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【4】欲しいもの
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<鹿賀side>
たくさん愛情表現をしてやりたい。そのチャンスはすぐにやってきた。
「玄関と廊下の掃除ありがとうございます。休憩にしましょう」
「でもまだお風呂掃除と……」
「一回休んでからね」
背中を押して玄関から遠ざける。昨日は病院に出かけていたから掃除ができなかったと、今日は朝から張り切っていた。このままでは倒れてしまう。病気療養中だというのに、私の監督不行届きでそんなことになったら目も当てられない。
洗面所で手を洗ったところを捕まえてリビングに連れていく。
「ちょっと味見してみてください」
「ケーキですか?」
焼きたてのパウンドケーキをカットして皿に載せる。
「これ、優太君にいただいたドライフルーツを入れてみたんです」
「あ、バレンタインのときの」
「ええ」
一口食べ、笑顔になったのを見届けてから自分も口に運ぶ。うん、生地はシンプルだが果実の甘酸っぱさと食感が加わってなかなかだ。
「おいしいです」
「いろいろなフルーツが入って、贅沢な味わいになりましたね」
あっという間に彼の皿の上が空になる。
「もっと召し上がりますか?」
「いいんですか!?」
パアッと目を輝かせる。すっかり休憩モードに入ったようだ。
追加で切り分けると、それもすぐになくなってしまった。もっと食べたい、そんなオーラを感じる。
「残りはまた明日食べましょう。休ませると、味が馴染んでおいしくなりますからね」
ラップをぴっちりかけた塊を残念そうに見つめる。
「優太、おいで」
膝の上に来るように促すと、乗るのは抵抗があるのか、足の間にちょこんと腰掛けた。前に落ちないように、お腹に手を回す。
「僕の残りでよければ」
「え、でも、鹿賀さんの分……」
フォークで口元に持っていくと、遠慮してみせる。あんなにわかりやすく食べたがっていたのに、バレていないとでも思っているのだろうか。
「優太君に食べてほしいんです。さ、あーんして?」
「あ……」
優太君の餌付けも慣れたものだ。初回こそ動揺を隠せなかったが、もはや日常的なスキンシップになっている。
それに、こうやって体をくっつけるのが彼も好きなようだった。大体こちらからだが、優太君からもときどき甘えてくる。
「へへ。おいしい。ありがとうございます」
可愛い。ケーキではなく、優太のことを食べてしまいたい。
そんなやましい思いを気取られてしまっただろうか。
「鹿賀さんは、その……恋人っぽいこととか、したいことないんですか?」
「んー?僕は優太君とこうして一緒にいられれば十分ですよ」
心中の狼狽を隠して答える。だって、優太君はそんなこと望んでいないだろう?
「そう……ですか?」
「はい」
「……」
唇を尖らせて、不満げな顔をする。何か納得いかないようだ。
たくさん愛情表現をしてやりたい。そのチャンスはすぐにやってきた。
「玄関と廊下の掃除ありがとうございます。休憩にしましょう」
「でもまだお風呂掃除と……」
「一回休んでからね」
背中を押して玄関から遠ざける。昨日は病院に出かけていたから掃除ができなかったと、今日は朝から張り切っていた。このままでは倒れてしまう。病気療養中だというのに、私の監督不行届きでそんなことになったら目も当てられない。
洗面所で手を洗ったところを捕まえてリビングに連れていく。
「ちょっと味見してみてください」
「ケーキですか?」
焼きたてのパウンドケーキをカットして皿に載せる。
「これ、優太君にいただいたドライフルーツを入れてみたんです」
「あ、バレンタインのときの」
「ええ」
一口食べ、笑顔になったのを見届けてから自分も口に運ぶ。うん、生地はシンプルだが果実の甘酸っぱさと食感が加わってなかなかだ。
「おいしいです」
「いろいろなフルーツが入って、贅沢な味わいになりましたね」
あっという間に彼の皿の上が空になる。
「もっと召し上がりますか?」
「いいんですか!?」
パアッと目を輝かせる。すっかり休憩モードに入ったようだ。
追加で切り分けると、それもすぐになくなってしまった。もっと食べたい、そんなオーラを感じる。
「残りはまた明日食べましょう。休ませると、味が馴染んでおいしくなりますからね」
ラップをぴっちりかけた塊を残念そうに見つめる。
「優太、おいで」
膝の上に来るように促すと、乗るのは抵抗があるのか、足の間にちょこんと腰掛けた。前に落ちないように、お腹に手を回す。
「僕の残りでよければ」
「え、でも、鹿賀さんの分……」
フォークで口元に持っていくと、遠慮してみせる。あんなにわかりやすく食べたがっていたのに、バレていないとでも思っているのだろうか。
「優太君に食べてほしいんです。さ、あーんして?」
「あ……」
優太君の餌付けも慣れたものだ。初回こそ動揺を隠せなかったが、もはや日常的なスキンシップになっている。
それに、こうやって体をくっつけるのが彼も好きなようだった。大体こちらからだが、優太君からもときどき甘えてくる。
「へへ。おいしい。ありがとうございます」
可愛い。ケーキではなく、優太のことを食べてしまいたい。
そんなやましい思いを気取られてしまっただろうか。
「鹿賀さんは、その……恋人っぽいこととか、したいことないんですか?」
「んー?僕は優太君とこうして一緒にいられれば十分ですよ」
心中の狼狽を隠して答える。だって、優太君はそんなこと望んでいないだろう?
「そう……ですか?」
「はい」
「……」
唇を尖らせて、不満げな顔をする。何か納得いかないようだ。
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