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最終決戦

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「・・・・・・・・・・」

 四代目泰衡は伽羅御所でひとりぼっちになって、天井を見つめていた。

「生きる気力を失ったか?」

 その声を聞いて泰衡は飛び起きた。
 鬼神が立っていた。

「まろを守ってくれるのではなかったのか!?」

 泰衡が鬼神にしがみついた。

「貴様は、今自由を手に入れた」

「え?」

「ずっと怯えていたんだろ?奥州の長になることに。それこそが貴様の最大の恐怖だった。今それから解放された」

 鬼神はしがみつく泰衡の頭を子供を撫でるように優しく撫でた。

「まろは・・・まだ終わってはおらぬのだな?」

「終わってはいない。ここから逃げて己の人生の結末を見届けろ!」

 泰衡は奥に入ると準備を始めた。鬼神はその姿に微笑みながらどこかへ消えた。

            *       *       *

「報告、四代目は判官様を見捨てました!」

「ちくしょう!光殿に報告しろー!」

 金鶏山で待機していた仲間を率いている無学が報告を聞いて、すぐに光のところに伝令を走らせた。

「兵が見えます!」

「兵だと!?まさか四代目がもう兵を動かしたのか!?」

 加羅の御所へと続く道から数百の人影が見えた。

「え~っと、臨、兵、闘、者、皆、陣、列、前、行」

 無学は九字を切った。

 ギリ、ギリ、ギリ・・・・・・シュパッ!

 無学が一矢飛ばすと、それに続いて仲間達が一斉に矢を放った。

「おかしいな・・・・?」

 倒したはずの敵が立ち上がった。無学は目を凝らして見ると敵は甲冑に身を包んだ人形のようであった。

「式神か!?」

 泰衡軍と思っていた兵は式神だった。

「やばいぞ、おい・・・・こんなに!?」

 式神達が迫ってくる。
 皆が恐怖した。
 100ほどだった、その数はさらに増してきている。

「!?」

 式神が一瞬にして消えた。
 そして1人立っている者がいた。

「何で俺の目の前に・・・」

 無学の目の前から敵の兵はいなくなった。その変わりに奴が立っていた。

「私は気まぐれ、ゆえにお前らの命は気まぐれ・・・・」

 鬼神が立っている。
 今まで目にしたことのなかった鬼神が我が前に現れた。

「・・・はっは、やっぱ凄いね。初めてでもすぐに分かるなんて」

 その光景に最初困惑していた無学だったが、突然笑い出した。

「あっしは平泉の金で大金持ちになり、理不尽など無かった・・・だが、息子が野盗に殺された。生きがいを失ったあっしは悲しみに負けないようにバカになって元気に生きた・・・息子に会ったら言ってやる。鬼神を笑ってやったとな!」

 笑いながら薙刀の刃先を鬼神に向け無学はこれが人生の最後と言わんばかりの大声を上げ、鬼神に突進した

            *       *       *

 ジャリ・・・。

 衣川館へと到着した。初めて兄者と出会ったときから変わっていなかった。
 門をくぐり母屋へと向かうと、母屋の前で1人の大男が立っていた。

「弁慶・・・・」

 母屋の前で弁慶が立ったまま亡くなっていた。殺した奴は分かっている。
 だが、奴を相手に殺されても倒れなかった弁慶を尊敬の眼差しで見つめた。

 弁慶に膝をついた。
 そして弁慶の後ろにある母屋の戸を開けた。

 ガラ・・・。

「行信!」

 障子を開けると、待ちかねていた兄者が立ち上がって某を呼んだ。
 
「兄者・・・サクヤさまを連れてきました・・・」

 幻覚はすぐに消えた。

 そこに兄者は、いなかった・・・・・。

 もし、兄者がサクヤ様を待てずに奥州から逃げるときは仲間が某に伝えるはずだった。
 だが、その報せは自分には届いていない。

「あなたはどこへ行ったのですか?」

 表で気配がした。
 母屋を飛び出した。

 門に入り口があった。
 暗闇へと誘う、奴に通じる鬼門だった。

 拳を握りしめ、震える足を動かし中へ入った。

「!?」

 中へ入ると、一つの家があった。その家は幼き頃、父と母と共に過ごした家だった。
 涙が出そうだ。あの時の某は世の中など何にも知らない子供だった。
 ただ父を尊敬し母が大好きで、そんな2人と自分がいた家だった。

 その家の前に奴が立っていた。

「義経はここにはいない・・・」

「・・・正直某はお前から逃げたかった。だが、お前からは逃げなれない。だから必死になって強くなった・・・」

「人間というのはずっと、臆病だ。清盛は私を絶えず求めた。そして頼朝も私にすがった。権力を手にすると自分の弱さがよく見えるようになる。だから、私が人間の人生を操る」

 鬼神はしゃべりながらゆっくりと近づいてきた。

「お前が決めたのか?この結末を!?」

「義経は全力を出した。頼朝はその弟を嫌った。結果、こうなった・・・お前は、まだ生きている・・・女はどうするか?」

「一緒に眠ろう。この太刀を貴様に刺してやる。俺がお前を100年は封印させてやる!」

 光の眼が赤くなり、身体から黒い妖気が強く見え始めた。

「サクヤ様の幸福だけは守り抜く!」

 神斬を抜いて切りつけた。

「斬れたか?」

 鬼神が笑いながら言った。
 やっぱり斬れなかった。
 刃は奴の首筋で止まった。

 ガッ・・・ダン!

 奴に掴まれると膝蹴りを食らった。悔しさで涙があふれそうな痛みだ。

「よく生きている・・・疑う事なき強者だ・・・」

 鬼神は地面に倒れて動けない某に近づく。
 そして某の顔をのぞき込んだ。

「貴様は強者だ。必死になって生きて、私と戦う価値のある人間だ」

「ふざけるなぁ!!!」

 鬼神の心臓めがけて突いた。
 だが、奴の手のひらに止められた。
 鬼神は某の頭を掴むと地面に叩きつけた。
 鬼神の指が頭に食い込んでいく。

「ちきしょう・・・なぜ勝てない・・・」

「私は鬼でもあり、神でもあるからだ!」

 鬼神は高笑いした。
 感情が高ぶる某の前で大笑いした。
 眼から涙が止まらない。

「その高笑いを止めろ!」

 後ろで声がした。
 鬼神が振り向くと、ホロが突進してきた。
 ホロが一瞬にして間合いを詰めると、鬼神の喉元を切り裂こうとした。
 鬼神はその太刀を紙一重で避けた。

「光・・・お前を死なせねぇよ。だから死ぬな!」

「すまない・・・・」

 感謝と共にこの言葉を言うと、痛みを堪えて立ち上がった。

「古の狼、貴様が100年守ったこの国も、結局は私の手で終わりを告げる」

「100年前に俺に勝たせたのは、これを見せるためにわざと勝たせたのか?」

 ホロは眉間にしわを寄せていた。

「私はつかの間の夢を見せることも出来る。あのエミシの男の夢は作らせてやった。鎌倉に新しい時代を作る男のために、この夢を潰そう」

「痛い目見るぜぇ、俺と戦ったら!」

「強者共らに応えてやろう・・・」

 ホロの怒りを見て鬼神は上半身を脱いだ。
 奴の身体には無数の黒い模様がまるで怨霊のように奴の身体中を駆け巡っていた。

 そして奴の額から2本の角が現れた。
 奴の身体から地面へと黒い妖気が走り出し、空を覆った。
 瞳の中の小さな赤い点が広がり、ついには瞳を覆った。

 鬼神が真の姿を見せた。

「本気か?あぁ本気でなきゃ俺には勝てねぇ」

 ホロが2本の蕨手刀を構えた。

「もう一度、私にあたえてみろ・・・あの時の一撃」

「おう!」
 
 ホロが突進した。
 鬼神は2本の見慣れぬ刀を具現化した。

 ガッ、ザッ、ガキッ、ダァン・・・・。

 鬼神が突きを出すとホロが刀でそれを受け止め、ホロが切りつけようとすると、鬼神は刀でホロの一撃を難なく受け止めた。

 ガィィィィッン!

  凄まじい音を響かせながら両者は戦った。

 ブンッ!!!

 ホロは鬼神に接近し蕨手刀の一本を投げた。
 鬼神は避けた。
 ホロは速度を緩めることなく鬼神に突進した。

 ザンッ!

「!?」

 鬼神の表情が一瞬止まった。
 鬼神の片方の刀はホロの胸を斬った。

 正確には、ホロは寸前で足を止めた。
 それによって痛みは致命傷にはならなかった。
 お返しにホロは蕨手刀を鬼神の腹に刺した。

「なぁ言っただろ。いくらお前が勝てると言ったって俺にただで勝てると思うなよ!」

「おおかみ!」

 鬼神は柄頭でホロの顔面に一撃を入れた。
 ホロはよろめいた。

「ガブ!」

 ホロは鬼神の肩にかみついた。
 鬼神はホロの脇腹にさらに一撃を入れ、ホロを投げ飛ばした。
 ホロは門に叩きつけられた。
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