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 失敗したかもしれない。いや、普通に考えたら分かることだったのだが。

 時計の短針は10を指している。早めのランチ、ではない。今は夜だ。
 目の前に視線を戻す。油のたっぷり入った鍋に、シュワシュワと音を立てる肉の塊。

 ーー今から、これを食うのか……?

 泰歩の生活リズムをなぜか失念していた。いくら男子高生みたいな舌と胃袋をしていたって、この時間に揚げ物はないよな。
 自分の眉間に皺が寄っているのが分かる。もう泰歩が帰ってくる頃だ。別のものを作る時間はない。

「ただいま~。うわ、待って!」

 ドタドタ、と音を立てて泰歩がキッチンを覗きに来る。

「唐揚げ!?」
「……おかえり」

 勢いに圧倒される。泰歩は目を輝かせながら覗き込んできた。

「うまそ~!!」

 そ、そんなにか?

「食えるか?」
「食べたいです!手洗ってきます!」

 よかった。杞憂だったようだ。26歳の胃袋恐るべし。

 しっかりと二度揚げした唐揚げを大きめの皿に盛る。今日は味噌汁ではなく中華風のスープにした。泰歩は今日もご飯をこんもりとよそっている。

「冷蔵庫にサラダがあるから」
「はい!」

 これは、想像上の巨乳女子に勝ったのではないだろうか。まるで1日何も食べていなかったかのように、泰歩は次々と唐揚げを腹に収めていく。

「京さん?食べないんですか?」

 泰歩の食いっぷりに見惚れて箸が止まっていた。

「いや。うまいか?」
「はい!めちゃくちゃうまいです!」

 そうか。今まで俺の好みに付き合わせすぎたかもしれない。
 味見も兼ねて2個食べたが、これ以上はきつい。冷蔵庫から豆腐の小パックを取り出し、箸で崩してご飯の上に乗せる。醤油を垂らして豆腐丼にした。
 泰歩の心配そうな視線。

「作っておいて悪いな。残ったら弁当に入れるから、無理するな」
「京さん……これ、俺のために?」
「俺が作りたかっただけだ」

 こんなに嬉しそうに食べてくれる姿が見られて、満足だ。ふ、と笑うと、泰歩も笑ってくれた。
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