ひとりで生きたいわけじゃない

【1】出会い

11:直居side

　いつものお客さんが来店したのはその2日後だった。

「いらっしゃいませ」
「先日はどうも。合説はどうだった？」
「あのときはありがとうございました！いろいろ話が聞けて面白かったです」
「そうか、よかった」

　やりたいことはまだ見つからないけど、まずは就活のスタートを切れたことで焦りは少し軽減された。

「たまたま同じ大学出身の人にも会って、名刺もらっちゃいました」
「へえ、ナオイ君、明都だっけ？」
「はい。あ、ブレンドで大丈夫ですか？」

　いつもの、ブレンドLだろうと思い確認する。

「ああ、ブレンド、Lでお願いします」
「かしこまりました」

　注文はいつもブレンドL。その後、スマートウォッチで支払うのがいつもの流れだ。でも今日はなぜかジャケットの内ポケットを探っている。
　あれ？現金払いかな？
　出てきたのはお金ではなく、名刺だった。

「俺のもあげる」

　え！弾かれたように手元から顔を上げる。

「名都卒じゃないけど、もらってくれる？」

　冗談っぽく笑って差し出される紙片を拒否する理由はなかった。
　そっと両手で受け取る。『城崎　貴矢』ーーキノサキさんっていうのか。

「あ……ありがとうございます」
「俺の頃と就活事情も変わってるだろうけど、それでもよければ力になるよ」

　こんな、いいんだろうか。三嶺に入れた人の就活術なんて、お金払ってでも知りたい人がたくさんいるだろうな。
　ぶんぶんと縦に首を振り、もう一度お礼を言うと、城崎さんも何だか嬉しそうだ。
　いい人だな……。