ひとりで生きたいわけじゃない

【4】旅行の余韻

4-9:渡辺side

　直居はものすごく人当たりいいし、誰とも人見知りせず明るく接するので知り合いは多い。だが、一定以上人を寄せ付けない。踏み込ませない、と言うべきか。
　大学でも、他の学生と一緒に講義を受けている姿は見るが、固定の誰かとツルむことはしない。サークルにも入っていないらしい。その場その場で居合わせた人と過ごしているから浮いてはいないが、羊の顔をした一匹狼、という表現がぴったりだろう。

　だから、興味を惹かれた。どんな人間だろうと。
　自分のテリトリーに踏み込ませはしないが、一緒に過ごす分には拒むことはしない。とにかく接点を取り続け、その場限りの人間関係から一歩抜け出すことを目指した。その結果、おそらくこの大学で最も仲のよい友人、という立場をゲットした。

　それが、だ。キノサキさんの登場により、あっという間に直居は変わった。どんな距離の詰め方をしたら、直居とこんなにすぐに仲良くなれるのか。不思議だった。

　別に、直居に恋愛感情を抱いていたわけではない。ただ、自分がようやく手に入れたものをあっさり取られ、キノサキさんに対して複雑な気持ちにはなる。
　直居は否定しているが、キノサキさんは明らかに直居に惚れているし、直居もまんざらではないように見える。その二人が泊まりで旅行に行って、何もないなんてあるだろうか。

「同じ部屋で寝たんだろ」
「あ、うん。寝室が二つあるお部屋だったんだけどね」
「え、すご」
「でも結局初日だけで、あとは一緒のベッドで寝てた」

　は？

「同じベッドで寝たのか？」
「あ、えっと、あれだよ？大きいベッドだったんだよ」
「何だよ、ちゃんと進展してるじゃん」
「え、ねえ、進展って？」

　コイツ成人男子だよな？言わなきゃ分かんねえ？

「ベッドで泣かされたんじゃないのか」
「え！なんで分かるの？」

　いや、反応がおかしい。

「……ああ、もう、ヤったんじゃないのかって聞いてんだよ」
「やっ……？あっ、えっ！？違う！」

　ようやく伝わった。ここまで言わなきゃ分からないのか。
　羊の顔した一匹狼じゃない。一匹狼風の羊だコイツ。

「ん？っていうか、泣いたのか？」
「あ……うん。嫌なことされたとかじゃなくてね」
「ふぅん？」

　この、自分のテリトリーに人を入れない直居が人前で泣く、だと？
　それこそ、想像つかなかった。キノサキさん、本当に何者なんだ。