃をポケットの中に仕舞うと、そのまま両手で機関銃を握って美憂の元へと突撃していく。
意外な突撃に美憂は真紀子を逃してしまう事になった。慌てて追い掛けようとしても、真紀子が素早く背後を振り返って機関銃の引き金を引いて弾丸を乱射する事で美憂の手から逃げる事に成功したのである。
目的地は恐らく弟の志恩が捕らえられていると思われるかつての支部長の屋敷だろう。
このまま逃してはなるまい。だが、自分たちを狙うウォルターも気になる。
だが、ウォルターはそんな美憂たちの意図を察したのか、兜越しに微笑を浮かべながら他の三人に向かって告げた。
「あの女を追うがいい。今回だけは私はキミたちをもう追跡したりはせんよ」
その言葉を聞いて美憂と他の二名は身体と精神の両方面で痛む体を起こして真紀子を追っていくのである。
そして真紀子を追ってかつての町長が住んでいた屋敷へと向かっていく三人に向かってウォルターは小さな声で別れの言葉を告げた。
「さらばだ。諸君……また近いうちに必ず会おう事になるであろうがな」
ウォルターは大きな笑い声を上げながら来客用のホテルへと戻っていくのであった。
「コクスン!お帰りなさいませ!」
ホテルの受付係の女性が慌てて頭を下げる。
「いや、そんなに畏まってもらわなくてもいいんだ……それよりもホテルの部屋は空いているかね?」
「あ、空き部屋などととんでもありません!コクスンにはホテルのスイートをご用意させてーー」
「気など遣わなくても大丈夫だ。適当な部屋に案内してくれたまえ」
受付係の女性はそれを聞いて恐縮した様子で頭を下げる。
ウォルターはそれからホテルのポーターに荷物を預けて自身に割り当てられた部屋へと向かっていく。
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