あなたはミラ

秋野小窓

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エピローグ

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 京さんが引っ越してきてから、俺の家には本が増えた。星に関する本。難しいのも多いが、とっつきにくいものばかりではない。自由に読んでいいと言われて、ときどき借りて読んでいる。少しでも京さんに近づきたいのもあったが、寝る前の話に出てきて興味を持ったことを調べられるのが単純に楽しい。

「ふふ、何これ」

 ファンシーな背表紙の小さい本を見つけた。

 星言葉……?へえ、花言葉みたいに、星にも星言葉があるのか。
 京さんがこれを読んでいる姿を想像して吹き出す。なんでこんな本持ってるんだろう。

 誕生日ごとに充てがわれた星に、それぞれ意味があるらしい。俺の誕生日は……あった。

「シェダル?」

 カシオペヤ座の星のようだ。星言葉は「素直な情熱と正直さ」。なんとなくしっくりくるような、そうでないような。

 京さんの誕生日は知らないが、ミラは見つけた。

 ーーこれ……。

「何見てるの」
「京さんはやっぱりミラだなあと思って」
「ミラ?」

 そこに書いてあったのは、「安定感ある穏やかさ」。彼の声そのものだ。

「穏やか……全然俺じゃないじゃないか」
「そんなことないですよ。京さんのイメージぴったりです」
「泰歩。眼科行ってこい」

 いや、行くとしても目じゃないでしょ絶対。そして京さんの自己評価は穏やかではないんだな。
 彼の目には俺はどう映っているんだろう。

「京さんは俺のことどう思いますか?」

 気になって、どストレートに質問してみる。

「………」

 沈黙。今日のシンキングタイムは妙に長い。

「京さん?」
「いや、何でもない」

 目の前でひらひらと手を振ってみると、ふいっと横を向いてしまう。

「何でもないって、答えは!?」
「知らない」
「え~!」

 残念ながら回答をもらうことはできなかった。深い関係になっても尚、野良猫のような人である。まだまだ表情が読めないことも多いが、ゆっくり歩いていけばよい。

「いつか教えてくださいね」

 愛おしい人をそっと抱きしめた。


●おしまい●


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最後までお読みいただきありがとうございました!

この後、柳井サイドのお話を別ブックにて連載始めます。
※作者の余計なこだわりで、章で分けるのではなく別作品として公開します(笑)。

このシーンの裏側で、柳井がどう行動していたのか?その胸中は?……という内容が気になる方は、ぜひそちらもお読みいただけたら幸いです。

→『眠れない彼と感情が表に出ない俺の話』
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