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 朝、リンは拍子抜けするほどあっさりと、俺と一緒に家を出た。

「交通費はあるんだな?」
「んー、大丈夫」
「よし。じゃあな」
「はーい」

 子どもみたいな返事をして別れた。

 ……はずだった。



 仕事から帰ると、アパートの部屋の前にちょこんと座り込んでいる影。

「はぁ~~~………」
「あ、あっくんおかえりー」

 悪びれもせずに笑顔で手を振っている。

「おい、帰るって言ったろ!?」
「朝、一緒に出るとは言った」

 …………たしかに、思い返してみれば、東京に帰るとは一言も言っていない。
 交通費があるかは確認したが、それを使って帰るとは言ってないんだよな………。

「今日は入れないぞ」
「えーっ」

 まだ19時。今日のうちに東京に帰れる時間だ。心を鬼にして帰宅を促す。

「ちぇっ。あっくんのケチ」
「ケチで結構」
「分かった。じゃあ、テキトーなおっさん引っ掛けて泊めてもらうから」

 くるりと踵を返し立ち去ろうとする背中を思わず呼び止める。

「なんだよそれ!おっさん!?」

 昨日のやたら慣れた体を思い出す。

「そうだよ。東京に戻っても、おっさんのところに戻るだけ」
「ちょ……っと、待てよ。どういうことだ?」

 自分の家は?まさか、実の父親……?

「そのまんまの意味だよ。固定のおっさんのところに戻るか、こっちで別のおっさん捕まえるかの二択」
「……んだよそれ…………」
「もういい?あっくん泊めてくれないんでしょ。バイバイ」

 あっさり背中を向けられるが、さすがに聞き捨てならない。
 パシ、と手を掴み、部屋に招き入れる。

「何?あっくん、泊めてくれるの?」

 さっきの冷たい態度は演技だったのかと思うほどいい笑顔のリンに、やられた、と思うがもう遅い。

「と、にかく……話だけ、聞くから」
「わーい!」

 早技で部屋に上がり、ベッドにダイブする。子どもか。
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