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新しい時代の守護者編

逆転の賭博目録

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風太郎の放った刀はピンクの膜から出た男の腕へと向かっていく。
男は咄嗟に腕を戻そうとしたが、もう遅かった。彼の放った太刀は全速力でジョーの腕へと向かっていた。
風太郎の太刀が直撃するのと同時に、ジョーは言葉にならない悲鳴を上げていく。
これまでの人生の中で味わった事のない痛み。かつて、戦場で受けた弾丸の痛みなど比べ物にもなるまい。
その上、彼は握っていた回転式の拳銃。いわゆるリボルバーまでも地面の上に落としてしまう。
本来ならば、彼は武器などない身。軍隊で射撃の教授は受けた事があるものの、剣は少し高校の授業で学んだ程度。
それで挑めるかはどうかは分からない。
だが、少なくとも別の武器を試す価値はある筈だ。
彼は自分の体を覆うピンク色の粘膜に泡沫の希望を抱く。これならば、あの目障りな青年も死ぬのではないか。
彼はそんな希望を抱いてピンク色の液体を飛ばしていく。
風太郎は太刀を振ってそのピンク色の液体を風で吹き飛ばしていく。
彼からすればそれは容易。同時に、本能的に彼は危機感を感じ、氷で凍らせるのではなく、風で吹き飛ばし、空中で分解するという道を選んだのだった。
結果としてその風太郎の判断は間違っていなかったと言えるだろう。
何故ならば、風太郎が討ち漏らしたピンク色の液体はそのまま地面を溶かしていったのだから。
綺蝶はその粘体を見て思わず生唾を飲み込む。
もし、あの粘液体が自分に付着していたのだとしたら……。
綺蝶は全身を震わせていく。想像するだけでも恐ろしい。一体、どうなってしまったのだろう。
ともかく、今は風太郎の咄嗟の判断に感謝していた。
そして、他ならぬジョーも風太郎の咄嗟の判断とその後に討ち漏らした事に感謝の念を送っていた。
と、言うのも彼が討ち漏らした粘体による効果を彼はしっかりと確認する事が出来たからだ。
彼は風太郎に感謝の念を送りながら、今度はその粘体を向かって自身の腕の再生を試む。
これも彼にとっては賭けであった。だが、体の腕は面白い程に上手く再生していく。
まるで、魔女の操る生き返った死者たちのようだ。
彼は大昔のホラー映画の事を思い出してクックと笑ってしまう。
他にも、自身の魔獣覚醒が数年前に本国で見たパニックホラー映画と面白い程に酷似している事を思い出す。
あのパニックホラー映画の題名はなんだったか彼は思い出せなかったが、その映画が自身と同じ粘着状の生き物が次々と人々を襲う内容だったという事だけは覚えている。
そう、今、自分が使っているのと同じ様なものだ。
そう考えたら、自分はどれだけ恵まれた魔獣覚醒を使用できるだろう。
ジョーは風太郎を抹殺するための即座の計画を立てていく。
頭の中で八割までの過程が出来上がった所に、彼の目の前に隕石が飛んでいく。
彼が目の前を見つめると、そこには丸渕眼鏡をかけた女性の姿。
彼女は刀を振り上げると、彼に向かって炎に包まれた岩を向けていく。
瞬間、彼は自分の不利を悟る。あの岩で粘体を蒸発させられてしまっては自分の負けだ。
このまま風太郎を殺そうかと試みたが、その前に彼の師であり、同時に相棒である美しい顔の女性が彼の前に姿を表す。
光の破魔式を纏わせて刀を右斜め下から突き上げる彼女の前に戸惑いの顔を見せる。
彼女はそんな自分の怯えを予想していたかの様に、得意そうな顔を浮かべて言った。
「確かに、この魔獣覚醒は強力でしょう。ですがね、粘液とは意外に弱点が多いものなんですよッ!」
彼女はそう言うと、目の前に飛び散った粘体を彼女の刀に宿る光で蒸発させていく。
「どうです?これであなたの魔獣覚醒の弱点が分かりましたよね?」
「……蒸発させやすいという事だろう?だが、それはあくまでもこの場にいる対魔師が全て熱に相当する破魔式を使えるというだけの話……破魔式が使えないとなれば、意味がないんじゃあないのか?ミス・斑目」
「英語混じりのインチキなんちゃって外国人を演出しているんですか?そういうの全然似合っていないのでやめてもらっていいですか?」
綺蝶の毒舌が冴え渡る。彼女はこのままジョーの心臓目掛けて刀を突き刺そうとした時だ。嫌な予感を感じてさっと刀を引く。
それを見て勝ち誇った笑みを浮かべるジョー。彼はチッチっと舌を鳴らしながら、人差し指を左右に振って、
「フッフッ、お嬢さんマドモワゼル。あなたが怖がるのも無理はない。何故なら、この私の体を覆う粘体はアメリカの大統領が大金を出してでも求める様なものだからね。あのバカどもは自分の身を暗殺の危機から守るために、オレの魔獣覚醒を百億ドルで買うかもしれないな!」
「お一人で盛り上がっておられる所、大変失礼ですが、私にはドルだのアメリカ大頭領だのの話は分かりませんので、早く獅子王院さんの事を諦めてくれませんか?」
彼女の問い掛けを聞いて男は大きな声で笑い声を上げる。
「はっはっ、面白い事を言うな!確かに、日本人には難しい話題だったな。あー、失敬、失敬、じゃあ、次はもっと簡単に済ませられる話題にしておくよ」
「いえいえ、あなたはもうそんな事をする必要はありませんよ。あなたはここで死ぬんですから」
彼女はそう言って刀を振って第一の破魔式『暗黒星雲の彼方』を使用していく。
だが、黒雲はジョーではなく逆に、ジョーの周りに纏わり付いていたピンク色の粘体に吸い込まれていく。
「クックッ、雲を動かすとその化け物は遠い遠い空間へと送り込まれてしまうっていう事か?成る程、こいつもサーリングが聞いたら、泣いて喜びそうな程の話だな」
「その汚らわしい舌で私の敬愛する方の名を口にしないで頂けますか?」
綺蝶はいちおうは笑顔を浮かべているものの、笑顔の裏には確実な怒りがあった。
「おおっと、すまない。サーリングの奴の事を好いているのか?」
「ええ、何が悪いんですか、私はサーリングの『未知との』が大好きなんですよ!
彼女がそう叫ぶのと同時に、彼の位置と海崎英治の位置が入れ替わり、彼は否が応でも例の炎を使う対魔師と向き合わざるを得なくなった。
日下部暁人も桐生桃もこの外国人の男に容赦をするつもりはない。
二人とも剣を抜いてジョーの元に向かっていく。
ジョーは粘体を使って後方の対魔師たちとの戦いを繰り出す事を決めたらしい。
彼は唸り声を上げて、8人の男女の元に向かっていく。
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