太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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新しい時代の守護者編

玉藻紅葉を倒す可能性のある男

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討滅寮三階、征魔大将軍執務室。
上位の対魔師、斑目綺蝶は刀を横に置いて上座に居座る老女に向かって深々と頭を下げていく。
将軍が顔を上げる様に指示を出されると、彼女は顔を上げてこの事件の結果を報告していく。
和服姿の将軍は暫くの間、顎の下を親指と人差し指とで擦って何やら考え事をしていたが、直ぐに側に控えていた椿に何やら耳を打つ。
「成る程なぁ、黒崎がなぁ……あんのバカたれめ。行方を眩ませたと思ったら、そんな馬鹿げた組織を結成してたんかいな」
彼女はそう言って不機嫌そうに口元をモゴモゴと動かしていく。
綺蝶はいつもの年老いた老婆の癖を黙って見つめていく。
暫く意味もなく口元をモゴモゴとさせた後に、彼女は言った。
「おまけに、妖鬼を殺す虫がおったじゃと?で、それは人には何の影響はあったんかいな?」
「……」
綺蝶は答えられない。将軍の問いには。
と、言うのもそうなるのかが分かる前に、風太郎が氷で虫を殺してしまったからだ。
彼女は暫くの間、視線を彷徨わせていたが、老婆が目の前に扇子を投げた事により、答えざるを得ない。
「分かりません。そうなる前に獅子王院さんが、殺してしまったので……」
「大バカタレめ!無意味に殺してどうするんじゃ!ここは人を襲うかどうかを見極めてから、殺すべきじゃろう!役立たずのドアホウがッ!」
彼女はそういきり立ったのだが、次の瞬間にはゴホゴホと咳き込んだ事により、それ以上喋る事は不可能になってしまう。
咳き込んだ将軍の代わりに、側にいた副将軍が代理として綺蝶に尋ねた。
「なぁ、斑目……お前の言いたい事も分かる。だが、上様は敵の戦力を把握したかったんだ。あのヒルがあの場に居合わせた妖鬼と黒崎に続くその戦雲玄竜なる男のものだったのかを……」
確かに、いきなり殺してしまっては誰のものかは分からない。
それに、あの妖鬼を殺したのは結局、黒崎率いる例の騎士団なのか、それとも戦雲玄竜とやらなのか。
ハッキリとした事は分からない。ただ、どちらもはっきりとした事を言っていなかったために、未だにその正体は掴めない。
綺蝶はそう思うと、勿体ないことをしたと感じて謝罪の言葉を口に出す。
だが、あの小難しい老婆はなぜか激昂して綺蝶の元へと近寄り、彼女の額を扇子で叩く。
それだけでは飽き足りずに、畳の上につけていた綺麗で細い若い手を置いた足で踏み付けていく。
普通の人ならば足を踏まれた時点で泣いていただろう。
だが、綺蝶は泣かない。泣く事が更にこの老婆の機嫌を悪くさせるであろうから。
彼女はただひたすらに頭を下げて、その場が収まるのを待つ。
椿が宥めた事により、ようやく綺蝶は解放される事になった。新しい任務と共に。
その任は東京で妖鬼を狩るという生活を続けながら、戦雲玄竜を追うというもの。
老婆は否応無しに綺蝶に命令したが、彼女は黙って首を横に振って命令を拒否する。
老婆は頭に血を登らせたのか、大きな声で綺蝶を叱り付けていく。
その内容は単なる罵声から始まり、最終的には人格否定にまで迫っていく。
だが、彼女は一向として首を縦に振らない。業を煮やしたのか、はたまた頭に血が上り、銭湯の湯沸かし器の様にでもなったのか、彼女は煮え切らない怒りを抱えたまま椿に向かって刀を要求する。
今回ばかりは椿も躊躇わない。黙って老婆に刀を差し出す。
預かった刀を鞘から抜くと、声は静かにただし、怒りを匂わせながら尋ねる。
「綺蝶、主ならば分かっていよう。討滅寮において将軍の命に従う事は死を意味するという事を」
「存じております。私はそれを知った上で上様の命令を拒否いたしました」
「よう申した!その首を狩って主の父母の前に備えてやるわ!」
老婆は黙って刀を振り上げようとしたが、その前に彼女が発した大きな呼び止める声によってその腕を止めてしまう。
たじろぐ、老婆に向かって彼女は話を続けていく。
「上様、世は変わりつつあります。それは討滅寮とて例外ではありません。明治の初年、我が国は国を挙げての維新運動により、徳川の支配する世を打ち砕き、新しい時代を作り上げました。明治の元号が発表されてから、既に90年以上の月日が流れて、今は昭和という新しい元号が使われている世の中です。いつまでも古い規則に縛られていないで、変わるべきなのです。討滅寮もそして、世の中も……」
彼女の堂々とした態度を見て老婆も椿も態度を変えた。老婆は大きな溜息を吐くと刀を椿に差し出し、鞘に戻させて今、一度上座の上に座っていく。
そして、扇子を綺蝶に取らせて、それを受け取ると、目の前で彼女の前に突き付けて、
「では、主に聞くが、主がそこまで任務を断る理由は何じゃ?答えてみよ」
「……玉藻紅葉を倒す可能性のある対魔師の育成……それではいけませんか?」
「玉藻紅葉を?それはすごいけど、誰なんだい?その人は?」
椿の問い掛けに、綺蝶は暫くの沈黙の後に息を大きく吐いて、はっきりとした大きな声で答えた。
「風太郎……獅子王院風太郎さんです」
それを聞いて両眉を上げる両者。予想外の名前だったのだろう。
椿は大きな剣幕で迫る。
「その理由は何故だい?なんで、あんな新参者にそこまでの力があると?」
椿の問い掛けに、綺蝶は『風の破魔式』の事と『氷の破魔式』の両方を使える事を告げた。
「上様も椿様もご存知の筈です。古来より、風と氷の破魔式の使い手は常に玉藻紅葉の身を脅かしたと……」
二人は顔を見合わせて頷く。歴史上、その破魔式を扱えた人物はたったの二人。
一人は伝説上の人物と揶揄される人物で、日本神話にも出てくる人物であるが、こちらはあくまでも伝聞に過ぎないので二人の頭の中ではあくまでもそういう事があったかもしれないという確定の元で頭の隅に置いておく。
そして、もう片方ははっきりと実在が伺える人物。
彼女の名は木本。木本奏音きもとかなね。稲荷明神の巫女であるのと同時に、最強の対魔師として歴史上で唯一、玉藻紅葉を追い詰めた事で知られる人物だ。
その彼女が使っていたのは氷と風の紋章。彼女はそれを用いて玉藻紅葉を江戸城の天守閣で追い詰めたのだ。
だが、後一歩という所で逃げられてしまい、直後に発生した明暦の大火で彼女は亡くなってしまったという。
「伝承の中では明暦の大火は玉藻が逃げる際に振袖に火を付けたから発生したとさえ言われているね。まぁ、本当かどうかは分からないけどさ」
椿はそう言うと、何やら将軍に耳打ちをする。
すると、将軍は綺蝶に次の命令を下す。
獅子王院風太郎を紋章使いにし、彼を上位の対魔師へと上げろ、と。
彼女は今度こそ命令を拝命してその場を去っていく。
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