ひとりで生きたいわけじゃない

【7】温泉旅館

7-7:城崎side

　何か気に障ることでもあっただろうか。ついさっきまで上機嫌だったのが、急に泣き出してしまった。原因は分からないが、なんとなく、これが本当の潤君なんじゃないかという気がしてくる。

「俺は、潤君のこといらなくならないよ」

　こんなこと、いくら口で言っても意味ないのかもしれないけど。
　案の定、俺の胸にぐりぐりと頭を押し付けてくる。これは、ノーの合図。

「……誰が、潤君のこといらないって言ったの？」

　触れていいところなのか分からない。踏み込みすぎたかもしれない。
　答えたくないよな。そう思ったが、沈黙の後で潤君が絞り出すように答えてくれた。

「………………み、んな」
「みんな？」

　訊き返すと、僅かに頷く。

「みんなって、誰？」

　問いかけるが、響くのは嗚咽ばかり。
　違うかもしれないが。ずっと気になっていたことを訊いてみる。

「もしかして、……親御さん？」

　胸に縋り付いていた潤君が、俺の背中に腕を回してぎゅうっと抱きついてくる。これは、肯定だろうか。

「親御さんに、何か言われたの？」

　もう一度、ぎゅうっと締め付けられる。どうやら間違いないようだ。

「そっか。じゃあ、俺が潤君のこともらっちゃおうかな」

　冗談めかして言ってみる。笑ってくれるか、またぐりぐりと否定されるかのどちらかかと思ったが、潤君は意外にもぎゅうっと強く抱きしめてきた。

　ーー………ん？

　俺の勘違いでなければ、ぎゅっと抱きしめてくるのはイエスの合図だ。

「潤君？……俺がもらってもいいの？」

　潤君はたしかに、俺の体を締め付けてきた。