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 爽やかな目覚めだ。懐かしい夢を見た気がする。

 朝食を作ろうと支度をしていたところに、いつもより早く泰歩が起きてきた。今日は休みなのだから、もっとゆっくり寝ていてくれてよいのだが。

「朝飯いる?」
「いります!というか、手伝います」

 手伝ってもらうほどのことはないのだが、せっかくなのでお願いする。

「冷凍庫から油揚げ出して」
「油揚げって冷凍できるんですね!」

 いつの間に料理に関心を持ち始めたのだろうか。

「柳井さん、今度料理教えてくださいよ」
「うん」
「やった!」

 そんなに料理がしたかったのか。見るからに嬉しそうにしている。
 料理を覚えてくれるなら、俺としても大歓迎だ。泰歩の手料理が食べられる日も近いらしい。

「そのネギもこっち入れて」
「はい」

 まな板からネギを両手に取って、味噌汁の鍋に持ってきてくれた、のは、いいのだが。

 ーー近い……!

 湯がはねるのが怖いのか、思った以上に近づいてくる。お前の長い腕があればこんなに寄る必要ないだろう!
 ドキドキして横を向けない。きっと右を向いたら、顔がすぐ側にあるはずだ。

「これでいいですか?」
「あ、ああ……」

 息を詰めて固まってしまっていたが、明らかに他意のない泰歩の声で現実に引き戻される。
 こんな調子で料理を教えるなんてできるのだろうか。俺の心臓がもたない。


 出勤してからも、朝のドキドキを引きずってしまっていた。
 学生の頃は、似たような感情を抱いたこともあった。憧れの同級生が部活に励む様子をこっそり覗いたり、思いがけず同じ班になって緊張したり。俺にもそんな甘酸っぱい思い出がある。
 大人になってからは、ゲイ同士、最初からそのつもりでの出会いばかりになった。誰かのことで頭がいっぱいになるなんて、もうないと思っていた。

 持ち場の掃除に、事務作業。プラネタリウムの上映や解説以外にも、地味な仕事がたくさんある。頭を使う仕事ではなく、いわゆる雑務だ。仕事というより作業に近い。そして、こういうことをしていると、ついつい余計なことを考えてしまうのがよくない。

 生解説の時間。動作テストをしてから入場を開始する。土日は子連れやカップルが多い。その中に、私服の泰歩を見つけた。女性の一人客は結構いるが、男性は少ないからすぐに分かった。
 泰歩が来ている。何度も経験していることだが、あらためて意識すると緊張してきた。

「柳井さん?怖い顔してどうしました?」

 同僚に心配されてしまった。言われてから、眉間に皺が寄っていたことに気づく。

 ーー言えない。今日ここに俺の好きな人が来てるんですなんて言えるわけない……。

「問題ありません」
「そうですか?」

 何年やっているんだ。私情を挟むな俺。
 深呼吸を一つしてから、マイクのスイッチを入れた。
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