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本編
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<鳩貝side>
田牧君には、失礼なことばかりしていた。
最初は、入社式の翌朝。研修で同じ班になった彼に「初めまして」と挨拶したら、
「あれ?俺のこと覚えてない?」
と笑われた。初日の歓迎会で散々絡んだ相手だった。
「鳩ちゃん、もしかしてお酒入ると記憶なくなるタイプ?」
「ち、違うよ!昨日は眼鏡かけてなかったよね!?」
「ああ、うん。今日だけ眼鏡」
仇名で呼ばれて記憶が蘇ったのだ。同じテーブルにいた面々にだけ、学生時代の仇名を伝えていたから。
そこから仲よくなった。全体研修が終わって同じ班ではなくなり、営業職だけの研修になってからも、何かと近くにいることが多かった。
営業だけで数十人いた同期入社だが、ほぼ男性で占められ、女子は3人しかいなかった。田牧君はサイズ感も女子とそう変わらなくて、なんとなく他の同期男子よりもとっつきやすかったのだと思う。
営業研修では、最後の方でロープレテストがあった。お客様役の試験官に対して、営業としてニーズを拾い、適切な商品を提案してクロージングする。一連の流れをロールプレイングで実演し、試験官の採点を受けて合格を勝ち取らないといけなかった。
テスト前の週末、練習をしようと5~6人でカラオケに集まった。あの日ことは、今でも忘れられない。
「私、飲み物取ってくるよ」
「サンキュー。俺コーラね」
「烏龍茶お願い」
全員で一巡、練習を終えたところで、トレーを手に取り席を立った。ドアから出ようとしたら、田牧君が「俺も行くよ」とついてきたのだ。
「こっち俺やるから、鳩ちゃんトイレ行ってきたら」
「え?大丈夫だよ」
特に催してはいなかったし、これくらい一人でできる。不思議に思って断ったが、「いいから」とグラスの載ったトレーを奪われてしまった。
「それと、これ使って」
代わりに手渡されたのは、黒のジップアップパーカー。
「え、ホント何?」
意味がわからなくてポカンとしていたら、田牧君はさっさとドリンクコーナーに行ってしまった。
仕方なく、言われたとおりにお手洗いに向かう。個室に入り、ようやく彼の言っていることがわかったのだ。
「嘘、まだ先のはずじゃ……」
経血が滲む下着。汚れはデニムにまで染みていた。
備え付けのナプキンを一つ拝借し、トイレットペーパーで汚れを叩く。こんなんじゃ落ちてくれない。なんで。なんで。
借りたパーカーを腰に巻いて、荷物を取りにカラオケの部屋に戻る。
「ごめん、帰る!」
財布から2000円抜き取ってテーブルに置き、誰の顔も見ずに店を出た。
今思えば、田牧君がいち早く気づいて教えてくれて、助かったのに。その時は、男の子に見られた恥ずかしさで、あの日のことなんてなかったことにしたくて。
私は、田牧君を避けるようになった。
田牧君には、失礼なことばかりしていた。
最初は、入社式の翌朝。研修で同じ班になった彼に「初めまして」と挨拶したら、
「あれ?俺のこと覚えてない?」
と笑われた。初日の歓迎会で散々絡んだ相手だった。
「鳩ちゃん、もしかしてお酒入ると記憶なくなるタイプ?」
「ち、違うよ!昨日は眼鏡かけてなかったよね!?」
「ああ、うん。今日だけ眼鏡」
仇名で呼ばれて記憶が蘇ったのだ。同じテーブルにいた面々にだけ、学生時代の仇名を伝えていたから。
そこから仲よくなった。全体研修が終わって同じ班ではなくなり、営業職だけの研修になってからも、何かと近くにいることが多かった。
営業だけで数十人いた同期入社だが、ほぼ男性で占められ、女子は3人しかいなかった。田牧君はサイズ感も女子とそう変わらなくて、なんとなく他の同期男子よりもとっつきやすかったのだと思う。
営業研修では、最後の方でロープレテストがあった。お客様役の試験官に対して、営業としてニーズを拾い、適切な商品を提案してクロージングする。一連の流れをロールプレイングで実演し、試験官の採点を受けて合格を勝ち取らないといけなかった。
テスト前の週末、練習をしようと5~6人でカラオケに集まった。あの日ことは、今でも忘れられない。
「私、飲み物取ってくるよ」
「サンキュー。俺コーラね」
「烏龍茶お願い」
全員で一巡、練習を終えたところで、トレーを手に取り席を立った。ドアから出ようとしたら、田牧君が「俺も行くよ」とついてきたのだ。
「こっち俺やるから、鳩ちゃんトイレ行ってきたら」
「え?大丈夫だよ」
特に催してはいなかったし、これくらい一人でできる。不思議に思って断ったが、「いいから」とグラスの載ったトレーを奪われてしまった。
「それと、これ使って」
代わりに手渡されたのは、黒のジップアップパーカー。
「え、ホント何?」
意味がわからなくてポカンとしていたら、田牧君はさっさとドリンクコーナーに行ってしまった。
仕方なく、言われたとおりにお手洗いに向かう。個室に入り、ようやく彼の言っていることがわかったのだ。
「嘘、まだ先のはずじゃ……」
経血が滲む下着。汚れはデニムにまで染みていた。
備え付けのナプキンを一つ拝借し、トイレットペーパーで汚れを叩く。こんなんじゃ落ちてくれない。なんで。なんで。
借りたパーカーを腰に巻いて、荷物を取りにカラオケの部屋に戻る。
「ごめん、帰る!」
財布から2000円抜き取ってテーブルに置き、誰の顔も見ずに店を出た。
今思えば、田牧君がいち早く気づいて教えてくれて、助かったのに。その時は、男の子に見られた恥ずかしさで、あの日のことなんてなかったことにしたくて。
私は、田牧君を避けるようになった。
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