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「柳井さん。他にも何か不便感じてることありますか?」
不便?こんな職場に近い家に住まわせてもらって、住環境も整っていて、そんなものあるはずないのに。ほとんど初対面の俺を拾ってもらって、感謝しかない。これ以上何を望むというのだろうか。
「いや、ない」
「よかったです。何かあったら教えてください」
どこまでもお人好し。
「あ、お弁当おいしかったです」
そして、育ちがいい。夕飯を作ったことや家事の一つひとつにわざわざお礼を言ってくれる。それだけでなく、『おいしかった』と感想まで添えてくれる。母親とも昔こんなやりとりをしたんだろうか。俺みたいにひねくれた息子と違って、こんな真っ直ぐに育ったら親も鼻が高いだろうな。
味噌汁を火にかけ、漬け込んでおいた豚肉を仕上げに焼いていく。生姜焼きと言っても分厚いソテー用の切り身ではなく、安い切り落とし肉だ。すぐに火が通る。
ジャケットを脱いでネクタイを外した泰歩がキッチンを覗きに来た。
「うわ、生姜焼きですか!?」
「うん」
「大好きです!」
それはよかった。
「ご飯炊けてるから」
「分かりました。よそいますね」
大盛りにしちゃおう、と嬉しそうにしている。本当に好きなんだな。
その後、食卓でもしきりにおいしいおいしいと感激していた。生姜焼きなんて誰が作ってもうまいと思うが。
「泰歩は好き嫌いないの?」
「あー、何でも食べられますけど、椎茸がちょっとだけ苦手です」
「うまいのに」
「他のキノコは大丈夫なんですけどね。椎茸は強いんですよ、風味が……」
覚えておこう。椎茸はなるべく使わない。
「他は?」
「他は全然ないです。柳井さんは?」
「普段食べるものは何でも」
そのとき安い食材を買って調理するから、大体何でも食べる。
「普段食べないもので何かあるんですか?」
「パクチー」
「あ、それは俺もダメです」
他愛もない話をしながら、泰歩と囲む食卓は楽しかった。もう長いこと一人暮らしをしているから、何かのイベントでもない限り黙々と食事をとる生活だ。
俺と話しても泰歩は楽しくないだろうが、彼は話を拾うのも広げるのも上手で、とても心地よい。
不便?こんな職場に近い家に住まわせてもらって、住環境も整っていて、そんなものあるはずないのに。ほとんど初対面の俺を拾ってもらって、感謝しかない。これ以上何を望むというのだろうか。
「いや、ない」
「よかったです。何かあったら教えてください」
どこまでもお人好し。
「あ、お弁当おいしかったです」
そして、育ちがいい。夕飯を作ったことや家事の一つひとつにわざわざお礼を言ってくれる。それだけでなく、『おいしかった』と感想まで添えてくれる。母親とも昔こんなやりとりをしたんだろうか。俺みたいにひねくれた息子と違って、こんな真っ直ぐに育ったら親も鼻が高いだろうな。
味噌汁を火にかけ、漬け込んでおいた豚肉を仕上げに焼いていく。生姜焼きと言っても分厚いソテー用の切り身ではなく、安い切り落とし肉だ。すぐに火が通る。
ジャケットを脱いでネクタイを外した泰歩がキッチンを覗きに来た。
「うわ、生姜焼きですか!?」
「うん」
「大好きです!」
それはよかった。
「ご飯炊けてるから」
「分かりました。よそいますね」
大盛りにしちゃおう、と嬉しそうにしている。本当に好きなんだな。
その後、食卓でもしきりにおいしいおいしいと感激していた。生姜焼きなんて誰が作ってもうまいと思うが。
「泰歩は好き嫌いないの?」
「あー、何でも食べられますけど、椎茸がちょっとだけ苦手です」
「うまいのに」
「他のキノコは大丈夫なんですけどね。椎茸は強いんですよ、風味が……」
覚えておこう。椎茸はなるべく使わない。
「他は?」
「他は全然ないです。柳井さんは?」
「普段食べるものは何でも」
そのとき安い食材を買って調理するから、大体何でも食べる。
「普段食べないもので何かあるんですか?」
「パクチー」
「あ、それは俺もダメです」
他愛もない話をしながら、泰歩と囲む食卓は楽しかった。もう長いこと一人暮らしをしているから、何かのイベントでもない限り黙々と食事をとる生活だ。
俺と話しても泰歩は楽しくないだろうが、彼は話を拾うのも広げるのも上手で、とても心地よい。
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