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27 帝王との初対面

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「帝王は?」

「あちらです。いよいよ最後のときです」

 宰相ベルガが戦場にやって来た。
 ベルガの視線の先に大きな扉があり、その扉の前に黄金の覇気(オーラ)をまとったイズルが太刀を握って立っていた。

 ベルガは邪魔にならないよう離れたところに立って見ていた。

「はぁあああ!」

 イズルの一撃で巨大な扉は切り裂かれた。
 扉の向こうにいたのは、ウロス国の国王だった。部屋の隅でおびえる国王にイズルは刃を向けた。

「わ、わたしは反乱など起こしていない!」

「おまえは反逆者だ!」

 帝王としての威厳を知らしめんとするその瞳で、ひざまづくウロス国王を見下ろした。

「お前は我が帝国の威厳を無視し、エキルドナ国と争いをした。それにより、世界に混乱を引き起こした。その罪は重い!お前は我が帝国が定めた、『皇条』で捌く。引っ立てろ!」

 イズルの一言で国王は帝国兵士に拘束され連行された。
 それを確認したベルガはイズルへと近づいた。

「帝王、これにより反乱を鎮圧できました。・・・あの男はこの場で帝王が始末しても良かったのですが・・・」

「それはならん!」

 ベルガの言葉にイズルは強く否定した。

「我が帝国こそ世界を治める主。そのためにも俺も初代帝王が作った『皇条』を守らねばならん。私的感情で殺さない!」

 イズルはベルガを叱った。
 ベルガは「失礼しました」と深々と頭を下げた。

「ところで帝王、ミハエルを覚えておいでですか?」

 続いてベルガは魔術師ミハエルの件をイズルに報告した。

「ミハエル・・・以前我が帝国衛士の選抜を受けていた上級召喚士か?」

「優秀な者でした。能力的には帝王の直属召喚士になれたかもしれなかった。だが性格が良くなかった。傲慢にして他人を侮辱していた。」

「その男がどうした?」

「ホリー国の首都ウェンディでスカルマーダーが人を襲っている例の事件のことです。我ら独自の調査によればそれを操っているのが彼ではないかとでは無いかという報告がもたらされましてね」

「それでどうした?」

「それを突き止めようとしましたが、彼はすでに消えていました。おそらくは倒されたのかと」

「誰がやつを倒した?」

 イズルの質問にベルガは冷静に答えた。

「例の『黄金の日輪』の時に現れた武士かと」

 ベルガの口から例の武士がでたときイズルは表情を変えた。

              *       *       *

 ルナどのの稽古が始まってから10日が経った。
 大魔術師サハリどのがルナどのに与えた稽古は、朝は心身を鍛えるため、森の中を走る。
 それが終わると朝飯を食べる。
 朝飯を食べ終わると基礎呪文を何度も繰り返す。
 それを何度も繰り返した。

「魔術師はどのようにして己を鍛える?強力な魔術はどのように習得するのですか?」

 某はサハリどのに魔術のことを尋ねた。
 某がこの世界で魔物共らと戦うとき、ルナどのが側にいて共に戦っている。
 それならば魔術について某もある程度知らねばならぬ。

「呪文の言葉の中にはその魔力の源である力が隠されているのさ。その隠された力を解いて、鍛えた身体よりいずる集中力で強い魔術を出す。【覚醒(アウェイクニング)】を作ったのは、このあたしさ」

 老婆になっているサハリどのが、穏やかな声でミハエルがかけたあの恐ろしい魔術は「自分が編み出した」と言った。

「【覚醒(アウェイクニング)】は何故、あそこまで強く、何故あの男は自滅したのですか?」

 あのときの戦いで、あのミハエルとかいう召喚師が自滅しなければ某は死んでいた。
 そのミハエルが己にかけていた魔術が気になる。

「あんたがルナにかけてもらう魔術は【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】だね」

「は!」

「人間ってのは普段は自分の身体能力は7割程度しか使っていないんだよ。【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】はその残りの3割を引き出す魔術さ。まぁ魔術師の腕によりけりだけどね」

「それで【覚醒(アウェイクニング)】は?」

「それ以上」

「それ以上?」

「己の限界を突破して更なる力を得ることができるのさ。だがその力をかけてもらおうと思ったら、己の心身をしっかり鍛え上げないと身が持たないのさ。あの魔術師は2流だね。自分を過信しすぎたんだ」

「で、ルナどのにあの魔術を教えるのですか?」

「かけてほしいのかい?」

 少し戸惑いながらも頷いた。
 同等の力は欲しい。
 おそらく今後、更なる強者が出るであろう。
 その時、某の今の実力だけで抗することが出来るか不安だ。

 強さを求めておる。

「ルナちゃんには基礎をたたき込むよ。あの魔術はバカが幻想抱いて死なぬよう、あたしが禁じ手にしたんだがね・・・」

「稽古にいってまいる!」

 某は森の中へと入っていった。巨大なパイリウムの森の中で、某は適度な大きさの小枝を折った。

 そして五感を澄ました。

 後ろで気配がした。

「くそ、外れた!」

 今度は上で気配がしたので上をたたいた。
 だが当たらなかった。
 周りで飛び回りながら、某を笑っている。
 
 妖精たちだ。
 妖精たちが某の周りを飛び回るのを小枝で当てようとするが周りを数人が息を合わせて飛びまわるので翻弄される。

「虎吉さ~ん。そんなのじゃ当たんないよ~」

 ポイが某をからかう。
 それにつられてほかの妖精たちが笑う。

 こんな状態でずっと某は、この者たちに笑われながら稽古を続けている。

 まったく、何一つ上達せぬまま刻が流れ去っていくような気分だ。

「休憩!」

「降参?」

「昼飯だ。屋敷に戻る」

 昼飯の刻になったので、屋敷に戻って、飯食って出直そう。

「あぁ、もう!あっ虎吉さま・・・どっどうも!」

 屋敷に戻ると屋敷の前で、ルナどのがいらだっていた。その姿を見られたのが恥ずかしいのか赤くなって取り繕っている。

「サハリさまから、自分の魔力を上げる基礎呪文を教えていただき、魔力を高めようとしているのですが、全然わたしの魔力がわたしに応えてくれないのです!」

「魔力が応えてくれない?」

「はい、魔術は高めた精神を持って呪文を唱えるのです。身体の中から沸き上がる魔力次第でより強力な魔術が使えるようになるんです。その魔力を高めようと必死になっているのに!」

「そうか・・・応えてくれない・・・」

 武術が基礎できなければ、技など無意味。
 某が妖精どもらを武術で鍛えた技で何とか当ててやろうと思っている。
 それで相手の動きを読もうと必死になっている。。

「お昼ご飯ができたよ」

 サハリどのが呼んだ。
 丸い文机にイシシという獣の肉とアリウという野菜を細かく切ってタレに漬けたものとネッチの卵をのせたそうめんが置かれていた。
 屋敷の障子を全開にして3人で食べた。

「でも、この景色は本当にいいですね」

 ルナどのが眼前に広がる景色に見とれていた。
 確かにイーミーの森を見ながら飯を食べると疲れが吹き飛び、昼からの稽古に力が入る。

「あたしは初代帝王がこの世界に来たときに彼を助けた。彼が帝国を作った後も一緒にいてね。でも彼が亡くなった後はここでのんびりと暮らしているのさ」

「あ~見たかったです。サハリさまが初代帝王と共に戦った姿を!」

「その初代帝王は名はなんと申し、どのようにしてそこまで強くなれたのですか?」

 【覚醒(アウェイクニング)】に耐えられる心身を持ってこの世界を手に入れた武士はどれほどの鍛錬を積んだのだ。
 出来ることなら、その者に稽古をつけて欲しかった。だがいない以上、せめて少しばかりの手がかりが欲しい。

「名はギケイ。それしか彼はしゃべらなかったね」

 サハリどのから聞けたのはそれだけだった。

 某は、小枝を持って再び森の中へ入っていった。

「妖精ども、稽古の続きじゃ!」

 某が叫ぶと「待ってました」とばかりに妖精たちが飛んできた。

「このっ・・・くそ!」

 動きを読んで枝を振っているつもりが全然当たらない。ポイが笑っている。

「虎吉!」

「ん?」

「いてっ!」

 当たった。

 ポイの動きを読んで枝を振ろうとしたとき、横から女童の妖精が某を読んだ。
 思わず、返事をしたとき某の枝がポイに当たった。

 今まで散々、この者らと稽古をしてきた中で、「動きを読んで打ち込んでやろう」という思いを忘れたときの動きが当たった。

「まぐれだ。こんなの当たってない!」

 周りの妖精たちが笑う中、ポイは否定した。

「もう一度、来い!」

 某は枝を構えた。

「よーっし、みんな今度は手加減するな!」

 ポイが当てられたのが悔しいのか、真剣な顔で他の妖精達と共に再び某の周りを飛び始めた。

 突然皆が一瞬にして静かになり、森の中へ逃げ込んだ。

 頭上から強い気配を感じた。
 上空に翼の生えた生き物に乗った数名の日本の甲冑を着た者たちがいた。

 その1人が降りてきた。
 その者は笹竜胆と月が描かれた朱塗り鞘に入った太刀を持っていた。

 武士なのか。

 背は某より低くルナどのよりは高く、黒い長髪を後ろに結んでいた。
 そして身体からミハエルと同じ、黄金の妖気が見える。

「やあやあ、我こそは」

 某を見て喜びながら名乗ってくる。

「我こそは帝王なるぞ」
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