思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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<勇至side>

 り花が持っていたプリントに、見覚えのある手書き文字を見つけた。

 「さ」の2画目がほぼ縦線で、「土」のように見える癖。
 重要なポイントに付けるマークの星は、扁平なヒトデみたいな形なのも変わっていない。

 間違いない。これは成田の字だ。

「成田、塾で先生やってんの!?」
「う、うん。知り合い?」
「チョコの人!!」

 先ほどまでタイムリーにも話していた相手のことである。

「え!?チョコの人、成田先生なの!?」

 り花には名前を伝えていなかったから、こうなるのも当然だ。俺に負けないくらいの大声を上げる。

 2階の自室についてくるよう促して、机の中から件の手紙を取り出した。

「ホントだ、同じ字……」
「だろ?」

 まさか、こんな近くにいたなんて。

「成田、元気にしてるか?って、俺も今日会ったんだった」
「うん。たまに疲れて顔死んでるけど」
「あいつ教えるの上手いだろ。頭よかったもんな」

 高校のランクからして、成田の方が上だった。首都圏の国公立大は俺にはハードルが高すぎて、なんとか自分の偏差値でも狙える地方に進学した。
 合格発表から慌てて学生アパートを探して契約し、引越しの準備をしていたら、4月まであっという間だった。チョコの主からのコンタクトもなく、皆で遊ぶ予定も流れてしまって、成田に真相を確かめる機会のないまま疎遠になってしまったのである。

「そういや、普段の成田は男!?女!?」
「男。女装してるのも見たことないよ」
「よかった~……」

 少なくとも性転換したわけではないようだ。

「よかったの?兄貴的には女の子になってた方がいろいろ都合がいいんじゃないの?」
「ああ、そっか。そうだな」

 女の子なら違和感なく付き合ったり結婚したりできるんだろう。
 すっかり嫌われてしまった俺には、成田がもし女性になっていたとしてもそんな未来は訪れないだろうけど。

「それより、あいつがそのことで苦しんでなかったってことだろ。性転換ってなんか大変らしいじゃんか」
「兄貴ってさ、ホント惜しいよね」
「どういう意味だよ」

 哀れみの目を向けられ、またマズイことを言ってしまったのかと不安になる。

「成田先生かあ。いいと思うけどなあ」
「いいヤツだよ」
「そうじゃなくて。兄貴と成田先生。先生繊細そうだから、真逆のバカ兄ィみたいな人、意外と合うと思うんだよね」
「なあ、さっきから俺のこと貶したいだけじゃない?」
「さあ?」

 とぼけた表情で首を傾げる。性格悪いなコイツ。
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