ひとりで生きたいわけじゃない

クリスマス番外

9:貴矢side

　これはただの沈黙じゃない。電話の向こうで、潤が言葉を詰まらせているのが分かる。
　最初は体調不良から精神的にも弱っているのかと思っていたが、この様子は何かあったのだろう。しばらく会っていない間に、何か嫌な思いをすることがあったのかもしれない。
　だからと言って、こちらがピリピリしていたら潤だって余計に話しにくくなるよな。心配で問いただしたくなる気持ちをグッと堪え、ソファの背もたれに体重を預けた。

「言いたいことじゃなくてもいいよ。こんなことがあったよって話でも、気になってることでも。潤が考えてること、俺にも教えて」

　付き合い始めて少しずつ心を開いてくれるようになったと思っていたが、俺の自惚れだっただろうか。投げかけてみるが、潤は黙ったままだ。
　潤がこうなるのは……親御さんのことか？

「……年末年始は帰省するの？」
「え？」
「違ったらごめんね。時期的に、ご家族とも何か連絡取っているのかなと思って」

　潤は親御さんとの折り合いがあまりよくない。生まれてきたくなかったと思うようになったのも、親御さんとの関係が大きく影響しているようだった。

「ひとりで帰るのが憂鬱だったら、俺が送っていこうか。それとも、群馬に帰らないで一緒に過ごす？」
「……だって、貴矢さんは？お正月……」
「潤のことより大事な予定なんてないよ」

　実家もいつでも帰れる距離だし、別に帰っても帰らなくてもよい。俺ができることで潤が少しでも心穏やかに過ごせるなら、喜んで俺の時間を差し出そう。

「貴矢さん」
「ん、どうした？」
「………会いたい……」

　震える声。絞り出すような切ない声で潤が俺を呼ぶ。