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東京追跡編

仁義なき戦いは氷と鎌で!

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風太郎は突然、鎌を振るって襲い掛かってきた堺の攻撃を刀で防ぐと、そのまま塞いだ時に放たれた鎌の勢いを利用して弾き返し、あの男、堺義政がよろめいている隙を利用して背後に存在していた狭い路地の間に存在する家々の屋根を登って距離を取っていく。
だが、当然、先程の男もそのまま逃す訳にもいかない。なので、彼は妖鬼の力を利用して足を消して代わりに、幽霊の様に宙に浮いて密集した家々を江戸期の盗賊の様に屋根の上を走る青年を追い掛けていく。
そして、追い付きそうになる度に、風太郎から反撃の一撃を喰らわせられるという始末だ。
風太郎もまさか、真横に並んだ密集した下町の家々の瓦の屋根の上を駆けながら、屋根と屋根との間を飛び回りながら、手に備え付けられていた鎌を振るう妖鬼に立ち向かうとは先程までは思いもしなかった。
真昼間からこの様な行動を取るのは世間でよく流行る娯楽作品の闇で人知れずに戦うという主人公たちの姿勢からは程遠いというべきだろう。
だが、対魔師にも、妖鬼にも自分たちの戦いを娯楽作品の登場人物の様に人々に隠匿する義務などない。
だからこそ、こうして白昼に堂々と屋根の上で太刀と鎌を交えて斬り結び合う事ができるのだ。
風太郎とかまいたち擬きの妖鬼もとい堺義政との斬り合いは無限に続くかと思われたのだが、先に空中を移動する堺が攻撃を仕掛けた事により、それは立ち消えとなってしまう。
堺は両手に付いている鎌を束ねて突っ込む事により、風太郎に全身攻撃を仕掛けていく。
風太郎は凍らせた太刀を盾にして男の攻撃を防いだが、何せ、全身でぶつかってくるものだから溜まったものではない。
やむを得ずにその場から離れたが、それを逃す堺ではない。
彼は鎌と化した両手を振るって、そこから衝撃波を飛ばす。
風太郎もそれに対抗し、氷柱を飛ばす破魔式を飛ばして空中との間で相殺していく。
続けて氷柱を飛ばす風太郎。それに対抗するかの様に衝撃波を飛ばす堺。
両者の戦いは再び膠着状態と化していく。
風太郎は太刀を構えて機会を伺う。だが、堺という男に隙が見える様子は見えない。
既に凶悪な妖鬼と化した男には疲れなど見えないのかもしれない。
風太郎がそう考えていると、堺は予想外の方向へと動いていく。
堺は右手を鎌から普通の人間の手に戻したかと思うと、懐から拳銃を、今度は回転式のリボルバーと呼ばれる拳銃を抜く。
そして、有無を言わさずに風太郎に向かって拳銃を構える。
風太郎は瓦屋根の奥へと転がる事により、第一発を交わす事に成功する。
だが、堺は引き続き風太郎の頭を狙っていた。
更に、風太郎は知る由も無かったのだが、堺はこの銃弾に己の鎌から生じる鎌の衝撃を銃弾に加えたのだ。
こうすれば、風太郎に弾丸が直撃した際には風太郎は弾丸の中に含まれた衝撃を喰らって致命傷を負って屋根の下へと降りていくという筋書きだ。
だが、風太郎はあのかまいたち擬きが攻撃を喰らわせるよりも前に、氷結下僕を繰り出して攻撃を防ぐ。
堺はどうやら、風太郎の作り出した氷の下僕の始末に手間取っているらしい。
風太郎はこの隙を利用して堺との間にあった距離を詰めていく。
初め、足を前へと踏み出した時に大きく瓦が外れる音がした時には焦ったものだが、目の前の怪物の首を取れるのならそれすらも希望の到来を告げる天使のラッパの様に聞こえる。
風太郎は瓦の上から大きく太刀を右斜め下に斬り上げていく。
すると、堺は大きな悲鳴を上げて地面の下、つまり、家と家との間に存在する通路ほどの大きさの路地の上へと落ちていく。
それを見届けると風太郎は二階の瓦の上から飛び降りて、堺の喉元に太刀の刃を突き付ける。
「お前の負けだ。このまま大人しく首を狩られるんだな」
「……クソッタレ」
そう言って堺は忌々しげな表情を浮かべて風太郎を睨んだが、周りに住んでいた町の人々が集まるのと同時に、彼はもう一度空中に飛び上がり、風太郎の元を離れて集まった人間の中から若い男性を人質を取り、頭に銃口を突き付ける。
風太郎は太刀を抜こうとしたが、堺は大きな声で風太郎を嘲笑う。
「どうだ?クソ野郎。オレはこいつを人質に取ってやった。お前が太刀を振れば、こいつがどうなるのかは分かるよな」
「……流石はヤクザだ。肥溜めの中のクソよりも腐ってやがる」
それを聞いた堺の眉根が寄る。それから、人質にしている詰襟の黒色の学生服の若い男の頭に向かって苛立ち紛れのつもりなのか、かなり強い力で銃口を突き付けていく。
「誰が肥溜めの中のクソだってゴミが、たかだか、20にも満たねぇクソガキがよくも言ってくれたな。テメェはオレを不快にさせた。よって、こいつには死の宣告を突き付けてやるッ!」
風太郎が抗議の声を上げようとしたが、それよりも早く男は引き金に手を掛けようとする。
だが、結局、男のリボルバーから銃弾が放たれる事は無かった。と、言うのも男の体が真っ白な人形の巨大な紙に包まれて、光となって消えていってしまったからだ。
後に残ったのは人質にされていた青年と男が握っていたリボルバー。
リボルバーが地面に落ちて音を立てるのと、青年が声をあげて泣くのは殆ど同時だった。
風太郎は青年の元に駆け寄ろうとしたが、それよりも前に、誰かが駆け寄ろうとした自身の右肩を強く引っ張ったために、彼は思わず背後へと引き寄せられてしまう。
風太郎が抗議の声を上げようとする前に、口を手で塞いで風太郎を群衆の元から引き離していく。
群衆から引き離されて下町の路地に引っ張られた所でようやく口枷を解かれた風太郎が相手を怒鳴ろうとした時だ。
風太郎は男の姿を見つめて思わず感嘆の声を上げてしまう。
と、言うのも男の顔があまりにも美しかったからだ。
人を魅了する魔性の伯爵というのは案外、彼の事を言うのかもしれない。
思わず頬を赤ませていると、男は今度は微笑を浮かべて風太郎に向き合う。
「……初めましてというべきかな。ぼくの名前は長谷川零はせがわれい。昔は陰陽師。今は東京でしがない占い師をやっているものだ」
風太郎はそれを聞いて思わず首を横に振る。と、言うのも彼はあまりにも整った白色の背広を身に纏っているからだ。
白色の背広を着た彼は驚く程、貴公子という言葉が似合っていた。
声も爽やかそのもので、一度聞けばもう一度聞きたくなる程の素晴らしい声。
こんな完璧な男がどうして、自分なんかを助けたのだろう。
風太郎が疑問に感じていると、それまでは柔和であった零は突如、顔を顰めて、
「追っているんだろう?」
と、尋ねた。風太郎が首肯する旨を見せると彼は小さな声で「そうか」と呟いてもう一度、今度は真剣な顔を浮かべて風太郎と向き直る。
「言い忘れていた。ぼくは君の力になれるだろう。何せ、ぼくはあの女を天安……今でいう平安の頃から追っているんだから」
風太郎はそれを聞くなり、もう一度零に向き直る。
二人は互いに無言で互いの目的を察し合う。
それから、零は懐から取り出したと思われる一枚の読めない昔の文字が記された短冊を手に風太郎に向かって言った。
「あの女の話を今、してもいいが、私の勘ではキミの仲間の対魔師が今、大変な目に遭っているのが分かる。先に二人を助けに行ってもいいかい?」
風太郎は無言で首を縦に振った。二人はそれから、路地を通って手の中の短冊が指し示すという方向へと向かって行く。
彼は裏の路地、先程の場所を迂回しながら目指す目的地の場所を笑顔で告げた。
「驚かないで聞いてくれよ。ぼくらの目指す場所はヤクザの事務所だよ。最近、下町で幅を利かせている吉森組というヤクザのね……」
風太郎は魔性の美しさを持つ笑みから放たれる男の言葉が妙に恐ろしく感じてしまう。
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