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「あと、もう一個気になったんだけど」

 俺の前ではいつも通り機嫌よく過ごしている風だったが、おふとんさんのメンタルの落ち方と目の前の姿が重ならない。

「もしかしてリン、今辛いの隠してる?」

 また動きが止まる。

「この包帯、アイツにやられて怪我したんじゃないかって思ってたけど」

 リンの左腕を取り、包帯を外す。リンは黙ってされるがままになっている。

 露わになった腕には、新しい赤線がいくつも増えていた。
 ………やっぱり。
 おふとんさんの『またやってしまった』はなんとなく自傷行為だろうと思って見ていたが、その通りだった。

「リンが自分を責めることないよ」
「でも……」

 本当に胸の内があのおふとんさんの発言どおりなら、俺が怪我したことにひどく罪の意識を感じているのだろうと分かる。
 そして、今は看病のために一緒にいてくれているが、治ったらリンはどこかへ消えてしまうんじゃないか。そんな風に思った。

「リン、俺さ、今働けてないけど、リンが頑張ってバイトしてくれて、いろいろ身の回りの世話もしてくれて、そういうのすごく助かってる」

 俺は地元には極力帰りたくない。あの街には嫌な思い出があるから。
 一人暮らしだったら、療養どころではなく、実家にいやでも戻る羽目になっていただろう。

「リンは俺のこと巻き込んだって思ってるかもしれないけど、違うよ」
「……え………?」
「最初に声かけたの、俺だもん」

 そう、あの時、静かに涙を流す美しい横顔に、俺はすっかり虜だったんだ。

「すごい美人がいるなって思った。あの時からもう俺、リンのこと好きだったよ」
「………!」 

 急に動くと傷が痛むから、ゆっくりとリンを抱き寄せる。

「っていうか、おふとんさんにもいつも救われてた。すげー分かるって呟き多いし、病みツイートにもいいねくれるし」
「……オレも。サカナさん、連投しても1個ずつ全部いいねくれるし、いい人だなって思って元気もらってたよ」
「サカナじゃなくて氷魚だって。……イテテ」
「氷魚。大丈夫?」

 傷口のあたりにそっと手を当ててくれる。幾分痛みが和らぐ気がした。

「こんなとこまでついてきてくれてありがとう。東京に帰さなくて本当によかった」
「そんなの……だって………」
「もうどこにも行かないで。リンがここ以上に居心地いいところ見つけたら、その時は諦めるけど」

 リンの宝石みたいな目から、ボロボロと大粒の涙が溢れる。

「オレ……オレ、ここがいい……っ!」

 笑っている方がいいと思ったが、辛さを隠して無理に笑うより俺の前で泣いてくれた方がずっといい。
 ぎゅっと抱きつかれて、さすがに腹の痛みが限界だ。

「あっごめん!!」
「あ~、痛いな~」
「ごめん、氷魚、傷口開いた……?」

 オロオロしているリンが可愛い。いじめすぎたか。

「俺のこと、世界で1番愛してくれてる人のチューがないと治らないかもな~」
「えっ、何それ、オレ?」
「さあ?」

 リンの綺麗な顔が近づいてくる。俺はそっと目を閉じた。


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