太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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船橋事変編

綺麗な蝶ほど毒を持っている

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獅子王院風太郎とかつての江戸の力士、電電とが宿泊施設の廊下にて激しい激闘を行って斬り結んでいたのと同時刻。
斑目綺蝶は討滅寮の同志であり、同時に自分と同じ上位の対魔師である氷堂冴子と共に宿の部屋の中で妖鬼の対策を行うために、準備を行なっていた。
「おい、斑目。忘れ物はないよな?」
「ありませんよ。それよりも、問題なのはあなたですよ。氷堂さん。あなたこそ刀持ってますか?」
その言葉を聞くなり、綺蝶に向かって叫ぶ。
「黙れッ!私はお前と違って実力で成り上がったんだぞ!そんな凡庸な間違いを犯す訳がないだろう!」
「どうでしょう?どんなに優秀な人でも凡庸な間違いくらい犯しますよ。例えば、飛鳥時代に強国隋から皇帝煬帝の手紙を落とした小野妹子の話がーー」
「お前はどうして私に一言、素直に謝れんのだ!?いつも、いつも屁理屈ばかりこねて!」
「屁理屈じゃありません。反論しているだけです」
澄ました顔の綺蝶に冴子は反論しようと口を開けようとしたまさにその時だ。
二人は同時に異様な匂いに気が付いて窓の方角を振り向く。
二人が振り向くと、窓の淵には扇子を持ったおかっぱの髪に可愛らしい顔にブラウスに赤いスカート姿という平凡という言葉が一番似合うほどの少女が短剣を構えて待っていた。
「初めまして、私の名前は文代。宮須川文代みやすがわふみよと仰ります。以後、よろしくお願い致します」
彼女はそう言うと、窓の淵から降りて二人が止まる部屋の畳の上で深々と頭を下げていく。
冴子は黙って床の上に置いてあった刀を手に取ったが、綺蝶も彼女と同じ様に深々と頭を下げていく。
「こちらこそご丁寧に。私の名前は斑目綺蝶と申します。これからお気軽に綺蝶と呼んでくださいね?」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってまたしても深々としたお辞儀をしてみせる少女らしき妖鬼。
「ありがとうございます。では、これからは綺蝶さんと呼ばせて頂きます」
一通り自己紹介を終えると、彼女は右足を微かに上げてから、全身を持ち上げて立ち上がっていく。
そして、スカートのポケットの下に両手をやると丁寧に頭を下げて、
「では、ご用件を申し上げましょう。本日、私が参りましたのはあなた方お二人のお命を頂くためですわ」
「ほぅ、それは聞き捨てなりませんね?私たちの命を頂くというのにはそれ相応の理由がある事になると思いますが、よければ、それ相応の理由をお聞かせ願えませんか?」
それを聞くと、彼女はもう一度、丁寧に頭を下げて彼女に向かって言った。
「はい、率直に申しますと、あなた方が邪魔だからという理由ですわ。あなた方は我々の計画に紛れた不純物。言い換えるのならば、白いケーキの中に紛れた茶色のチョコレート。完璧な詩の最後に付け足された余計な一言……それが、あなた達です」
「成る程、チョコレートの紛れた白いケーキをゴミ箱の中に処分する様に、また、詩の最後に付け足された余計な一言を消しゴムで消す様に、我々を消したいと?」
「仰る通りです。ですが、最期……あ、我々の最期ではなく、あなた方の最期という意味での最期ですが、そうなる前に教えて頂けませんか?あなた方の詳しい計画をお教え頂けませんか?」
綺蝶が皮肉を交えての投げ返しを行った時だ。突然、少女の前に一人の中年の男が現れて、綺蝶に向かって斬りかかっていく。
綺蝶はそれを刀で受け止めると、突然、自分の目の前に斬りかかってきた男を睨む。
男は青色の制服に四角い帽子を被った男であり、近代の歴史が書かれた本を読む中で挿絵として出てくる政府軍の制服にそっくりな服だった。
加えて、男の持っている武器は刀ではなくサーベル。
それも、綺蝶のそう言った連想に繋がったのかもしれない。
彼女は剣で流れるように男のサーベルを流すと、彼に向かって斬りかかっていく。
彼はサーベルを綺蝶の元から離すと大きな声で彼女をなじっていく。
「貴様ァァァ、おれのッ!おれの娘になんて事を言いやがる!許せねぇ!娘はお前たちにも敬意を払って、丁寧な言葉を使って、お前らの命を取ってやろうと思っていたんでぇい!それなのに、テメェはそんな娘の思いを踏み躙った挙句に、娘に残酷な言葉を投げ掛けやがった!許せねぇ、許せねぇ、テメェなんか人間じゃねぇや!叩き斬ってやる!」
彼はそう言ってサーベルを振りかざして綺蝶を襲うが、綺蝶は身を素早く身を交わしたために、サーベルは部屋の壁を傷付けただけで済む。
怒りの顔を向ける男に向かって綺蝶は一言、辛辣な言葉を言い放つ。
「あなたの口向上、長い上に無駄な言葉が多いですね。普通なら、あなたが余計な事を喋っている間に、あなたが言うように叩き斬られると思われるんですが、それでも、私が邪魔をしないであげたのはお慈悲からで、もしもしー?聞いてますかぁ?」
綺蝶の煽りに男は我慢の限界が来てしまったらしい。無茶苦茶にサーベルを振り回しただけでは飽き足らずに、そこにマグマを纏わりつかせたものであるから厄介である。
マグマがこの部屋の中で飛べば、当然、火傷の痕が残ってしまうだろう。
それだけは塞がなければならない。そう考えていた時だ。
彼がサーベルから放り投げたマグマは氷堂冴子の別の炎によって消滅してしまう。
と、言うのも彼女が扱う破魔式は光線。
光線の大きな熱量でマグマは溶かされてしまい、消えてなくなってしまう。
光そのものを扱う綺蝶とは対照的であり、同時に味方に回せば頼もしくもあった。
彼女は刀を抜くのと同時に、光から小さな光弾を発射して男を狙う。
男はそれをマグマを出して消滅させる。
互いに弾丸を飛ばすのは意味がないと両者も理解したらしく、今度は互いに刀とサーベルとを構えて斬り結んでいく。
部屋の半分を使用しての斬り合いを綺蝶ともう片方の窓の近くに立っている少女は黙って眺めていたのだが、やがて目が合うと、彼女はもう一度、深く頭を下げて、
「先程は父が失礼致しました。綺蝶さんの質問にお答えさせて頂きますと、今回の計画は妖鬼の頭目による報復です。無造作の虐殺による報復です。ですが、あなた達がいる。阻止されると困るから、先手を取る。それが、あの方のご命令です。お分かり頂けましたか?あ、今頃はあなたのお弟子さんも我々の別の部下の手によって襲われていますから、少なくともあなたを助ける余裕はないと思われます」
「成る程、よ~く理解できました。なら、さっさと始めましょうか?我々の戦いを」
彼女はそう言うと、無言で刀を少女に向ける。
少女もそれを見越してか、服の中に隠し持っていたと思われる短刀を抜き取り、その刃を綺蝶に向ける。
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