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「リン、明日こそ帰れよ?俺仕事だからな」

 土曜の深夜に一緒に帰宅したリンは、結局居座り続け、今はもう日曜の22時。少なくとも鈍行ではもう東京に帰れない。
 放り出すわけにもいかず、もう一晩だけ泊めることにした。

「あっくん仕事何してるの」
「理学療法士」
「何それ。魔法使い?」

 んなわけないだろ。一緒に過ごしていて分かったが、リンが疎いのは地理だけじゃなかった。

「リハビリする人。病院で働いてんの」
「へぇ!かっこいいね!」
「そうかぁ?」

 大体、分かって言ってるんだろうか。怪しい。

 リンについて分かったこと。
 頭はあまりよくない。
 常識が通じない。
 はぐらかすのが上手い。テキトーに相槌打つのも。
 そして、腕に無数の傷がある。

 いわゆるアームカットの痕跡だ。気づいてすぐ、ペン立てに無造作に突っ込んであったカッターを机の奥深くにしまい込んだ。
 手首から肘の関節まではびっしり。二の腕にまで数本の傷跡が残っていた。
 幾重にも重なるようにして刻み込まれたそれは、彼の心の傷の一部を表出させたものなんだろう。
 にこにこと人懐こい笑顔の裏に、どれだけの闇を隠しているのか。

「とにかく、明日は朝から仕事だから。この部屋から追い出すからな」
「え~」
「えーじゃない!」

 本当に27歳なのか疑わしい。子どもみたいな人だ。

「大体、昨日床で寝たのが結構キてんだよ」

 昨夜は床で雑魚寝した。体がバキバキで全然休まらない。

「あっくんベッド使えばいいじゃん。オレこっちでいいし」
「いやそれはなぁ」

 一応、勝手についてきたとはいえ客人だからな。

「ふふ、あっくん優しいよね」

 気づけばすぐ隣に来て、恐ろしく美しい顔に悪戯っぽい微笑みをたたえている。
 本当、綺麗な顔だな。と、眺めていたら、首にするりと腕を回される。

「ねえ、あっくん?一緒にベッド行こうか」

 ーー………一緒に?

 
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