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天楼牛車決戦編

玉藻姑獲鳥という名前の化け物

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「本当に紅葉は美しい。まさしく国一番の美女だ」
「あなた、遠呂智の姿も見てください。凛々しい格好に勇ましい風貌、そして子供とは思えない剣の腕……きっと、将来は立派な子になりますよ」
実の両親二人は先に生まれた可愛い顔をした双子の姉弟に夢中になっていた。
後になって生まれ、印象の薄い自分には両親からも何の感情もなかったのだろう。彼女は勉学では姉と兄を遥かに凌ぐ成績を誇ったが、それが両親の関心を惹いたのはごく僅かな間の事であったし、武器の扱いの腕の程も女がそんなものはできても意味はないと見てもくれなかった。
なので、彼女は両親が死ぬ様に画策した。当時、九州の端に存在していた大きな王国を統治する両親は母が巫女の役割を負い、父が神託を伝え、政治を行うという後に言う神権政治を行なっていたのだが、父にその神託とは別のお告げを大衆に伝えさせたのだ。
大した事はしていない。ただ、大声で別の関係のない単語を喋り、神託を必死に覚えていた父の記憶を改竄して、母の告げた神託とは少し中身の違うお告げを喋らせたのだ。
母は部下からの報告を聞くと、激昂し、父を処刑したのだった。
父の処刑後、塞ぐ母に姑獲鳥はこう提案した。
「折角ですからぁ、外に出てみるのはどうでしょうかぁ?神もたまには許してくれますよぉ」
姑獲鳥の進言に従い、彼女の母は外(と、言っても寝泊まりしている高床の建物の外であり、安全な柵の中に過ぎないので本当の外ではない)に出た。そして、外を歩く中で男を作り帰ってきた。
男は端正な男で、彼女に擦り寄り、この国を乗っ取ろうと画策していた。
そうなってしまっては不味いのだ。兄である遠呂智に一部の真実を伏せたまま、端正な男と母の両名を不貞の罪で斬り殺させたのだった。
秦の国を危うく傾かせかけた聾唖ろうあいの様な男の台頭を危うく防ぎ、尚且つそのついでに母も始末した彼女には怖いものなど何もなかった。
兄は武芸と双子の姉の事しか興味がなく、姉は姉で頭が悪い。
しかも、悪い事に自分を賢いと思い込んでいる馬鹿の類なのだ。
なので、彼女を諌める際にはこちらが馬鹿な振りをしなくてはなるまい。
そういう風に国を継いで数年ばかりは上手くいった上に、たまたま大陸から手に入れたものが予想だにしない力を自分を含む王家の人間たちに与えたのだ。そうした様子で順風満帆にいっていたかと思われる生活であったのだが、ある時に転機が訪れたのだ。
ある一人の男が馬に乗って現れて、姉の名代として姑獲鳥が数人の部下と共にそれに応対し、それを高床の客人をもてなすための施設で聞いていたのだが、その時に熊の毛皮の敷物の上に座ったその男は信じられない事を口走っていく。
「……この国の正統なる王からの伝言ですって?」
「はい。大王おおきみはこの地を制圧し、纏める事が出来れば、日の本は完全に自分のものだと仰られております。そうなる前に、この地を差し出せとの事でございます。どうか、良い返事を」
使者はそう言うと、馬を引き返して元の場所へと戻っていく。
彼女は拳を震わせながら、使者の体を睨む。
それから、彼女はその事を厳密にする様に告げたが、彼女に同行していた部下の一人がうっかり口を滑らせたのだろう。
既に建物の中では噂が広まっていた。
姉もその噂を耳に挟んだのだろう。兄の前で錯乱し、この国の正統なる王の名前を叫んで倒れてしまったのだという。
その後には明らかに血相を変えた兄が彼女の前に現れて、その事について尋ねる。
彼女が兄にその事を告げると、兄は大慌てで激励を飛ばし、同盟諸王国の召集を行う。
そこで兄は大陸から伝わり、自分たちを妖鬼へと変えた鏡を利用して彼らを妖鬼へと変えていく。
同盟諸国の王を妖鬼に変え、戦力を各地域から列挙しての戦争は数年に渡り続けられた。
姑獲鳥も兵法書を読み込んで正統なる王なる存在と懸命に戦ったのだが、やはり、神の血を引く王というのは少々、兵法書の類を読んだくらいでは敵わない。どうも、分が悪かったらしい。
妖鬼と化した同盟国の諸王は次々と氷と風の紋章を扱う正統なる王の前に討ち取られ、彼女らの国は正統なる王の手による落ちかけ、未だに抵抗を続けようとする姉を懸命に宥め、彼女は言った。
「姉様ぁ、ここは恥を忍んでも降伏するべきですよぉ。生き延びてまた再建を図っても良いでしょうぉ?」
その提言のために姉は宝物と武器とを持って正統なる王の前に跪き、漏らさんばかりの勢いで足を震わせながら、正統なる王の前で額を擦り付けていく。
許され、追放の処分と鏡の破壊の処分を受けた後に彼女は自分に向かって八つ当たりを行なってきた。
それ以来、姉に叱られ、怒鳴られ、理不尽に叩かれる日々が続いていた。
だが、実権は自分。彼女は何処かで手に入れた槍斧を愛用品として使い、多くの妖鬼を引き入れ、多くの作戦を立案し、多くの対魔師と戦ってきた。
だが、それも今日で終わりになるだろう。彼女は槍斧を振り回しながら、対魔師たちの首を刎ね飛ばし続ける。
彼女は芝刈り機の様に止まらず、槍斧を対魔師たちに振るっていく。
彼女は舌で唇に付いた血を舐め回しながら、虐殺を続けていた時だ。
脇腹に途方もない闇を感じてその場を離れる。
すると、どうだろう。彼女の傍には例の刀を構えた忌々しい女が立っているではないか。
だが、今は構わない。闇の破魔式だろうが、何だろうが、今ならば存分に殺せる自信があった。
彼女は大きく槍斧を振り下ろして、綺蝶に向かって攻撃を仕掛ける。
最初に出るのは金属と金属とがぶつかり合う音。
次に綺蝶は闇の力を纏わせた刀で姑獲鳥を突いていく。
だが、これも効果はない。彼女の突きを反りで避けた後に彼女は大きな声で笑いながら言った。
「無駄無駄無駄、無駄なのよぉ~あたしに逆らえるなんてできるわけないじゃあない。それに、そんな腕で戦うつもりなのぉ~?」
「勿論ですよ。必ず、お前を地獄の底へと叩き落とします」
綺蝶はいつもと同じ笑顔。ただし、かなり顔を曇らせて言った。
だが、それを見ても彼女は小馬鹿にした様な笑顔を浮かべながら、
「逆恨みはやめて頂戴よぉ~あなたのお母様が死んだのはぁ、あたしに攻撃を仕掛けてきたからよぉ~あたしはそれに対抗しただけよぉ~それに何が悪いというのぉ?」
「ふざけるな!」
綺蝶は姑獲鳥の妄言を一喝する。
「お前たち妖鬼が人を襲わなければ、私たちは母はお前を襲ったりなんてしなかったんだァァァァ~!!」
彼女は第三の破魔式を利用して姑獲鳥に襲い掛かっていく。
姑獲鳥はそれを槍斧で余裕を持って受け止めた。
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