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 そうしてしばらく空を眺めていた。今、なかなかいいムードなんじゃないだろうか。
 ちらりと横目で泰歩の顔を盗み見る。穏やかな笑みをたたえた横顔。
 思い切って、俺から投げかけてみる。

「泰歩、俺に言いたいことないか」

 言うなら今だぞ。
 昨夜から2回も不発で終わっているが、告白するのにこんな絶好のシチュエーションないだろう。三度目の正直だ。

 泰歩は考える素振りをした後に、

「今日連れてきてくれて、ありがとうございます」

と返してくる。
 そうだな、こういう小さいことでもいちいち礼を言ってくれるのが泰歩のいいところだ。

 ……で?

「それだけ?」

 こんな分かりやすいパスを出したのに、まさか無視しないよな。車の中でよぎった不安がじわじわと胸の内を黒くしていく。

「え、……あー、今日だけじゃなくて、いつもありがとうございます」

 あ、これ、ナシだ。分かった。
 泰歩は俺と一緒にいたいとは思ってくれているようだが、俺のことをそういう意味で好きなわけじゃないんだな。
 俺がどんな言葉を期待しているか、まったく見当もついていないようだった。そうだよな。全部俺の勘違いだったわけか。

「ふーん。……まあいいや」

 本当は、全然よくない。いい歳して情けないが、ちょっと泣きそうだ。
 空を見上げる。

「星、綺麗だな」

 辛いことがあったとき、いつも俺を助けてくれたのは星空だ。俺の悩みなんてちっぽけで、星の長い歴史や宇宙の広さに比べたら、取るに足らないこと。
 俺が死んだら土に還って、地球の寿命とともに宇宙に放出され塵になる。大きな循環の中の、1個体に過ぎない。苦しいことも、恥ずかしいことも、いつか全部宇宙に還っていく。誰も俺のことなんて気にしていないさ。

 泰歩、お前だけは違うと思っていたんだけどな。俺にとってお前は特別な存在で、同じように泰歩にとっての俺が特別だったらいいと願ってしまった。

 だけど。引っ越していいと言ってくれたのは、信じていいんだよな。
 どういうつもりで言ってくれたのかもはや分からなくなってしまったが、俺の拠り所はその言葉だけだ。
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