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 帰宅すると、バターのふわっとした香り。

「お帰りなさい!シチュー作ってみました」

 なんと、こんなに早く泰歩の手料理が食べられるとは。素直に嬉しい。

「やるじゃん」

……なんて、兄貴風を吹かせてみるが、心の中では万歳している。
 シチューか。肌寒くなってきたし、いいチョイスだ。市販のルーを使ったようだし、失敗のしようもない。

 と、思っていたのだが。
 なんだか少し水っぽい。そして粉っぽい。食べられないほどではないが、ホワイトソースから作ったわけでもないのにこんな風になるものだろうか。

「おいしいですか?」

 キラキラした目で問われ、せっかく料理に挑戦してくれた彼の気持ちを折りたくなかった。

「……まあまあ」

 おいしいとは言ってやれなかったが、泰歩は嬉しそうにしている。まあいいか。

「今日、最後まで起きて観られましたよ!」

 プラネタリウムのことだ。まるで夜更かし自慢をする子どもみたいなことを言う。

「それが普通だから」

 普段のお前の利用方法が間違っているんだよ。おかしいやつだな。

「うっ……でも、最近夜寝られてるおかげです。ありがとうございます」

 それはよかった。どういたしまして。
 まあ、それも全部泰歩が俺をここに置いてくれているからなんだけど。

「あと……やっぱり柳井さんの解説好きです」

 はにかんだ笑顔。そんな顔で好きだなんて言われたら、脳内で都合よく解釈してしまいそうだ。
 眠れるようになったら俺は用済みなんだろうなとどこかで思っていたが、起きて聞いていてくれても需要はあるようでほっとする。そしてやはり寝る目的だけでなく、星に興味を持ってくれているということだろう。

 そう思って、天体観測に誘ってみる。来週の木曜がちょうど中秋の名月だ。

「いいんですか!行きたいです!」

 全身から喜びオーラを放つ泰歩。よかった。やっぱり興味があるんだ。
 だが、次の一言でズッコケることになる。

「その日何かあるんですか?」

 ……いや、これ、絶対興味ないだろ。なんで行きたいなんて言ったんだ。
 今日の解説でも言ったし、ニュースや天気予報でも耳に入らないのだろうか。興味があれば情報は自然と入ってくるものだろう。
 俺に合わせてくれていただけか。興味ないなら無理についてこなくていい、そう言いかけたところで、

「あっ!お月見?」

 思い至ったらしい。
 正解したことに喜んでいる。これは……演技ではない、よな?

「どこに観に行くんですか?」

 ワクワクと訊いてくる姿を見て、ようやく納得する。単にど忘れしていただけで、優しさから合わせてくれているわけではないようだ。
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