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天楼牛車決戦編
二者二様の思惑
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玉藻紅葉はその日の夜。自分の弟にして用心棒である草薙遠呂智が敗北した事を知った。
身内だから、或いは双子だからこそ分かるのだ。彼が死んだという予感が。
彼女は乗り物にして居城である天楼牛車の中でお猪口に入れた酒を飲みながら、忌々しいと言わんばかりの表情を浮かべて、
「あなた、死ぬまで私を守るんじゃなかったの?役立たずめ……」
自分を守れなかった弟の顔が過ったのか、紅葉は癇癪を起こして手に持っていたお猪口を地面の上に叩き付ける。
同時刻。東京都内某所。新築の二階建てのアパートのある一室で黒いドレスを纏った少女がそれまで読んでいた外国の叙事詩の本を閉ざす。
「あらぁ、兄様ぁ、もしかしてやられてしまったの?頼りないわねぇ」
彼女は分かったのだ。兄が死んでしまった事を。対魔師に殺された事を。
だが、困惑した様子を見せる様子もなかったが、不意に何かを思い出したらしく、指を鳴らして蝙蝠の姿をした怪物を呼び出す。
「お呼びでしょうか?姑獲鳥様」
「うん、消して欲しい人が居るんだけれど……」
彼女はそう言って変身能力のある蝙蝠に向かって指示を出す。
それから、彼女はまた読書に戻っていく。これならば完璧だ。これで、対魔師の連中に一泡吹かせる事ができる。
同時刻。東京都。警視庁。
今も尚、対魔師への強行的な姿勢を緩めようとしない次長に騎士団の二人は苛立ちを強めていた。
「次長!お願いします!玉藻一族並びに妖鬼は我々の存在だけでは手に負えません!」
「私からもお願いします。次長……もう彼らの手に手錠を掛けるのはやめてください」
だが、次長は二人のいう事に耳を貸す気配は見えない。
それどころか、二人の目の前で嫌がらせの様に逮捕状に自身の名前を連ねていく。
その逮捕状は上位の対魔師である氷堂冴子へのもの。
彼は上位の対魔師を一人拿捕させる事により、討滅寮への牽制を図ろうとしたのだ。
当然、遠呂智と風太郎の死闘を生の目で眺めいた二人はその危険性を問い、反論したのだが、耳を貸そうともしない。
次長は満足そうな表情で書類を秘書と思われる男に手渡す。
それから、引き出しから煙草を取り出し、それを咥えると、彼らに向かって言った。
「なぁ、キミたち……我々は何だ?」
「な、何って」
「答えられんか。ならば、私が答えてやろう。我々は警察官だ。警察官として給料を貰っている以上は警察官としての義務を果たさなければならない」
「古代から人々を守る組織を瓦解させて、人々の安全を脅かす妖鬼の片棒を担ぐのが警察官のやる事ですか!?」
宝生蘭子は机に手をかけて、大きな声で次長に怒鳴ったが、次長は面倒くさいと言わんばかりに彼女を手で追い払う。
それから、心底鬱陶しいと言わんばかりの冷たい視線で冴子を見つめて、
「悪いが、キミの道徳の論理には付き合っていられん。奴らは銃刀法違反という明確な法を犯しているんだ。それだけでも奴らを検挙する理由がある」
次長は乾いた声でそう言い放つと、手元にある帽子かけから帽子とコートを手に取って部屋を退出する。
話にならない。二人で死んだ仲間の仇を取るために、警察組織を辞めて、対魔師になろうかと考えた時だ。
警視庁の入り口で悲鳴が聞こえた。二人が慌ててその場へと移動すると、そこには全身から血を流して倒れている次長の姿。
次長は口から荒い息と血を流して大の字になって寝転がっている。
二人は慌てて自重に駆け寄り、彼を助け起こそうとしたが、次長はそれを右手で静止する。
「……やられた。対魔師の……あの女だ。逮捕の事を勘ぐったらしい!やられた。お前たちが秘密を漏らしたのだろう?そして、あの女が凶行に及んだ。ぐっ、悔しい。この目で対魔師の連中を一斉に拿捕できないという事が……」
そう言うと、次長は胸を抑えながら、苦悶の表情で空を眺めていると、必死に空へ空へと手を伸ばしていく。
そして、その手は暫く蠢いた後で地面に倒れてしまう。そして、もう二度とその手は伸びなかった。
二人の騎士は次長の名を叫んだが、次長は瞼を閉ざして二度とその目を開けなかった。
二人はその次長を刺した氷堂冴子を追う。あの特徴的な短い髪の女性だ。見間違えるわけもない。
二人が懸命に探していた時だ。二人の前に氷堂冴子本人が現れる。
彼女は二人の姿を見かけると、不意に背中を向けて走り去っていく。
二人はそれを見て全速力で追い掛けた。理由が聞きたかったのだ。どうして、自分たちに相談しなかったのか。また、どうしてこの様な手段を取ったのかを。
身内だから、或いは双子だからこそ分かるのだ。彼が死んだという予感が。
彼女は乗り物にして居城である天楼牛車の中でお猪口に入れた酒を飲みながら、忌々しいと言わんばかりの表情を浮かべて、
「あなた、死ぬまで私を守るんじゃなかったの?役立たずめ……」
自分を守れなかった弟の顔が過ったのか、紅葉は癇癪を起こして手に持っていたお猪口を地面の上に叩き付ける。
同時刻。東京都内某所。新築の二階建てのアパートのある一室で黒いドレスを纏った少女がそれまで読んでいた外国の叙事詩の本を閉ざす。
「あらぁ、兄様ぁ、もしかしてやられてしまったの?頼りないわねぇ」
彼女は分かったのだ。兄が死んでしまった事を。対魔師に殺された事を。
だが、困惑した様子を見せる様子もなかったが、不意に何かを思い出したらしく、指を鳴らして蝙蝠の姿をした怪物を呼び出す。
「お呼びでしょうか?姑獲鳥様」
「うん、消して欲しい人が居るんだけれど……」
彼女はそう言って変身能力のある蝙蝠に向かって指示を出す。
それから、彼女はまた読書に戻っていく。これならば完璧だ。これで、対魔師の連中に一泡吹かせる事ができる。
同時刻。東京都。警視庁。
今も尚、対魔師への強行的な姿勢を緩めようとしない次長に騎士団の二人は苛立ちを強めていた。
「次長!お願いします!玉藻一族並びに妖鬼は我々の存在だけでは手に負えません!」
「私からもお願いします。次長……もう彼らの手に手錠を掛けるのはやめてください」
だが、次長は二人のいう事に耳を貸す気配は見えない。
それどころか、二人の目の前で嫌がらせの様に逮捕状に自身の名前を連ねていく。
その逮捕状は上位の対魔師である氷堂冴子へのもの。
彼は上位の対魔師を一人拿捕させる事により、討滅寮への牽制を図ろうとしたのだ。
当然、遠呂智と風太郎の死闘を生の目で眺めいた二人はその危険性を問い、反論したのだが、耳を貸そうともしない。
次長は満足そうな表情で書類を秘書と思われる男に手渡す。
それから、引き出しから煙草を取り出し、それを咥えると、彼らに向かって言った。
「なぁ、キミたち……我々は何だ?」
「な、何って」
「答えられんか。ならば、私が答えてやろう。我々は警察官だ。警察官として給料を貰っている以上は警察官としての義務を果たさなければならない」
「古代から人々を守る組織を瓦解させて、人々の安全を脅かす妖鬼の片棒を担ぐのが警察官のやる事ですか!?」
宝生蘭子は机に手をかけて、大きな声で次長に怒鳴ったが、次長は面倒くさいと言わんばかりに彼女を手で追い払う。
それから、心底鬱陶しいと言わんばかりの冷たい視線で冴子を見つめて、
「悪いが、キミの道徳の論理には付き合っていられん。奴らは銃刀法違反という明確な法を犯しているんだ。それだけでも奴らを検挙する理由がある」
次長は乾いた声でそう言い放つと、手元にある帽子かけから帽子とコートを手に取って部屋を退出する。
話にならない。二人で死んだ仲間の仇を取るために、警察組織を辞めて、対魔師になろうかと考えた時だ。
警視庁の入り口で悲鳴が聞こえた。二人が慌ててその場へと移動すると、そこには全身から血を流して倒れている次長の姿。
次長は口から荒い息と血を流して大の字になって寝転がっている。
二人は慌てて自重に駆け寄り、彼を助け起こそうとしたが、次長はそれを右手で静止する。
「……やられた。対魔師の……あの女だ。逮捕の事を勘ぐったらしい!やられた。お前たちが秘密を漏らしたのだろう?そして、あの女が凶行に及んだ。ぐっ、悔しい。この目で対魔師の連中を一斉に拿捕できないという事が……」
そう言うと、次長は胸を抑えながら、苦悶の表情で空を眺めていると、必死に空へ空へと手を伸ばしていく。
そして、その手は暫く蠢いた後で地面に倒れてしまう。そして、もう二度とその手は伸びなかった。
二人の騎士は次長の名を叫んだが、次長は瞼を閉ざして二度とその目を開けなかった。
二人はその次長を刺した氷堂冴子を追う。あの特徴的な短い髪の女性だ。見間違えるわけもない。
二人が懸命に探していた時だ。二人の前に氷堂冴子本人が現れる。
彼女は二人の姿を見かけると、不意に背中を向けて走り去っていく。
二人はそれを見て全速力で追い掛けた。理由が聞きたかったのだ。どうして、自分たちに相談しなかったのか。また、どうしてこの様な手段を取ったのかを。
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