11 / 38
11
しおりを挟む
2LDKの1部屋に柳井さんの荷物を運び込む。ほとんど物置にしていたような部屋だ。
夕食は持ってきた食材で柳井さんが作ってくれた。調味料が全然ない、と怒られたが、あるものでなんとかしてくれたのだからすごい家事スキルである。レシピを見ないと何も作れない俺には真似できない芸当だ。
「ごちそうさまでした。洗い物するんで風呂でもどうぞ」
「俺がやる」
「え、でも、料理もしてくれたのに……」
テキパキとテーブルを片付けていく柳井さんに声をかけるが、
「居候させてもらうんだ。これくらいやる」
キッパリと突っぱねられてしまい、任せることにした。
「じゃあ、お願いしますね。布団出してきます」
しまっていた客用布団を引っ張り出す。急だったから干してもいない。乾燥機をかけるか。
「あー……」
その前に、場所の問題だ。この部屋には物が多すぎる。
「柳井さん、あの部屋に布団敷くの厳しいんで、寝る時だけこっちの部屋で一緒でもいいですか?」
「うん」
洗い物をしながら、こちらを見もせずに即答する。何でもいい、任せた、と言われたようだ。
俺のベッドの隣に布団を下ろし、乾燥機をセットする。
いつもこの部屋のデスクで勉強しているが、今日からはリビングのテーブルを使うか。
勉強道具一式を持ってリビングに戻ると、キッチンの片付けが終わったようだ。
「ありがとうございます」
「風呂、こっち?」
「そうです。タオル使ってください。洗濯物はこっちで」
風呂場の案内だけして、勉強に取り掛かる。いつもと環境が違うせいか、最初こそなかなか集中できなかったが、いつの間にか没頭していたらしい。
部屋着姿の柳井さんに覗きこまれてハッとした。
「勉強?」
「はい。税理士の資格の勉強です」
「えらい」
その一言に、パッと顔を上げる。初めて褒められた。
きょとんとした表情の柳井さんと目が合う。グレーの上下に肩からタオルを下げているラフな格好。いつものパリッとした黒シャツ姿とは異なり、どことなく纏う雰囲気も柔らかく感じられる。
「ロクに努力もしないでデカイ顔してる文系の奴らは嫌いだけど、ちゃんと勉強してる人は好きだよ」
あれ、本当にあの不機嫌な野良猫と同一人物だろうか。優しく微笑んでくれる彼の声は、解説のときの印象そのものだ。思わず胸が高鳴る。
「おっ……れも、風呂行ってきます……!」
勢いよく立ち上がり、その場から逃げるように脱衣所に滑り込んだ。
熱いシャワーを頭からかぶる。
ーーやばいやばいやばいやばい……!
俺は今日何をした?憧れの人とドライブして、部屋にお邪魔して、連れ帰ってきて、手料理まで振る舞ってもらった……?
そんなこと、あるか!?
ついこの間まで、挨拶すら交わせない関係だったのに。
『好きだよ』
ーーいや、違う、そうじゃない!そういう意味じゃない!
どんなに必死に否定しても、うるさいくらいの心臓の音は少しも収まる気配がない。
「俺……まさか…………まじかよ…………」
これから同じ部屋で寝起きするというのに、大丈夫なんだろうか。
夕食は持ってきた食材で柳井さんが作ってくれた。調味料が全然ない、と怒られたが、あるものでなんとかしてくれたのだからすごい家事スキルである。レシピを見ないと何も作れない俺には真似できない芸当だ。
「ごちそうさまでした。洗い物するんで風呂でもどうぞ」
「俺がやる」
「え、でも、料理もしてくれたのに……」
テキパキとテーブルを片付けていく柳井さんに声をかけるが、
「居候させてもらうんだ。これくらいやる」
キッパリと突っぱねられてしまい、任せることにした。
「じゃあ、お願いしますね。布団出してきます」
しまっていた客用布団を引っ張り出す。急だったから干してもいない。乾燥機をかけるか。
「あー……」
その前に、場所の問題だ。この部屋には物が多すぎる。
「柳井さん、あの部屋に布団敷くの厳しいんで、寝る時だけこっちの部屋で一緒でもいいですか?」
「うん」
洗い物をしながら、こちらを見もせずに即答する。何でもいい、任せた、と言われたようだ。
俺のベッドの隣に布団を下ろし、乾燥機をセットする。
いつもこの部屋のデスクで勉強しているが、今日からはリビングのテーブルを使うか。
勉強道具一式を持ってリビングに戻ると、キッチンの片付けが終わったようだ。
「ありがとうございます」
「風呂、こっち?」
「そうです。タオル使ってください。洗濯物はこっちで」
風呂場の案内だけして、勉強に取り掛かる。いつもと環境が違うせいか、最初こそなかなか集中できなかったが、いつの間にか没頭していたらしい。
部屋着姿の柳井さんに覗きこまれてハッとした。
「勉強?」
「はい。税理士の資格の勉強です」
「えらい」
その一言に、パッと顔を上げる。初めて褒められた。
きょとんとした表情の柳井さんと目が合う。グレーの上下に肩からタオルを下げているラフな格好。いつものパリッとした黒シャツ姿とは異なり、どことなく纏う雰囲気も柔らかく感じられる。
「ロクに努力もしないでデカイ顔してる文系の奴らは嫌いだけど、ちゃんと勉強してる人は好きだよ」
あれ、本当にあの不機嫌な野良猫と同一人物だろうか。優しく微笑んでくれる彼の声は、解説のときの印象そのものだ。思わず胸が高鳴る。
「おっ……れも、風呂行ってきます……!」
勢いよく立ち上がり、その場から逃げるように脱衣所に滑り込んだ。
熱いシャワーを頭からかぶる。
ーーやばいやばいやばいやばい……!
俺は今日何をした?憧れの人とドライブして、部屋にお邪魔して、連れ帰ってきて、手料理まで振る舞ってもらった……?
そんなこと、あるか!?
ついこの間まで、挨拶すら交わせない関係だったのに。
『好きだよ』
ーーいや、違う、そうじゃない!そういう意味じゃない!
どんなに必死に否定しても、うるさいくらいの心臓の音は少しも収まる気配がない。
「俺……まさか…………まじかよ…………」
これから同じ部屋で寝起きするというのに、大丈夫なんだろうか。
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる