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天楼牛車決戦編
戦いを制した武者
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子供の頃に憧れを抱いたのは源義経公だった。あれは少年誌に連載されていた時代小説の中に登場しており、彼が自ら軍を率いて、自らの手で戦いを指揮し、源平合戦にて源氏を勝利に導く姿に彼は憧れた。
次に憧れたのは小学生の頃に読んだ宮本武蔵。
武人として戦いを求め、次々と強力な相手と刀を結び合う姿は彼の憧れの姿だった。
と、そこまで回顧した所で今の自分を小さな坊主頭の少年が自分の服の裾を引っ張る姿が見えた。
「どうして、お兄ちゃんはそんな所に行くの?」
「太一郎兄ちゃんはね、ご奉公に行くのよ。だから、いつまでも袖を引っ張っていては兄ちゃんが安心して行けないでしょう?私たちが笑顔で見送ってーー」
「やだ!やだ!やだ!兄ちゃんが行っちゃうなんて嫌だ!行かないで太一郎兄ちゃん!」
幼い少年は幻の中でそう叫んでいた。懸命に自分の服を引っ張り、懸命に自分を呼び止めている。
やめろ。もうやめろ。見たくなんかない。
太一郎が頭を抱えていた時だ。不意に拳に強烈な一撃を喰らって地面の上に倒れ込む。
この痛みは?太一郎が自分の頬を抑えながら、真上を眺めると、真上には一人の青年が冷徹な表情で自分を見下ろしていた。
「痛いか、クソ野郎……けどな、お前にやられた二人はもっと痛かったんだぞ!」
風太郎はそう言って大きな一撃を太一郎に向かって放つ。
昭一はその殴られた痛みで自分が誰だったのかを思い出していく。
どうして、こんな大事な事を忘れていたのだろう。彼は長男として産まれた事から、太く立派に育つ様に太一郎と名付けられ、名門、鷹堂家の大事な跡取りとして育てられた。
やがて、彼が高等学校に進学する頃に、弟の正二郎が産まれた。
彼は歳の離れた弟を可愛がり、また弟もそれに答える様に、弟も兄に懐いていく。
まさに理想の光景であった。だが、悲劇は彼の弟が六歳になった時に起こった。
理系の大学に進学していた彼にもとうとう魔の手が伸び、彼は出征を余儀なくされ、その中で彼は空を志願した。
その後は……。思い出せない。開けてはいけない大きな扉の前に鎖が閉ざされたかの様に。
彼が悩み、葛藤していた時だ。風太郎が彼の顎の下に一撃を喰らわせて彼を転ばせていく。
彼は悲鳴を上げて地面の上に転がる。
やはり、過去など振り返らない方が良い。過去になんて囚われているから、手元が狂うのだ。過去になんて囚われているから、現在の戦闘に影響を及ぼすのだ。
彼は立ち上がって目の前に迫る風太郎に対して、作り上げた小型の戦闘機から機関銃を射撃しようとしたのだが、風太郎はそれらの全てを太刀から生じた風で弾丸を弾き飛ばしていく。
そして、そのまま彼は太刀を真上から振るう。
返り討ちにしてやろうかと考えたのだが、風太郎は何故か、地面の上に着地すると、改めて刀を構え直す。
不味い。彼の本能が告げる。空中に浮上させた小型の戦闘機を目の前の男に向けようとした時だ。
自分が狙ってきた男は両手で持っていた太刀を真横に構えて、男に向かって斬りかかっていく。
「破魔式『つむじ風隙間斬り』」
彼はそう呟くと、彼の体は真横に斬られていく。
同時に彼は悲鳴を上げて地面の上に倒れていく。
下半身と上半身は完全に泣き別れになってしまったらしい。
もう動く事もできないだろう。風太郎は一瞥し、立ち去ろうとするが、彼の瞳から涙が流れる様子を見つめていると、少しだけ哀れむ視線を向けてから、仲間を助けに向かう。
(……おれは死ぬのか?)
その問いに太一郎を迎えにきたと思われる少年が黙って首を縦に動かす。
(そうか……自棄になって大勢の人を呪い、殺してきたからな……別に悔いはない。さぁ、もういけよ。お前なんかのためにお前が地獄に行く事はないんだ)
だが、少年は首を横に振る。そして、大きな声で彼のみに聞こえる様に叫ぶ。
『嫌だ!もう兄ちゃんと離れ離れになるのは嫌なんだ!おれは兄ちゃんと一緒に過ごせるんなら、何処にでも行く!』
(あんまり我儘を言うな!正二郎!)
その言葉を発した瞬間に、彼は弟の大切な家族の名前を思い出す。同時に、それまで抑えられていた記憶が彼の頭の中に一斉に流れていく。
(そうか……あの日、食料をナップザックに入れて帰ってきたおれの前にもう家はなくて……それで、代わりに、チンピラが屯してて、それで抗議した所……)
あの黒いドレスに派手な飾りを付けた小柄な女が現れて、彼らを槍斧で惨殺した後に、彼の首元に得体の知れないものを注入したのだ。
『兄ちゃんが、あいつのせいで化け物になって、大勢の人を殺した事も知ってる。けど、兄ちゃんは兄ちゃん!オレのたった一人の兄ちゃんなんだ!だから、もう離さない!これからもずっと、オレの兄ちゃんでいてくれよ!』
太一郎の理性はその瞬間に崩壊した。両目から涙を流し、側によってきた幼い弟の頭を撫でていく。
そして、二人で地獄の業火へと包み込まれていく。
風太郎はそんな様子に気が付く事もなく、ようやく太一郎の体が消滅したのを確認すると、二人に手を貸す。
「あ、ありがとう。お陰で助かったよ。風太郎」
「オレも……正直、風太郎が来なければおれはあいつに殺されてたよ」
英治が先程まであった彼の場所を視線で差しながら告げる。
「あいつは手強かった。恐らく服装から推測して最近の奴なんだろうが、随分と強い奴さ。おれがさっき、倒した24魔将の奴らと比較してもよく分かる」
風太郎は二人をその場で介抱した後に、立ち止まる事なく進む。玉藻紅葉を倒すためには、立ち止まってはいられないのだ。
と、そんな風太郎の前に今度は質素な胴丸鎧を身に付けた髷姿の中年の男と蜻蛉の飛ぶ姿が描かれた赤い着物の上に十字架の首飾りを巻いた女の両名が襖を開けて現れる。
「数からすると、24魔将だな。玉藻はこの奥か?」
二人は共に首を縦に動かす。
「そうか、なら、貴様どもを始末して、玉藻を誘き出してやるぜ」
風太郎は刀を構えて、24魔将の一端を担う二人の男女に斬りかかっていく。
だが、男は真上から放たれる風太郎の太刀を刃こぼれした錆びかけた今にも折れそうな太刀で防ぐ。
「予想外だって面をしてるな。まぁ、おれはこの刀で平安の頃から多くの剣士を殺した男……一筋縄ではいくまいて」
彼は錆びて刃こぼれした刀を舐めながら言った。
次に憧れたのは小学生の頃に読んだ宮本武蔵。
武人として戦いを求め、次々と強力な相手と刀を結び合う姿は彼の憧れの姿だった。
と、そこまで回顧した所で今の自分を小さな坊主頭の少年が自分の服の裾を引っ張る姿が見えた。
「どうして、お兄ちゃんはそんな所に行くの?」
「太一郎兄ちゃんはね、ご奉公に行くのよ。だから、いつまでも袖を引っ張っていては兄ちゃんが安心して行けないでしょう?私たちが笑顔で見送ってーー」
「やだ!やだ!やだ!兄ちゃんが行っちゃうなんて嫌だ!行かないで太一郎兄ちゃん!」
幼い少年は幻の中でそう叫んでいた。懸命に自分の服を引っ張り、懸命に自分を呼び止めている。
やめろ。もうやめろ。見たくなんかない。
太一郎が頭を抱えていた時だ。不意に拳に強烈な一撃を喰らって地面の上に倒れ込む。
この痛みは?太一郎が自分の頬を抑えながら、真上を眺めると、真上には一人の青年が冷徹な表情で自分を見下ろしていた。
「痛いか、クソ野郎……けどな、お前にやられた二人はもっと痛かったんだぞ!」
風太郎はそう言って大きな一撃を太一郎に向かって放つ。
昭一はその殴られた痛みで自分が誰だったのかを思い出していく。
どうして、こんな大事な事を忘れていたのだろう。彼は長男として産まれた事から、太く立派に育つ様に太一郎と名付けられ、名門、鷹堂家の大事な跡取りとして育てられた。
やがて、彼が高等学校に進学する頃に、弟の正二郎が産まれた。
彼は歳の離れた弟を可愛がり、また弟もそれに答える様に、弟も兄に懐いていく。
まさに理想の光景であった。だが、悲劇は彼の弟が六歳になった時に起こった。
理系の大学に進学していた彼にもとうとう魔の手が伸び、彼は出征を余儀なくされ、その中で彼は空を志願した。
その後は……。思い出せない。開けてはいけない大きな扉の前に鎖が閉ざされたかの様に。
彼が悩み、葛藤していた時だ。風太郎が彼の顎の下に一撃を喰らわせて彼を転ばせていく。
彼は悲鳴を上げて地面の上に転がる。
やはり、過去など振り返らない方が良い。過去になんて囚われているから、手元が狂うのだ。過去になんて囚われているから、現在の戦闘に影響を及ぼすのだ。
彼は立ち上がって目の前に迫る風太郎に対して、作り上げた小型の戦闘機から機関銃を射撃しようとしたのだが、風太郎はそれらの全てを太刀から生じた風で弾丸を弾き飛ばしていく。
そして、そのまま彼は太刀を真上から振るう。
返り討ちにしてやろうかと考えたのだが、風太郎は何故か、地面の上に着地すると、改めて刀を構え直す。
不味い。彼の本能が告げる。空中に浮上させた小型の戦闘機を目の前の男に向けようとした時だ。
自分が狙ってきた男は両手で持っていた太刀を真横に構えて、男に向かって斬りかかっていく。
「破魔式『つむじ風隙間斬り』」
彼はそう呟くと、彼の体は真横に斬られていく。
同時に彼は悲鳴を上げて地面の上に倒れていく。
下半身と上半身は完全に泣き別れになってしまったらしい。
もう動く事もできないだろう。風太郎は一瞥し、立ち去ろうとするが、彼の瞳から涙が流れる様子を見つめていると、少しだけ哀れむ視線を向けてから、仲間を助けに向かう。
(……おれは死ぬのか?)
その問いに太一郎を迎えにきたと思われる少年が黙って首を縦に動かす。
(そうか……自棄になって大勢の人を呪い、殺してきたからな……別に悔いはない。さぁ、もういけよ。お前なんかのためにお前が地獄に行く事はないんだ)
だが、少年は首を横に振る。そして、大きな声で彼のみに聞こえる様に叫ぶ。
『嫌だ!もう兄ちゃんと離れ離れになるのは嫌なんだ!おれは兄ちゃんと一緒に過ごせるんなら、何処にでも行く!』
(あんまり我儘を言うな!正二郎!)
その言葉を発した瞬間に、彼は弟の大切な家族の名前を思い出す。同時に、それまで抑えられていた記憶が彼の頭の中に一斉に流れていく。
(そうか……あの日、食料をナップザックに入れて帰ってきたおれの前にもう家はなくて……それで、代わりに、チンピラが屯してて、それで抗議した所……)
あの黒いドレスに派手な飾りを付けた小柄な女が現れて、彼らを槍斧で惨殺した後に、彼の首元に得体の知れないものを注入したのだ。
『兄ちゃんが、あいつのせいで化け物になって、大勢の人を殺した事も知ってる。けど、兄ちゃんは兄ちゃん!オレのたった一人の兄ちゃんなんだ!だから、もう離さない!これからもずっと、オレの兄ちゃんでいてくれよ!』
太一郎の理性はその瞬間に崩壊した。両目から涙を流し、側によってきた幼い弟の頭を撫でていく。
そして、二人で地獄の業火へと包み込まれていく。
風太郎はそんな様子に気が付く事もなく、ようやく太一郎の体が消滅したのを確認すると、二人に手を貸す。
「あ、ありがとう。お陰で助かったよ。風太郎」
「オレも……正直、風太郎が来なければおれはあいつに殺されてたよ」
英治が先程まであった彼の場所を視線で差しながら告げる。
「あいつは手強かった。恐らく服装から推測して最近の奴なんだろうが、随分と強い奴さ。おれがさっき、倒した24魔将の奴らと比較してもよく分かる」
風太郎は二人をその場で介抱した後に、立ち止まる事なく進む。玉藻紅葉を倒すためには、立ち止まってはいられないのだ。
と、そんな風太郎の前に今度は質素な胴丸鎧を身に付けた髷姿の中年の男と蜻蛉の飛ぶ姿が描かれた赤い着物の上に十字架の首飾りを巻いた女の両名が襖を開けて現れる。
「数からすると、24魔将だな。玉藻はこの奥か?」
二人は共に首を縦に動かす。
「そうか、なら、貴様どもを始末して、玉藻を誘き出してやるぜ」
風太郎は刀を構えて、24魔将の一端を担う二人の男女に斬りかかっていく。
だが、男は真上から放たれる風太郎の太刀を刃こぼれした錆びかけた今にも折れそうな太刀で防ぐ。
「予想外だって面をしてるな。まぁ、おれはこの刀で平安の頃から多くの剣士を殺した男……一筋縄ではいくまいて」
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