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 俺の好きな、泰歩の逞しい腕。
 意識してしまうと、駄目だ。泰歩はそんなつもりじゃないのに。

「好きです、柳井さん。好き……」

 頭に吐息がかかる。
 さっきまでのざわついた気持ちとは別の意味で心に波が立っている。これ以上密着されたら困る。

 ーー泰歩、離して……。

「寝ないと明日置いていくぞ」

 そう脅すと、おとなしくベッドに戻っていった。

 去り際、ギュッと抱擁された感触が残って、まだドキドキしている。星の話でもして思考を断ち切りたいが、頭の中が泰歩でいっぱいでどうしようもない。
 さっき、泰歩からキスされたとき。急にのしかかられて、心臓止まるかと思ったな。普段の人懐こい雰囲気と違って、少し強引なところも、ものすごく格好よかった。
 泰歩の言動を脳内で何度もリピート再生してしまう。学生の初恋じゃないんだから。落ち着け。

「秋の星座の解説でいいか」

 それなら、頭の中が別のことでいっぱいになっていても話せる。泰歩に俺の様子がおかしいこともバレないだろう。

「いいんですか?お願いします!」

 いいも何も、半分以上自分のためだ。

「聞き飽きたと思うけど」
「全然!嬉しいです」

 ……泰歩、お前は本当にいいやつだな。こんなひねくれ者の俺にはもったいないくらい。

 解説を始めて早々に、規則的な寝息が聞こえてきた。
 だが今日は、俺の方が寝られそうにない。泰歩と両思いになれたんだ。先ほどのキスとハグだけでなく、これまで一緒に過ごしてきた記憶がぐるぐると頭の中を巡る。

 起きたら、俺たちはもう恋人同士だ。好きすぎて、どんな顔をしたらいいか分からない。表情に出ないこの体質のおかげで、俺が心配するほど向こうには何とも思われないだろうけど。
 泰歩も疲れが溜まっているだろうし、明日の朝はゆっくり過ごそう。枕元のスマホを手に取り、アラームをオフにした。
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