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7.変われたのは、彼女かオレか、その両方
しおりを挟むオレが女の子相手に臆病になったのは、中学の頃だった。
クラスに好きな女子がいて。
でもその子とは友達の関係を崩したくなくて……いい雰囲気だよなって、勝手に思ってて告白できないままだった。
そんなある日。
理一の家に遊びに行ったオレは……。
その子と理一がエッチしてる現場に出くわしてしまったのだ。
「ごめん。お前が好きな子だって知ってたら、手え出さなかった」
流石にこの時ばかりは、「女なら誰でもいいんだし」とは言わず、理一は真剣な顔でオレに謝った。
悪いのは理一じゃない、悪いのはオレ自身だ。
そうだ、オレはなにもしなかった。
告白もせず勝手に好きになって、相手にされなかっただけ。
いつもの事だ。
でもただそれだけの事なのに、どうして胸がここまで痛いんだ。悔しいんだ。思考がぐちゃぐちゃになる。
理一も、勿論その子も悪くない。
だからどこにもぶつけられずに、こじらせてた。
傷ついた気持ちを無理やり押し込んで、封印する。
オレは恋に臆病になった。
意識か、無意識か、自分はそことは違う場所に置こうとしていた。
そして生々しい事にも。
さっきの理一と兵梨のやり取りは、そのトラウマをオレの中から引きずりだした。
臆病だった、何もできない……いや、しなかった自分。
だから……。
オレは一つ深呼吸をして、兵梨に言った。
「好きって言うのは凄い勇気がいる事で、兵梨はすごいやつだと思う」
「す、すごくないよ。ただゆうあは漣くんがスキなだけだもん!」
「ごめん、いっぱい好きって言わせて」
「あやまらないで」
「本当にごめん」
「あやまらないでよぅ……」
オレが謝るたびに兵梨はまた泣きそうになってるのか涙声だった。
「兵梨のそんな精一杯を。いままでかわして、ごめん」
「だから……謝らないで漣くん」
兵梨は、なぜかオレの言葉の先をはぐらかそうとしている。
でも、オレは聞いてほしかった。
「聞いてくれ」
オレは抱きしめていた兵梨の両肩を掴むと、体から離す。
顔を見て言いたかった。
今の体制は、あの時兵梨に「大事な一人だけとしろ」と言い聞かせた体勢と一緒だ。
オレも勇気を出さなきゃいけない。
「こんな愛想尽かされても仕方ないオレだけど、間に合うか?」
「?」
「兵梨、オレ兵梨の事……好きだ」
泣きそうに歪んでた兵梨の表情が一瞬固まる。
「嘘……」
「オレも兵梨の事好きだ……付き合ってくれ」
「………………」
無言。
その無言の時間が、じりじりとオレを攻め立てる。
「よかったぁ」
そういって兵梨は大きな目から涙を流す。
マジ泣き。
慌てて、ポケットに入っていたくしゃくしゃのハンカチを差し出した。
「謝られるから。今度こそはっきりと振られるのかとおもったぁ」
そんなつもりは全くなかったオレは、兵梨の態度に納得する。
「今までね、漣くんが優しいから……断らないでもらえればそばに居れるって思ってた……それであんな事になっちゃって、もう嫌われたかと思っちゃった。でも、こんなゆうあでもいいの?」
「いや、兵梨こそオレなんかで本当にいいのか?」
どう考えても散々格好悪かったオレは、兵梨に好かれる要素なんか見当たらなくて、聞き返してしまう。
「うん、漣くんじゃなきゃダメなの……好き。大好き」
大きな目が、オレを見つめてる。その瞳に映ってるのはオレ。
急に意識すると恥ずかしくなって、オレは兵梨と距離をとった。
これ以上密着は、危険だ。
危険すぎる。
「……オレも、好きだ」
テレて、目線を外すオレ。
でも兵梨はお構い無しにオレに抱きつこうとする。それを拒否する恰好もあの日と同じ。
だけどお互いの気持ちは確実に違ってて、特にオレの方はというとその誘惑に屈しそうになる。
マテマテここは学校で、朝で。
いや場所や時間が問題ではなく、冷静になれオレ。
ネクタイをあげたときよりもとろけた顔で、兵梨はオレを嬉しそうに見つめる。好きな子にこんな顔されて我慢できる訳が。ない。
「漣くんがすき、しよ!」
「……………」
――我慢しろ、オレ。
いつもの調子でチョップすると、それでも兵梨は笑顔だった。
えへへ~と締まりのない顔でへらへらしている。
「何がそんなに嬉しいん……だよ」
「だって今のチョップキレがなかったし、間があった、から……漣くんちょっとは考えてくれたのかなぁって」
ちょっとどころかすごいこと考えてましたよ、ああ。
なんでいつも鈍い癖にこんな時だけ鋭いんだ……オレは顔が赤くなるのを止められない。
「あ~もう、わかった、わかったよっ……兵梨、目閉じて」
「うん!」
完全にキス待ちポーズ。
読まれてるのが悔しくて、それよりも唇にする勇気がなくて、オレは頬に掠めようとしたのに。
「!!」
「えへへ、漣くん大好き」
薄目を開けていた兵梨は頬をずらして、お互いの唇が触れる。
その唇は柔らかくて、もっともっと触れていたい、浸ってたいと思いながらも、やっぱり臆病なオレは反射的に兵梨から離れた。
「や、やっぱり、当分こういう事はナシ、ナシだ!!」
「えーっ! やだやだっもっとラブラブしたいよ!」
両思いになっても、やっぱり勇気の出ないオレ。
でも兵梨は文句を言いながらも、すごくうれしそうで。
「うっそ、あんだけお膳立てしたっつーのにチュウだけ!?」
両想いになって、無事にカレカノになり。
おさえのきかなくなった、兵梨のラブラブしよう攻撃からやっとの事で逃れて、チャイムが鳴る前に教室についたオレは理一に「いい病院紹介しようか?」と、嬉しそうな様子でからかわれたのは言うまでもない。
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ありがとうございます
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