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新しい時代の守護者編

新たなる戦いの序曲

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黒崎は正直に言えば迷っていた。また、自分も討滅寮の対魔師に戻るというのならば、ともかく、共通の妖鬼以上の危ない敵を拿捕するまでというのならば、自分は賛成だった。
ただ、問題を引くのは次長。彼は決して認めはしないだろう。
対魔師と手を結ぶ事を。同時に黒崎は思う。彼を次期警視庁長官にしてはいけない、と。
その意味も込めて黒崎は一先ずはこの十人と協力して剣を振るう事にした。
料理人の男はめちゃくちゃに包丁を振り回していたものの、黒崎の破魔式の前に完全に屈服し、浄化されていく。
船橋の時に綺蝶に完膚なきまでに敗北した男と同一人物とは到底、思えない。
腐っても鯛という事だろうか。風太郎はそんな事を考えながら、黒崎の破魔式の凄さを眺めていく。
風太郎は店の方で警察やら何やらの大騒ぎになるのと同時に、大きな声で呼び止められそうになるが、黒崎が権限を利用して十人を逃したために、その話は不問となったらしい。
なので、黒崎を含めての11人の対魔師たちは路地裏で再び会合していく。
「で、だ……お前たちは私に協力しろと言いたいわけだな?」
「違うんです。お互いに手を組んだ方が得だと私は仰りたいんです。お互いに手を組んだ方が直ぐにでも危険なあの男……えっと、名前は……まぁ、どうでもいいですが、そいつと妖鬼とが組んだ可能性があるんですよ。それを踏まえた上での提案です。私たちも組みませんか?警察と対魔師とで……」
やはり、この少女が彼の親友にして師である斑目明蝶に似ているのは顔だけだ。
彼ならば、こんな言い回しはしなかっただろう。こんな回りくどくて相手を試す様な言い方は。彼はある一定の不満の様なものを抱えながら、彼女の提案を飲む。
「分かった。手を結びたいというんだろ?だがな、私だけでは手が回らん。次長の方にも連絡を取らなければ、正確に手を結ぶのは難しいだろうな」
黒崎は残念そうに首を振ったが、今度は綺蝶ではなく、丸渕の眼鏡をかけた鋭い視線を持つ女性が代わりに尋ねる。
「では、その次長とやらに話を通さずに、あなた個人、もしくはあなたの部下と共に手を組みたいと言ったら……」
冴子の言葉に黒崎が微かな反応を示す。
彼は煙草を片手に、黒崎に向かって振り向くと、
「正気かね?私としてはこの事件を解決するためにはキミたちと手を組んだ方が良いとは考えているがーー」
「『善は急げ』という諺もある。この機会を逃せば、もう二度と騎士団と対魔師の二つの勢力で人間に害をなす存在を追い詰められるんだ。なのに、あんたは手を組まない気か?」
黒崎に全員の視線が注がれていく。それにたじろいでいく黒崎。
彼は気まずそうに視線を逸らした後に空咳をしてから、十人の対魔師に向き合う。
この視線に押し潰されてはいけない。冷静になれ、黒崎玲太郎。
彼はそう自分に言い聞かせて逸らしたはずの視線を向き直して十人の刀を隠し持った男女と話し合う。
「……組みたい気持ちは山々なんだがね、私の気持ちも汲んでくれないかね?あの次長先生に睨まれると、私の地位並びに折角、築き上げた警視庁の闇祓い課。いいや、天道騎士団が壊滅してしまうーー」
「なら、そんな組織は潰れればいい」
そう言い放ったのは菊園寺和巳。
彼は拳を震わせた後に、人差し指を突き付けて叫ぶ。
「お前らはいつもそうだッ!組織だの何だのくだらない小さな事に囚われて、人を追い出し、人を追い詰めて、人を泣かせて、助けられる筈の命を奪っていくッ!警察なんてそんな組織だッ!」
「……なぁ、坊や、人には言っていい事と悪い事があるんだぞ、今のお前の発言で警察に務めていた人はどう思うんだろうなーー」
「そんな事知るものかッ!組織に囚われた者が他の人間の足を引っ張って、やがてはーー」
「もういいよ、やめろ、菊園寺」
不調の日下部暁人が止めに入った事により、菊園寺は学生運動さながらの演説を取りやめて下がっていく。
代わりに、日下部暁人が入り、黒崎に非礼を詫びる。
「申し訳ありません。あいつは昔、大事な友達を複雑な問題で失ってましてね」
「……幼い対魔師の一件だな?あれは可哀想だった。本当に気の毒だったな」
それを聞いた和巳が激昂して掴みかかりそうになるのを海崎が止めていく。
だが、そんな混乱などものともせずに、暁人は話を続けていく。
「なら、あの人の……月島の意思を汲んでください。お願いです。あなたも対魔師だったのならば、我々の気持ちが分かる筈です。どうか、お願いします!」
暁人が深く頭を下げるのを見て、彼は暫くの間、考え込んでから、もう一度彼に視線を向ける。
「……結論を言えば、警察を味方にするのは無理だ。あの次長はどうやっても対魔師の味方にはならんだろう。だが、私個人としては別だ」
黒崎は煙草を地面に落としてそれを消すと、真剣な顔を浮かべて言った。
「私、黒崎玲太郎は今回の事件で首都を騒がせているこの一件についてのキミたちへの全面協力を惜しまない様にしよう」
黒崎のこの言葉を聞いて四人の対魔師の男女と研究会の面々と何同時に盛り上がっていく。
黒崎玲太郎が味方に付いたのならば、最早、怖いものはない。
彼の操る天道騎士団も味方に付く事になるのだろうから。
その場に居た全員に甘い空気が漂っていた時だ。不意に乾いた音が辺り一面に響き渡り、次の瞬間には黒崎が心臓から血を流して地面の上に倒れていく。
「黒崎さん!」
斑目綺蝶は真っ先に床に倒れた黒崎の元へと駆け寄り、彼の体を抱き起こそうとしたが、口から血を流した黒崎本人の手によって止められてしまう。
「待ってくれ、もう私は助からんよ。足や肩ならばともかく、急所を撃たれたからな……」
口から一匹の赤い蛇を出しながら、唸り声を上げる黒崎に対して、綺蝶は問い掛けた。
「最後に教えてくれませんか?」
「何だ?」
「あなたが死んだ後は天道騎士団は誰が受け継ぐ事になっているんですか?」
「……矢那内涼介やなうちりょうすけ……騎士団の中で唯一、私以外で破魔式を完璧に扱える男だ」
彼はそう言うと力尽きたのか、そのまま両目の瞼を閉ざして大の字になる。
そして、その目を二度と覚まさせなかった。
綺蝶が黒崎の死体を黙って眺めていると、不意に彼女の元に風太郎が飛び込む。
彼は大声を上げるのと同時に綺蝶の元に飛び込み、彼女を救ったのだった。
そう、彼女を狙っていた銃弾から。
風太郎は刀を向けて銃を操る存在を睨んでいく。
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