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第一部『悪魔と人』
蜷川大輔の場合ーその③
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戦闘開始の合図は最上真紀子の機関銃であった。彼女はいつも通りの戦闘スタイルに身を包んだかと思うと、そのまま二人に向かって銃を乱射していったのである。そこからは各々がそれぞれ戦闘時の服装や鎧へと姿を変えていく。
そして最後に主催者である蜷川大輔が姿を変えた。蜷川の鎧兜はこの場に居合わせた誰のものよりも不気味であった。
彼の契約した悪魔がそうした鎧兜を与えたのだろうか、その場に居合わせた人々は嫌悪感を持って彼を見つめていた。
薔薇の花弁が全身に纏わりついたような兜の真ん中には鼠の顔が見えていたし、彼が身に纏っていた緑色の鎧には薔薇の荊と蛇とが重なり合っている間に悲鳴を上げる人々の顔が一人一人丁寧に記されていたのだ。
だが、侮ってはならないのはそんな不気味な鎧兜ばかりではない。一番の脅威は彼が両手に持っている巨大な戦斧であった。
その鋭い刃先が怪しく光り、獲物を狙っており、それはその場に居合わせた参加者たち全員に恐怖感を与えたのである。
そこから先は真紀子と大輔、それ以外という構図で大乱闘が行われた。大輔はこの戦いが初陣であったらしいが、彼の立ち居振る舞いは初陣とは思われない程に洗練された動きであった。
彼は自身に与えられた巨大な戦斧を振るって周りから襲ってくるサタンの息子たちを翻弄していくのである。
加えて、真紀子の銃撃というアシストまで存在するのだ。遠近の両方の距離から加えられる攻撃に五人のサタンの息子たちは苦戦していた。
文室千凛は剣を構えて距離を取りながら大輔と真紀子の両方を始末するための方法を考えていた。
彼から受けた依頼など彼が悍ましい鎧を身に纏い戦斧で自分ごと攻撃しようとした時に破棄してしまっている。
いつもの標的は最上真紀子だけであるが、今回は蜷川大輔が加わる事になっている。大輔は自分に与えられた力が信じられないのか、試し斬りと言わんばかりにあちこちに向かって斧を振るっていく。振るう衝撃で旋風が幾度も舞い上がり、その度に周りから攻撃を目論むサタンの息子たちが飛ばされていく。
「クソ、あんな斧があるなんて……このままだとこっちが不利になるばかりだ」
「その通りだ。なぁ、文室……なんとかしてあの男を斬り刻む事はできないのか?」
「無茶を言うなよ!あの斧は近付くだけで危険だ。たちまちのうちにあれに首を刎ねられてしまうだろうな」
「加えて、あのアバズレの銃弾がアシストするからな……長引けば長引くほどにあたしたちが不利になるだろうな」
美憂がレイピアを強く握り締めて言った。恐らく彼女の側にいた他の面々もそうであろう。絶望に陥った顔をしていた。
だが、その時に奇跡が起きたのか、真紀子の体の動きが止まった。その場に居合わせた全員が背後を振り返ると、そこには槍を構えた志恩の姿が見えた。
「そうかッ!志恩が願った願いのうちの三割があの女の動きを止める事だったな……」
「だとすれば、今は蜷川一人だけって事になる……」
恭介が意気込んで剣を振るいながら蜷川の元へと駆け寄っていった時の事である。飛び上がったはずの恭介の体が突然大きな金属音を立てたかと思うと、そのまま地面の上に落っこちてしまったのである。どうやら飛び上がった瞬間に戦斧の強烈な一撃を胸の真上から食らってしまい、地面の上に落ちてしまったのだろう。
千凛のその推測はその場に居合わせた全員を納得させた。
恭介は慌ててその場から退却しようとしたのだが、それは蜷川本人が許さない。
彼は恭介を足で拘束したかと、思うとそのまま両手で戦斧を握り締めて軽い声で言った。
「鬼さんつ、か、ま、え、たぁ~」
まるで、子供の遊びのようである。だが、その無邪気さがその場に居合わせた人々の恐怖を駆り立てたのである。
鎧の下で彼は舌舐めずりをして、そのまま恭介の頭を跳ね落とそうとしたのである。ここで千凛が勇気を出して剣を飛ばさなければ恭介の首と胴は泣き別れていたに違いない。
恭介はやっとの思いでその場から這い出して、仲間たちの元へと逃げ帰っていく。
兜の下で散々泣き腫らしていた恭介であったが、仲間の元に戻れて一息吐けたので冷静に帰ることができたらしい。
彼は改めて剣を構え直したのである。
「闇雲に突っ走るとさっきの神通のようになるのか……これは不利だな」
「全くだ。だが、あたしは思うに全員で立ち向かっていてもあの男にかかっては同じではないのか?むしろ、一気に殲滅できる好機であると捉えられるかもしれん」
美憂の言葉に間違いはない。千凛は思わず身を震わさせられた。
あの化け物にどうすれば勝てるのだろうか。攻略法を見出すために懸命に頭を動かしていたのだが、ここに来て動きが生じた。あろう事か、彼は志恩の願いを受けて倒れている最上真紀子を自身の戦斧の標的に定めたのである。
この事に対して我を忘れたのが、志恩であった。彼は槍を構えて走り去り、真紀子の命を狙おうとする大輔を倒さんとしたのである。
だが、志恩の命懸けの特攻も大輔が背後を振り返り、斧を振るって志恩の攻撃を防いだ事によって無に返してしまったのである。
大輔はゆっくりと振り返り、志恩に向かっておちょくるように言った。
「あれあれ?何かしたのかな?もしかしておれを殺そうとか考えたのかな、坊や」
「そ、それはわからない……けど、あなたがお姉ちゃんを殺そうとしたからそれを止めたいと思ったのは事実だッ!」
志恩の叫ぶ声を聞いて大輔はわざとらしく口笛を吹いていく。
「志恩くんは偉いねぇ~お姉ちゃん思いなんだねぇ~けど、勇気と蛮勇とは全く別のものだという事をそろそろ学んでおいた方がいいと思うけどなぁ~」
「へっ、何をほざきやがる。異常者が」
背後から声がしたので振り返ると、そこには丸い弾倉の付いた機関銃を構えた最上真紀子の姿が見えた。
「テメェとの縁はこれで終わりだぜ、こいつでテメェの頭をあの世にまで吹っ飛ばしてやる」
「できるものならね」
大輔は小馬鹿にした様な笑みを浮かべながら言った。
「へっ、テメェはもう客でもなければ相棒でもねぇ、もうあたしに躊躇いはねぇよッ!」
真紀子はそう叫ぶと両手に握っていた機関銃の引き金を引いて蜷川大輔を蜂の巣にしていく。
銃弾の雨霰が大輔へと直撃していき、彼自身を弱らせていくが、大輔は意に返す事なく真紀子の元へと進んでいく。
勿論“サタンの息子”に与えられる武器は人間が作り出した武器とは異なり、制限や弱点などはない。なので弾丸も無限に装填されている筈なのだが、それでも男は幾ら食らっても向かってくるのだから不気味である。
(あの男は化け物かなんかか!?どうしてあんな風に寄って来れるんだよッ!クソッタレ!)
真紀子は心の中で悪態を吐き、やむを得ず後退していくが、男はそのまま退却していく真紀子をゆっくりとした歩調で追っていく。
「あれあれ?どうしたのかな?真紀子ちゃん、おれの頭を吹っ飛ばすんじゃあなかったの?」
その言葉に心胆を寒からしめられたのは張本人の真紀子ではなく、その弟の志恩である。
志恩は先程敵わなかった身の上にありながらも姉を救うために果敢に動き出していたのだ。彼は果敢にも槍を放り投げて男の動きを止めようとしたのである。
足音を立てず、また殺気を感じさせる事もなかったためか、幸運な事に槍は男の背中に直撃した。
大輔は大きな悲鳴を上げて地面の上に倒れ込む。
慌てて駆け寄ろうとした志恩に対して、背後に控えていた千凛は異常を感じて呼び止めた。すると、大輔はゆっくりと起き上がってそのまま志恩の体を押さえ付けたのである。
「志恩ッ!」
真紀子と秀明の両名が同時に叫ぶ。だが、気を悪くした大輔は二人に対して大きな声で怒鳴り付けた事によって一蹴したのである。
「黙れッ!ちくしょう……このおれに傷を……クソガキの分際で銀行御曹司のこのおれに傷を付けたなッ!」
大輔は戦斧を放り捨て、代わりに自身の両手を志恩の首元に向かって絡ませていくのであった。
そして最後に主催者である蜷川大輔が姿を変えた。蜷川の鎧兜はこの場に居合わせた誰のものよりも不気味であった。
彼の契約した悪魔がそうした鎧兜を与えたのだろうか、その場に居合わせた人々は嫌悪感を持って彼を見つめていた。
薔薇の花弁が全身に纏わりついたような兜の真ん中には鼠の顔が見えていたし、彼が身に纏っていた緑色の鎧には薔薇の荊と蛇とが重なり合っている間に悲鳴を上げる人々の顔が一人一人丁寧に記されていたのだ。
だが、侮ってはならないのはそんな不気味な鎧兜ばかりではない。一番の脅威は彼が両手に持っている巨大な戦斧であった。
その鋭い刃先が怪しく光り、獲物を狙っており、それはその場に居合わせた参加者たち全員に恐怖感を与えたのである。
そこから先は真紀子と大輔、それ以外という構図で大乱闘が行われた。大輔はこの戦いが初陣であったらしいが、彼の立ち居振る舞いは初陣とは思われない程に洗練された動きであった。
彼は自身に与えられた巨大な戦斧を振るって周りから襲ってくるサタンの息子たちを翻弄していくのである。
加えて、真紀子の銃撃というアシストまで存在するのだ。遠近の両方の距離から加えられる攻撃に五人のサタンの息子たちは苦戦していた。
文室千凛は剣を構えて距離を取りながら大輔と真紀子の両方を始末するための方法を考えていた。
彼から受けた依頼など彼が悍ましい鎧を身に纏い戦斧で自分ごと攻撃しようとした時に破棄してしまっている。
いつもの標的は最上真紀子だけであるが、今回は蜷川大輔が加わる事になっている。大輔は自分に与えられた力が信じられないのか、試し斬りと言わんばかりにあちこちに向かって斧を振るっていく。振るう衝撃で旋風が幾度も舞い上がり、その度に周りから攻撃を目論むサタンの息子たちが飛ばされていく。
「クソ、あんな斧があるなんて……このままだとこっちが不利になるばかりだ」
「その通りだ。なぁ、文室……なんとかしてあの男を斬り刻む事はできないのか?」
「無茶を言うなよ!あの斧は近付くだけで危険だ。たちまちのうちにあれに首を刎ねられてしまうだろうな」
「加えて、あのアバズレの銃弾がアシストするからな……長引けば長引くほどにあたしたちが不利になるだろうな」
美憂がレイピアを強く握り締めて言った。恐らく彼女の側にいた他の面々もそうであろう。絶望に陥った顔をしていた。
だが、その時に奇跡が起きたのか、真紀子の体の動きが止まった。その場に居合わせた全員が背後を振り返ると、そこには槍を構えた志恩の姿が見えた。
「そうかッ!志恩が願った願いのうちの三割があの女の動きを止める事だったな……」
「だとすれば、今は蜷川一人だけって事になる……」
恭介が意気込んで剣を振るいながら蜷川の元へと駆け寄っていった時の事である。飛び上がったはずの恭介の体が突然大きな金属音を立てたかと思うと、そのまま地面の上に落っこちてしまったのである。どうやら飛び上がった瞬間に戦斧の強烈な一撃を胸の真上から食らってしまい、地面の上に落ちてしまったのだろう。
千凛のその推測はその場に居合わせた全員を納得させた。
恭介は慌ててその場から退却しようとしたのだが、それは蜷川本人が許さない。
彼は恭介を足で拘束したかと、思うとそのまま両手で戦斧を握り締めて軽い声で言った。
「鬼さんつ、か、ま、え、たぁ~」
まるで、子供の遊びのようである。だが、その無邪気さがその場に居合わせた人々の恐怖を駆り立てたのである。
鎧の下で彼は舌舐めずりをして、そのまま恭介の頭を跳ね落とそうとしたのである。ここで千凛が勇気を出して剣を飛ばさなければ恭介の首と胴は泣き別れていたに違いない。
恭介はやっとの思いでその場から這い出して、仲間たちの元へと逃げ帰っていく。
兜の下で散々泣き腫らしていた恭介であったが、仲間の元に戻れて一息吐けたので冷静に帰ることができたらしい。
彼は改めて剣を構え直したのである。
「闇雲に突っ走るとさっきの神通のようになるのか……これは不利だな」
「全くだ。だが、あたしは思うに全員で立ち向かっていてもあの男にかかっては同じではないのか?むしろ、一気に殲滅できる好機であると捉えられるかもしれん」
美憂の言葉に間違いはない。千凛は思わず身を震わさせられた。
あの化け物にどうすれば勝てるのだろうか。攻略法を見出すために懸命に頭を動かしていたのだが、ここに来て動きが生じた。あろう事か、彼は志恩の願いを受けて倒れている最上真紀子を自身の戦斧の標的に定めたのである。
この事に対して我を忘れたのが、志恩であった。彼は槍を構えて走り去り、真紀子の命を狙おうとする大輔を倒さんとしたのである。
だが、志恩の命懸けの特攻も大輔が背後を振り返り、斧を振るって志恩の攻撃を防いだ事によって無に返してしまったのである。
大輔はゆっくりと振り返り、志恩に向かっておちょくるように言った。
「あれあれ?何かしたのかな?もしかしておれを殺そうとか考えたのかな、坊や」
「そ、それはわからない……けど、あなたがお姉ちゃんを殺そうとしたからそれを止めたいと思ったのは事実だッ!」
志恩の叫ぶ声を聞いて大輔はわざとらしく口笛を吹いていく。
「志恩くんは偉いねぇ~お姉ちゃん思いなんだねぇ~けど、勇気と蛮勇とは全く別のものだという事をそろそろ学んでおいた方がいいと思うけどなぁ~」
「へっ、何をほざきやがる。異常者が」
背後から声がしたので振り返ると、そこには丸い弾倉の付いた機関銃を構えた最上真紀子の姿が見えた。
「テメェとの縁はこれで終わりだぜ、こいつでテメェの頭をあの世にまで吹っ飛ばしてやる」
「できるものならね」
大輔は小馬鹿にした様な笑みを浮かべながら言った。
「へっ、テメェはもう客でもなければ相棒でもねぇ、もうあたしに躊躇いはねぇよッ!」
真紀子はそう叫ぶと両手に握っていた機関銃の引き金を引いて蜷川大輔を蜂の巣にしていく。
銃弾の雨霰が大輔へと直撃していき、彼自身を弱らせていくが、大輔は意に返す事なく真紀子の元へと進んでいく。
勿論“サタンの息子”に与えられる武器は人間が作り出した武器とは異なり、制限や弱点などはない。なので弾丸も無限に装填されている筈なのだが、それでも男は幾ら食らっても向かってくるのだから不気味である。
(あの男は化け物かなんかか!?どうしてあんな風に寄って来れるんだよッ!クソッタレ!)
真紀子は心の中で悪態を吐き、やむを得ず後退していくが、男はそのまま退却していく真紀子をゆっくりとした歩調で追っていく。
「あれあれ?どうしたのかな?真紀子ちゃん、おれの頭を吹っ飛ばすんじゃあなかったの?」
その言葉に心胆を寒からしめられたのは張本人の真紀子ではなく、その弟の志恩である。
志恩は先程敵わなかった身の上にありながらも姉を救うために果敢に動き出していたのだ。彼は果敢にも槍を放り投げて男の動きを止めようとしたのである。
足音を立てず、また殺気を感じさせる事もなかったためか、幸運な事に槍は男の背中に直撃した。
大輔は大きな悲鳴を上げて地面の上に倒れ込む。
慌てて駆け寄ろうとした志恩に対して、背後に控えていた千凛は異常を感じて呼び止めた。すると、大輔はゆっくりと起き上がってそのまま志恩の体を押さえ付けたのである。
「志恩ッ!」
真紀子と秀明の両名が同時に叫ぶ。だが、気を悪くした大輔は二人に対して大きな声で怒鳴り付けた事によって一蹴したのである。
「黙れッ!ちくしょう……このおれに傷を……クソガキの分際で銀行御曹司のこのおれに傷を付けたなッ!」
大輔は戦斧を放り捨て、代わりに自身の両手を志恩の首元に向かって絡ませていくのであった。
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