初恋の騎士は嘘に気づかない

小柴

文字の大きさ
上 下
4 / 4

第1.5話

しおりを挟む
 
 任務をひとつ終わらせてシャワーを浴びると、身体がすっきり軽くなったように感じた。
 髪をふきながら、テーブルの上にあった紙に目が止まる。誕生日に年下の少女から贈られた手紙だ。間に合わないけれど何かあげたいから……とDear Ian,ではじまる手紙は、つたない英語で精いっぱいの気持ちがつづられている。
 辞書をつかいながらむずかしい表情で手紙をかく少女が浮かんできて、おもわず笑みがこぼれた。
「……!」
 電話の呼び出し音に眉をひそめ、彼は携帯をとった。なじみのある声が聞こえてきて、彼は不機嫌な態度で応じた。

『……なんの用だ』
『やあご機嫌だな、兄弟。用事がないと電話しちゃいけないのか?』
『おまえが何の用事なく電話してきたことがあったか?』
 いつも丁寧な日本語をはなす彼は、母国語ではまったく印象が異なっていた。電話越しの相手にはそれが普通らしく、彼の不機嫌さそっちのけで話し続けた。
『で、そっちはどうだ。めずらしい色の子がいるって派遣されて、うまくやってるのか?』
『………』
『しかし冗談で〝色じかけで落としてみろ〟と言ったが、恋人扱いするとはヒドい男だな。
 さすが伝説にたがわない黄金の舌の持ち主だ。──なあ、ガウェイン?』

 その名で呼ばれて、彼は威嚇するようにこわばった声を出した。
『その名で、まだ冠位が与えられていない相手を呼んではいけないはずだ。かるがるしく口にするな』
『だがお前が冠位をもらうとしたら、この名前だろ』

 〝ガウェイン〟とは円卓の騎士に由来する人物の名前だ。
 聖騎士の組織では、ごく稀に才気あふれる騎士に〝冠位〟が与えられることがあった。授けられたとしても同時代に数名だけ。彼にはその名を与えられるだけの実力があった。

『おなじ時代に冠位をあたえられる騎士は引きつけあう──…だろ? その子だって、めずらしい色の持ち主だったからお前がわざわざ日本に派遣されたんだ。
 かならず成果を持って帰れよ、イアン』

「……っ」
 相手からの電話がプツリと切れ、イアンは苦々しげに携帯をソファに投げつけた。

 ──自分の役目ぐらいわかっている。日本支部から報告された、ある少女を観察してあわよくば才能を発揮させること。
 そのために手段を選ぶなと、イアンは命じられていた。


<第2話に続く…>
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

家路を飾るは竜胆の花

石河 翠
恋愛
フランシスカの夫は、幼馴染の女性と愛人関係にある。しかも姑もまたふたりの関係を公認しているありさまだ。 夫は浮気をやめるどころか、たびたびフランシスカに暴力を振るう。愛人である幼馴染もまた、それを楽しんでいるようだ。 ある日夜会に出かけたフランシスカは、ひとけのない道でひとり置き去りにされてしまう。仕方なく徒歩で屋敷に帰ろうとしたフランシスカは、送り犬と呼ばれる怪異に出会って……。 作者的にはハッピーエンドです。 表紙絵は写真ACよりchoco❁⃘*.゚さまの作品(写真のID:22301734)をお借りしております。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 (小説家になろうではホラージャンルに投稿しておりますが、アルファポリスではカテゴリーエラーを避けるために恋愛ジャンルでの投稿となっております。ご了承ください)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...